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郵便のフレキシビリティとDMの可能性

日本郵政公社は,日本印刷技術協会,日本ダイレクト・メール協会,日本メーリングサービス協会と協力し,郵便を活用したビジネスソリューションを広く提案するビジネスショウ「ポスタルフォーラム2004」を2月4〜6日,サンシャインシティコンベンションセンターTOKYOで開催する。公社発足後初の開催となる今回,JAGAT主催の「PAGE2004」と同時開催する。フォーラムでは展示会およびセミナーを通じて「ダイレクトメールによる個客コミュニケーション戦略」について提案する。
今回,日本郵政公社の郵政事業本部 法人営業部 法人営業企画担当グループリーダー山田伸治氏に,〔1〕郵政ビジネスの今後の方向性,〔2〕民間ビジネス分野との関わり,〔3〕ポスタルフォーラムの狙い,〔4〕DMの可能性などを伺った。

郵政ビジネスの今後の方向性

――DMの場合のバリューチェーンは,当然デリバリなどを含めたCRM化である。印刷業界全体ではバリューチェーンという意識は少ないが,一方,DMはそれが非常に分かりやすい形でできており,「PAGE2004」との同時開催は非常に意味があると思っている。
このような中でまず,日本郵政公社の今後の方向,特にビジネス分野,法人分野での仕事がこれからどのようになっていくのかを伺いたい。
山田 国営でも公社でも民営でも'マーケットの中で競争し,サービスを提供して,お客様を獲得する'という点では別にどのような経営形態でも,ミッションは全然変わらない。制約条件が違うだけである。
ただ,今われわれはやはり変換期にある。役所では,なかなかマーケットの変化についていけなかった。それが公社という形になり,経営陣が民間から入ってくることで,'事業'を中心とした組織運営に移ってきた。これからの方向は,ほかの民間の会社と同じで,正しい経営をやっていくということしかない。
――公社化,民営化の方向で競争が厳しくなるとしても,これはお客様にとってはよい方向である。現在,日本郵政公社の中で一番大きな課題や,取り組みはどのようなことか。
山田 経営の仕組みを確立するということである。われわれは拠点数が非常に多い。郵便局単位の経営をするために必要なことをどう実施するかは,まだまだ検討が必要である。郵便はネットワーク産業であり,一つの店舗だけで完結するのではなく,いろいろなところと関係するため,費用配分等,組織運営の観点から経営の方法,ビジネスモデルを詰める必要がある。

民間ビジネス分野との関わり

――最近,料金の一部改定があったが,利用者側から日本郵政公社にどのような要求が多いか。
山田 いろいろなフレキシビリティを求められている。元々,公共料金的な性格があるためにいろいろな要件がある。これが利便性を妨げるような結果を招いていた。ほかには,いかにマーケットプライスに近いプライシングができるかということである。
――これからは単なる料金競争ではなく,ビジネスモデル的な競争になっていく気がする。
印刷会社でもフルフィルメントあるいはCRMなどに対応している会社がある。日本郵政公社がビジネスを拡大していくとバッティングするのではないかと心配している会社もあるが,どうであろうか。
山田 われわれだけで,マーケット全体を相手にビジネスができるわけではない。いろいろなパートナーシップやアライアンスが必要になる。これからは'ビジネス'と'物流'の2分野に注力していくが,物流の分野では,この相互展開を既に図りつつある。ビジネス特にDMの分野についてもそのような可能性があると考えている。特にプリンティングの部分を全部公社で内製化する事はあり得ないと思われる。現在,パソコンで申し込んだら,お届け先に現物でお届けする'ハイブリッドめーる'サービスを実施しているが,これは全部内製化している。しかし1回で何万通,何十万通の大口のDM需要はこのシステムではさばけない。そこまでの設備投資は常識的に困難である。
――ポスタルフォーラムをきっかけに日本郵政公社と共にビジネスを行っていければ強力なパートナーシップや体制を築けるであろう。

ポスタルフォーラムの狙い

山田 2年前ぐらいに「郵便局」というキーワードで「皆さんどのようなイメージを想起されますか」と聞くと,「地域密着」「安心感」「信頼」「ほのぼの」などが出てきた。ビジネスというイメージはあまり想起されなかった。けれども郵便事業の収益の約8割は,実はビジネスからきている。実態とイメージのギャップが著しく,これでは,営業機会を損失することにもなりかねないので,郵便はちゃんとビジネスに使えるのだと強くアピールしたい。また,2年半ぐらい前にアメリカUSPSのポスタルフォーラムに参加した。その時に,カルチャーショックを受けた。非常に盛大なイベントで,いろいろな情報が提供され,かつさまざまなビジネスチャンスが提供されていた。なぜ日本にはこのようなものがないのだろうか。このようなイベントはダイレクトマーケティング普及のためにも非常に効果的である。このような経験を踏まえ,今回ブランディングとダイレクト・マーケティングの普及を目指し,日本でもポスタルフォーラムのスタートを切った。
――法人営業がオープンにマーケットに関わるのが今回のポスタルフォーラムだが,具体的な訴求点を伺いたい。
山田 出展してほしいお客様というのは,先ほどのバリューチェーンのどこかを担う方々だ。一番川上からいえば,マーケティングのプランニングをする人,CRMベンダー,クリエイティブ部門,印刷,それから封入やマーケティングなどである。来場してほしい人は,販促活動をやっていればだれでも来てもらいたいと思う。
一番伝えたいことは,マスマーケティングのみではだめだという話に帰着する。マスマーケティングの弱点は,効果測定ができない,ROIが確定できないということである。
その点,ワンtoワン的なアプローチはきっちりROIの測定ができ,メディアとして全く性質が違う。
――マーケティングの効果測定をしなくてもよかった右肩上がりの時代とは,全く事情が変わってきている。印刷でもやはりDMという品目は強いのである。
山田 後は,本当にいかにDMの付加価値を増していけるのかだと思う。
――アメリカはDMが非常に多いといわれるが,それはいわゆるマスのDMで,ジャンクメールも多い。われわれがアメリカを追い掛けるのは意味がない。
やはりDMというのは自分に必要なものが来るのだというように一般の人の物の見方も変わってもらわなければいけない。そこら辺に向けて,バリューチェーン全体でうまくコントロールできるようなものにすべきだ。
山田 DMを含めて,ワンtoワンメディアは時間軸がすごく違うのではないか。要は一番目指すべきは顧客の維持で,いかに長い時間維持できるかということである。販促のプランは,長いタイムスパンで考えていかないとうまくいかない。
DMはメールに比べて,全然情報量が違う。画面で読めるもののほかにDMをやらないと,販促効果は出ないと思う。もう一つは,アクセスするのに必要な時間等のエネルギーが異なる。パソコンを立ち上げて,メーラーを立ち上げて見るのに対し,DMは郵便受けから取り出すだけである。

DMの可能性

――アメリカは通信教育などが盛んであるように郵便を土台にしたビジネスが非常に多い。それが社会的に認知されている。ディスタント・ラーニングでMBAも取れてしまう。
日本では,近年まで通信販売ですら怪しいもののようにいわれていた時代があった。このような点もアメリカを参考に見直し,可能性を探る必要があると思う。
山田 最初に訴求する時はディスタントな訴求になるではないか。最初のDMでは,巧妙な仕掛けが必要となろう。マーケティングのうまさを感じるDMは,やはり日本ではまだまだ少ない。
DMはこうやったらこれだけレスポンスがあるという正解はなく,その会社の売っている物やサービス,あるいはクライアントによってレスポンスは,全然違う。やはり,トライ・アンド・エラーで,レスポンスを上げていくというのが一番の基本である。
法人営業部ではトータルにDMに取り組んでおり,販促のプランも提案している。中には代理店に交じってコンペに参加し,プレゼンで勝ったというような事例も出てきている。
また大口販促物では,今の体系を少し先行して,例えば一定の重さまでだったら,いくらという選択制の料金の導入も行っている。
――印刷物を作る場合にこれぐらいの紙でこれぐらいのページ数だとちょうど料金区分の境界ギリギリということがよくある。
山田 よくある印刷物については区分けのしやすい体系を目指していかなければいけない。

印刷業界とのコラボレーション

山田 郵便事業本部の中に,営業企画部と法人営業部というのがあり,法人営業部は,基本的に中口以上の法人の営業を担当している。法人営業部の中には,法人営業の企画・戦略部門,と直接営業する部門がある。
主だった都市,県庁所在地クラスの大口担当については,郵便局単位で法人営業課がある。約70拠点に1000人ぐらいいる。
大口とは,本社では年間売上高10億円以上,支社クラスで1億円以上の取り扱い量で,各県単位で顧客管理を行っている。DMに関してはこの各拠点の担当にご相談いただきたい。
しかし,今まで印刷業界との接点というのはなかった。ポスタルフォーラム以外でも研究会などを行い情報交換等ができればよい。3年程前に,法人営業の中で転換点があった。それまでは'かもめーる'とか記念切手を作ったりして,物売り的な営業を行っていた。これらは,売れるロットも少ないし,継続性もない。従ってそうではなく,郵便をどうやって使ってもらえるか,という観点から,販促X便をコアにして,提供できるアプリケーションをまた売るというスタイルに変えてきた。
これはまさに紙に印刷するだけでは発展性がなく,その周辺にアプリケーションで商売していくようになっている印刷業界の方々と同じである。だからそこでいろいろな接点が出てきているのではないか。DM以外にもいまだ多くの接点があるかもしれない。このようなコラボレーションを今後ともお互いに育てていきたい。

(『JAGATinfo』11月号より)

2003/11/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会