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スクリーン印刷製版会社存亡の危機に

◆福田 正樹

シルクスクリーン印刷でインクジェット出力の普及に伴い,仕事量が激減したのは短納期小ロットのポスターです。バーゲンセールなどの展示期間が短く耐光・耐水性が高くなくてもよい物は,かなりインクジェットに代わりました。一時は空気と水以外は何でも印刷できるともてはやされましたが,近年いろいろな素材に直(じか)に印刷できるインクジェット出力機が展示会で出品されています。それはシルクスクリーン印刷にとって,脅威以外の何ものでもありません。

シルクスクリーン印刷は,特殊印刷の中の孔版印刷の一部で,アルミのパイプで枠を作り,テトロンやナイロンのスクリーン(紗)を張り,そこに感光乳剤を塗布しポジフィルムを密着させ露光し現像処理し完成します。できた版にインキを載せてスキージと呼ばれるウレタン製のヘラでインキを押し出すと,ポジで黒いところは光が当たらず感光しないので,スクリーンが見えインクが通り抜け印刷できます。サイズはA・B判の規格品もありますが,かなり自由なサイズを作れます。紙はもちろんアクリル,鉄,ゴムなど成形物や箱形のような立体に,POPやポスター,商品ディスプレーや案内板などで目にされることは多いと思います。
シルク印刷はほかの印刷方式より設備投資が安く始められるので,比較的小さい規模で印刷を行っているところでは,パソコンを使ったことがないというようなことがあります。そのため,なかには印刷を受注したら原稿がフロッピーディスクなので,何が入っているか分からないから,当社に見せてほしいと言われることもあるようなのが現状です。

私はスクリーン製版会社に勤務して22年になりますが,数年前までは印画紙などの版下原稿を撮影してレタッチ作業をするほうが多かったのです。それが,あれよあれよという間にデジタル原稿が入稿し始め,対応できないと取引きしないとまで言われました。当時,社内ではまだパソコンがなく,私と友人とでMacを持っていましたので,自宅に行って仕事をして,でき上がると会社に戻るという日々でした。
そして,初代PowerMacとPSプリンタ,ソフトなど250万円で購入,Illustatorのバージョンは3.2でプログラムのフロッピーはナント! 1枚のみ,ほか11枚はフォントやチュートリアルでした。当時は高価と思いましたが,今は買っておいてよかったと思います。その後,アグフア社製のイメージセッタSelectSet5000とMac一式を導入し,現在は富士フイルム社製LuxSetter5600を使っています。全くゼロからのスタートでしたので,スクリーン印刷を知っている方が少なく,相談できないことが多く毎日が時間との戦いでした。

スクリーン印刷では版画製作のように,各色を特色扱いで分色することがほとんどで,時には20色ぐらいにもなり,なおかつお客様の使用するインキの隠ぺい・透明度などによって刷り順が違い,分色(トラップ)に時間が掛かります。印刷サイズやスクリーンの延びなどで,少なくて0.1mmから多い時は数mmの特色ベタと色の重なりを作ります,Ilustratorデータですと,チョークやスプレッド処理をしてフィルム出力して製版します。デザイナーが制作し,校了後のデータを各色別にするのが主な仕事なのですが,一見して分からないようなところで製作者の技量が分かってしまいます。カンプどおりに出力ができるか,どのような工程で最終製品になるかなど考えて作られたデータは多くない気がします。
Illustratorの保存形式でもエンコードJPEGの埋め込み画像になっていたり,トンボでさえアタリ罫の線幅分外に付いていたり,植版する時は作り直すことも多々あります。読者の中にも経験がある方もいると思います。
DTPエキスパート試験に合格して良かったことは,お客様へのアドバイスやこちらからの要望などを的確に伝えることができることです,この試験でかなり勉強になりました。今まで無我夢中だった実務が,目からうろこが落ちるがごとく「パーっ」と理由が分かったこともたくさんありました。今後,印刷業界で生きていくには新しいことにも目を向け一歩でも先を予見でき,お客様より信頼され,より良い製品ができるような真のエキスパートを目指して日々精進を重ねていきたいと思っています。

 

月刊プリンターズサークル連載 「DTPエキスパート仕事の現場」2004年1月号


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2004/01/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会