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本格化する電子書籍ビジネス

―専用端末は普及を後押しするか?

電子出版の市場にさまざな形で変化が現れている。ソニーや松下,東芝といった大手家電メーカーが参入し,電子書籍に「読書専用端末」という新しいカテゴリを生み出した。また,確実な課金を可能とする携帯電話も新しい「読書端末」に加えられ,独自に市場を形成しそうな勢いすらある。全体に活況を呈してきている電子出版市場だが,その反面,フォーマットや端末の乱立という混乱を招いていることも事実だ。混乱の中にあって,ノウハウをもつ者が新たにコンテンツを各フォーマットに「変換」するという,新しいビジネスも出てきている。混沌としつつも,ついに「電子出版市場」が成立しつつあるのだ。

乱立するフォーマットと読書端末

参入する出版社や利用者の増加など,活性化している電子出版の現状は喜ばしいものと言えるのだが,その反面,混乱の度を増している側面も見受けられる。ここで,現在,存在するフォーマットについて整理してみよう。

電子出版の歴史の中でパイオニア的な存在であるボイジャージャパンは,設立当初よりエキスパンドブックで個人による電子出版という一つのムーブメントを起こし,商業出版においても数多くの作品を電子書籍化してきた実績をもつ。現在は個人出版向けのフォーマットであるTTZと商業出版向けに開発したドットブックを中心に展開している。ドットブックにはPDA(Palm OS)に対応するPooDOCが用意されている。
電子文書フォーマットのスタンダードであるPDF(Portable Document Format)と,PDFに著作権保護機能を付与したAdobe eBookを擁するアドビシステムズは,世界的に見て電子書籍フォーマットの標準に最も近いところにいるのは間違いのないところだろう。最近では,Adobe Readerへのビューアの統一やPDA(PocketPC,Palm OS)への対応を進めるなど,使い勝手を向上させているが,国内における電子出版市場に対しては今は静観の構えを取っているようだ。
後発ながら大きく飛躍してきたのがシャープのXMDFだろう。もともと同社の電子書籍サービスは同社のPDA『Zaurus(ザウルス)』のみを対象としていたが,XMDFの投入を機に大きく変化してきた。まず,2001年のZaurus対応を皮切りに2002年にはPDA(Palm OS,PocketPC,Windows CE)へ対応を拡大し,PHSやFOMAを介して電子書籍コンテンツをPDAにダウンロードするNTTドコモの「M-stage Book」開設に協力した。さらに2003年には携帯電話で電子書籍コンテンツを見ることができるCompact XMDFを開発。これを採用した『ケータイ電子書店』を開設した。携帯電話へ対応を果たしたことで,現在,XMDFがもっとも幅広く端末に対応しているフォーマットとなっている。
そして,これにパブリッシングリンクが採用したソニーの読書専用端末のBBeB(Broad Band eBook)規格,電子書籍ビジネスコンソーシアムが採用した松下電器産業の『ΣBook』が加わることになる。
BBeB規格は電子書籍コンテンツ向けの規格としてソニーが開発したもの。BBeBは同社のDRM(デジタル著作権管理)技術であるOpenMGに対応しており,著作者や出版社の懸念であった著作権の保護・管理を確立し,コンテンツの安全性を確保している。仕組みとしては,著作者が執筆した作品を出版社またはパブリッシングリンクがBBeB形式でコンテンツを作成し,パブリッシングリンクが運営する『Timebook Town』を通じて流通・配信を行う。読者はここからコンテンツをいったんPCにダウンロードし,メモリースティックやUSBを使ってコンテンツを読書専用端末に転送する。
松下電器産業の『ΣBook』もほぼ同様の仕組みになっている。配信を行うイーブックイニシアティブジャパンが運営する『10daysbook』や松下電器産業が開設を予定している専用販売サイトを通じて販売される。コンテンツは著作権保護機能CPRM(Content Protection for Recordable Media)に対応した電子書籍フォーマットSD-ePublishを活用しており,PCにダウンロードしてからSDメモリーカードを介して『ΣBook』に転送する。PCにダウンロードする方法以外に書店店頭での書き換えサービスも検討されている。
ところで,これらのフォーマットや端末には基本的に互換性がなく,なんら統一性はない。それぞれが勝手気ままにやっている状況にあり,読者にとってははなはだ迷惑な話と言える。ぜひ,規格の統一を図っていただきたいものだ。
このように標準のフォーマットが定まらないままとなっているわけだが,これは多くの読者や出版人が求める「新しい本」としての電子書籍の最終形が見えないことも一つの要因と言えるだろう。その点,手のひらに収まり,持ち歩いて読むことができる形態をもつPDAに一つの回答を求め,さらには究極的な形として紙の本を模倣した読書専用端末が登場したのは,とても理解しやすい動きと言えるだろう。

千葉英寿(ちば・ひでとし)

プリンターズサークル1月号「Focus2004」より抜粋

PAGE2004コンファレンスでは,見えてきた電子書籍ビジネスというテーマで電子書籍のセッションを開催します。

2004/01/05 00:00:00


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