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InDesignのメリットを活かしたワークフローの見直し

 Adobe InDesign2.0は,XMLやPDFなど多様な入出力形式のサポート,OSやプラットフォームの柔軟性,周辺開発のしやすさなどに特徴がある。
 メインツールをQuarkXPressからInDesignに切り替えつつ,IllustratorやPhotoshopとの親和性を確保するなど,コスト削減を図っているビーワークス取締役事業部長丸田敏晴氏からお話を伺った。

効率化のために検討されたInDesign

 ビーワークスのメンバー約35名は,ソフトバンクに常駐して媒体の制作に当たっているが,その中で月刊誌「i-モードSTYLE」をInDesignで運用していこうという動きになった。
制作環境の大部分はMacOS 9でQuarkXPressをメインとした制作方法を取っている。内部のデザイナーも全員がQuarkXPressを使いこなし,フィニッシュまでもっていくというのが大半の流れである。
 「i-モードSTYLE」のリニューアル前のフローは,外部のアートディレクター,デザイン事務所がデザインをIllustratorで組み,それをビーワークス内部でQuarkXPressに置き換えてフィニッシュにもっていくというものだ。IllustratorからQuarkXPressへのデータ変換の部分は,非常にアナログな世界であり,そこでお金が取れるかというとなかなか取りづらい中で仕事を行っていた。

 効率が悪いということは,デザイン事務所側とビーワークスの共通認識であった。そこで,効率良くするにはどうしたらいいのか。InDesignが使いものになるなら,デザイン事務所がInDesignで作成し,ビーワークスでもInDesignでフィニッシュまでもっていくという流れが一番いいのではないかと考えた。
 デザイナーは,QuarkXPressより直感的に作業ができるIllustrator,かたやDTPやフィニッシュという下工程を処理するところは,効率化を突き詰めるためQuarkXPressを使いたがる傾向がある。そこで,今回その2つを併せ持つと言われるInDesignを使ってみようと,デザイン事務所とビーワークスで結論を出した。

まず,始めに2折分をInDesignに移行

 今回,出版社の業務局がOKを出した背景には,InDesignを使って効率化ができるなら,それをコストに反映してほしいということがあった。ビーワークス側も,コストダウンということで,切り抜きの料金分は下がる可能性があるというメリットを出した。さらに,デメリットはないという暗黙の了解の下にスタートを切った。
 制作環境は,OS X環境とOS 9環境を共存させている。それまで使っていたOS 9のハードディスクを新しいG4のデュアルに増設し,起動ディスクを変えることによってOS XとOS 9を使い分ける。

 リニューアルの予定もあったため,従来どおりQuarkXPressで処理するか,InDesignを導入するかと考えたが,まずセンターの2折分をInDesignで進行させ,残りはQuarkXPressで処理することにした。QuarkXPressはOS 9,InDesignはOS Xの混在で進行した。
 InDesignの習熟度は,スタートして2〜3カ月程度でスピードも未熟なものであった。従って,習熟度の高い女性デザイナーが担当した特集については,InDesignで一からデザインしたが,リニューアルのデザイン部分に関しては,InDesign進行の部分も,まずQuarkXPressでデザインをして,OKになった段階でInDesignに置き換えるというフローを取った。

予想より時間を要した処理スピード

 仕事をしている中では,やはりいろいろトラブルが起きた。処理スピードもQuarkXPressに比べ差が出た。何かオペレーションする度にマシンが考え込むという状態もあった。
 今後2折分からもう少し増やす予定であるが,現在OS 9,CIDフォントで運用している。いろいろテストをしたり実践をしたが,現在の環境においてはOS 9でCIDフォント,InDesignを使っていく構成が一番スピードが出るようである。
 QuarkXPressに比べればスピードは落ちるが,Illustratorの少し重いデータをレイアウトしているという程度のスピードまでは出ている。オペレータやデザイナーの習熟度が上がっていることもあり,スピードの点ではまずまずのところまでは来ている。

写真切り抜きや日本語処理などのメリット

 InDesignのメリットとして一番大きいのは,写真切り抜きの部分である。QuarkXPressでの運用ではパスを切らざるを得ないフローになり,まずアタリを取り,それをパスでラフで切り抜き,本スキャンしてもう一度丁寧に切り抜くという作業が必要になる。
 InDesignの場合,レイヤにしてバックを飛ばすという作業で切り抜きの効果が得られるので,大幅な効率化ができる。もう一つは文字組みの点であり,InDesignはQuarkXPressに比べて日本語の組版が強い。フォーマットの段階で,詳しい文字設定ができる。
 例えばカギ括弧の前後やパーレンの前後は,QuarkXPressの場合は手で詰めていくか,エクステンションで詰めていくというような作業が必要になる。InDesignの場合は,あらかじめテンプレート上に設定しておけば,どのオペレータが文字を流し込んだとしても,仕上がり具合は同じになる。校正作業を含め非常に大きいメリットである。

 デザイン面では,ドロップシャドーや,従来Photoshopに戻って貼り込み直していたような作業も,InDesign上で簡単にできる。表組も,Excelライクな仕上がりになっており,セルごとに延ばしたり縮めたり,表組全体を大きくしたり小さくしたりできる。
 また,アドビ社の製品同士のためIllustratorやPhotoshopとの相性が非常に良い。また,InDesignのベジェ曲線はかなり使える。簡単な図版程度ならInDesign上で描けるのである。 私が考える最適なInDesignの利用は,切り抜きや表組みが数多い雑誌,カタログなどである。
 また印刷会社などで多人数でオペレーションをしていたり,いろいろな媒体が混在して流れているところでは,ルールの部分をドキュメントに埋め込ませることができるので,メリットは大きい。

InDesign導入による新しい効果

 当初はスピードの面とオペレータの習熟度の面で苦労したが,InDesignを使って良かった。その理由は,現段階である程度QuarkXPressを使ってのレイアウト,デザイン,オペレーションの効率化は,やりきってしまっている状況にある。行くところまで行き着いて,現場の人間も新しいことを発見したり,覚えるという向上心を忘れつつあるという危惧(きぐ)もあった。
 今回,InDesignに取り組んでみて,メンバーの力が落ちたのではなく,そういう機会を与えていなかったマネジメント側に問題があるのだということを痛感した。新しいことに取り組んでいくメンバーの姿に,前向きなもの,潜在的な力をもっていることを感じた。

 InDesignも,スピードの面では完全とは言えないが,組版機能や他ソフトとの連携などを考えると,スピードをクリアした時にはQuarkXPressに取って代わり主流になっていく可能性は十分あるのではないだろうか。
 今後,QuarkXPressをバージョンアップして使っていくか,InDesignに切り替えて使っていくのか,世間の動向を見ながらではあるが,そろそろ判断しなければならない時期が近づいている。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2004/01/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会