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IT時代に合った印刷ビジネスモデルを発想する

多くの人は紙の印刷は将来ともなくなりはしないが、印刷のビジネスは今までと同じではないだろうと考えるようになった。そのひとつの例として、個人が出す年賀状のようにコモディティ化してしまうとか、日常のオフィスでプリンタで文書が作られるなど、明らかになってきた事柄らいくつかある。しかし印刷ビジネスの主体である、ある程度量の大きい印刷物については、将来ともどこが同じで、どこが違うか見極めるのに、大変迷っている人が多い。

PAGE2004では、通信教育用教材のバリアブルプリント【B6】のように、オンデマンド・パーソナライズ印刷で、大きな仕事まで行うようになった具体例も紹介されるが、このような例をいちいち調べて、どの例が自社にあてはまるとか、あてはまらないという検討をしている余裕はない。いくら調べる努力をしても、自社や自社の得意先と同じ条件のところはないからである。だから、こういった例から、印刷物の企画や発注、制作、利用という流れにおいて、ITの利用という共通の条件が与えられているところでは、従来のやりかたからの見直しの視点にどのような共通性があるのかという、少し抽象的だが汎用性のある考え方をする必要がある。

PAGEコンファレンスのクロスメディアトラックにはいくつも例があるように、ITによる印刷物制作の見直しは、単に印刷会社の中の制作プロセスの合理化という段階を超えて、新たな仕事の仕方としてもう始まっている。これら、今まで印刷されていたデータの流れやどのようにデータ利用されるべきかから考え直すことは以前からもいわれていたことである。このような考え方で自社の仕事を分析することが行い難い、あるいはピンとこないならば、あなたの頭の中にある印刷ビジネスモデルが固定的になりすぎていて、それが現実にあなたの周囲で起こっていることの理解を妨げる原因になっているのではないかと、疑ってみるべきである。

従来の印刷ビジネスモデルの枠を越えて、IT時代に合った印刷ビジネスモデルを発想することは、当然ながら従来の印刷人には得意でない。しかしそこにこれからの印刷ビジネスの突破口があるならば、そうするしかない。考えはじめるべき第1のポイントは、印刷会社に印刷物の注文が来る以前の段階で、発注の準備がどのようにされているかである。構築事例:製品情報の統合活用とクロスメディア【A3】では、クライアントの内側でどのような見直しがあったのかが語られる。印刷物の制作費や手間については、印刷会社の内側のことはわかっていても、得意先まで含めてトータルでどれくらいかかっているのか、どうすればよいのかというのは、なかなか見えない。その部分を中心にした【A3】セッションは、印刷会社の人にとっても貴重な情報であると同時に、発注側の人にとってもその分析手法と、さらに新システムを企業全体の中にどのように広めていくのかのよいヒントになるだろう。

考え方の第2のポイントは、印刷された情報を誰がどのように使うときに、その印刷物の値打ちが発揮されるのか、である。従来は印刷物であったがために情報の利用が制限されていたものが、情報流通手段としてオンデマンドやオンラインという道も併せて開かれることで、情報提供者のビジネス機会が広がるであろうことは、「ワンソースマルチユース」のように以前からいわれてきた。これも今日のXMLやサーバ技術、ネットワーク技術の進展によって、実現の仕方が明確になったので、今度は本当にオンデマンドやオンラインでの採算性を考えて、自分達の行うべきことを絞り込む段階にきた。

しかしかつての印刷デジタル化とちがって、XMLやサーバ技術、ネットワーク技術などはパソコン上でどこでもつかえるほど敷居が低くなったとはいえ、それぞれのIT技術には専門性が要求されるので、1社でシステム全体を考え、有効なシステムを構築することは非常に難しくなってきた。また情報の利用機会を増やすという視点では、amazonなどにみるアフィリエイトのように、他のシステムと有機的に連動するようなことも考えておかなければならない。特にオンラインのビジネスは「囲い込み」ではなく、同業他社とうまい関係を作るビジネスモデルによって、ともに伸びるように考えないと採算がいつまでも取れないかもしれない。

PAGE2004の基調講演は、「コラボレーション」を大きなテーマとして掲げて、発注者、関連業者、開発者、最終利用者、同業者など、情報ビジネスをともに支えているところのマルチ視点で、今何が起こっているか、どのように協調していくべきか、自社は何をウリにしていくべきか、を考える機会になるように準備をしている。ビジネスの改善は、ITの力、ネットの力を追い風にして、今の努力が将来何倍もの実を結ぶように考えたいものである。

2004/01/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会