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今までのやり方を「守り通す」ことはできない

PAGE2004【A3】セッション 製品データと印刷データをシンクロさせる構築事例:において三菱電機 121ビジネス推進センター長 西館博章氏は、印刷業に対してショッキングな発言で締めくくった。印刷物作りの改善に関する印刷業からのソリューション提案は、印刷業がやるべきことの発散になりがちで、それよりはプリンティングに特化したところをキチンとやって欲しいという内容だった。三菱電機の内部で製品情報を顧客に伝えるのに、従来は事業ごとタテワリの製品情報管理を行っていたので、ひとつの顧客に対して関連部門を横通しして製品をミックスしたセールスが行い難かった。情報は散在しバラバラに更新されていたので、それらを集めていろいろなメディアに展開するには大変な手間や時間がかかった。そこで製品情報が一元管理でき、その中から必要なものを抜き出して自動組版できるスキームを考えたのである。

自動組版は印刷会社でも提案できるが、社内各事業部隊に散らばる情報源の人々にそれぞれの製品の仕様データ(スペック・性能・写真・図・価格など)を、販売部門用データベースとして一元管理するように話をまとめるところは社外からはできない。むしろデータブックやカタログに掲載する商品ページを、データベースの製品データから自動組版することに抵抗したのが、広告代理店や印刷会社であったという。カタログの改訂が緊急なら「徹夜でもがんばります」という返事であったが、三菱電機側が求めていたのは、WEBにおける改訂のスピードや1to1対応に相当する事を紙媒体でも行いたいというものだった。

結局はデータベース化とそれを運営するための原稿作成支援機能によって、300ページのカタログなら改訂作業に2〜3週間かかったものを2時間で改訂でき、セールスの要求に合わせて情報のマルチユースができ、スペックシート、カタログ、WEB、メールマガジン、CD、パワーポイントなど情報の活用度は高まり、印刷物に限っても相当発注が増えてしまった。セールス活動とシンクロした印刷であるから、印刷が増えることはマイナスではないだろう。ただし、印刷会社の条件としては、自動組版をするために抽出した原稿データのデータベースDBDBと自動組版の投資は行わねばならず、しかもDTP作業は殆ど存在しないために、従来のような売上内訳ではなくなってしまう。

このように印刷のビジネスモデルがすっかり変わって、待ったなしでデータを取り出して刷るだけになってしまうことに印刷会社としては抵抗を感じているなと思わせるところも伺えた。しかし顧客のビジネスが前進することを第1にしないで、自分の会社の利益だけを増やそうというわけにはいかない。国内需要が中心の印刷産業以上に、経済のグローバル化や受注構造の変化にさらされて大改革を迫られている得意先業界は、今の日本には数多くあるのである。そういった得意先の状況を理解して売り方を変えていくのが印刷業の務めであり、従来と同じ売り方を続けていて会社が縮んでいくのはあたりまえだ。

【D6】セッション印刷ECの本番に備えてでは、かつてのECサイトへの期待の誤解に対して、楽天のB2Bサービスである楽天ビジネスの佐藤事業部長は「インターネットは自動販売機ではない」のであって、むしろ時間空間の制約を超えた「究極の対面販売」として使いこなしていくときに商機が広がっていくことを、楽天ビジネスの出展者を例に説明した。ECの成功例を聞いても「そんなうまい話はざらにはないだろう」と思う人が一般には多いが、インターネットで受注したい会社と発注したい会社が結ばれることの意味することは、いつでも既存の取引先のしがらみを越えた、自社のビジネス用件にもっとも近い相手を探すことができることであり、既存の取引先に「No!!」をいうと、それを覆す会社がどこかから現れてしまうことでもある。

例の話でもいくつか出ていたが、印刷発注者が「従来の発注先ではもう間に合わない!」という時に、楽天ビジネスに登録している何百社の印刷会社に案件を投げて、間に合わせてくれるところが探せる可能性がある。そして新たな関係ができてしまう。これをきっかけに信頼をはぐくむような応対をしていけばビジネスが成長する。2000年以降は楽天に限らず、amazon.co.jpでもヤフオクでも、ECの勝ち組はグングン伸びるようになっている。そのECが既存の印刷営業に楔を打ち込み始めているので、得意先に対してメリットを明らかにしていない印刷会社は、いざという時に脆いであろうし、防戦をするにしても大変化を余儀なくされるだろう。

三菱電機のように発注者内部の変化や、ECというフェアな競争にさらされる中では、従来の総花的デパート的な営業は力をもたず、やはり月並みではあるが経営戦略はコアコンピタンスから再出発するしかないだろう。つまり、自社のビジネスとは何か、何が得意で、どこで儲ける、各論としては得意先にどのようなメリットを提供できるということを、キチッと表現できて社内の意識も共有できるようにしないと、仕事はよそに流れていくばかりになるだろう。

2004/02/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会