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MIS投資をプラスにするためのポイント

日本の産業一般におけるIT投資の規模を対GDP(付加価値)比率で見ると、ソフトウエアで1.5%、コンピュータ本体・付属機器および通信機器といったハードで3.2%となっており、全体では4.7%になる。100名の印刷会社であれば、ソフトウエアに対して年平約1500万円、ハードで3000万円〜3500万円の投資になる。印刷業は小規模企業が多いので平均値は当然産業一般平均よりも低くなるだろうが、それでもかなりの投資をしていかないと世の中一般のIT化について行けないということになる。しかし、そのような投資は、費用対効果の意味で果たしてプラスになるのだろうか?

PAGE2004のMISトラック「これからの印刷業MISへの新提案」で話されたひとつの内容は、どのようにすればIT投資をプラスにできるかである。 結論は、事務処理(事務計算と伝票作成)機能だけのコンピュータ化というIT利用ではなく、「コミュニケーションツール」としてのITの機能を有効に利用することがポイントになるということである。
コミュニケーションツールとしてのIT利用とは、
1.個別アプリケーション間コミュニケーションの実現(統合システム化)
2.取引会社を含む人と人とのコミュニケーションツールとしての利用
3.CIMにおけるMISと生産機器とのコミュニケーション実現
4.他社のMISとのコミュニケーションを実現するEDIとしての利用
というものであり、1から4にいくにしたがってその効果も大きくなる。

上記3、4は、業界一般としては、これからの技術動向を見ながらの研究課題となるが、1、2は、技術的な意味では現時点でも可能なことである。
独立した個別システムの集合としてのMISでは、それぞれのアプりケーションでのデータ利用のために再入力や転記が必要である。そして、その再入力時の入力ミスによるさまざまなトラブル発生が避け難い。これを1のような統合システム化することで、再入力・転記といった業務負担や出力に関わる時間と経費を軽減すると同時に、トラブル発生を防止することができる。
上記2の、取引会社を含む人と人とのコミュニケーションツール化とは、端的にいうならば電話に縛られている社員を電話から開放するとともに、同時に複数の相手に連絡が必要な場合の処理を一度に済ませるようにすることである。
一人の社員が電話をしていれば、その相手も電話口にいるわけだし、電話の相手がいない場合にはそれを見つける人が必要になる。したがって、電話をしている社員が一人いれば、3人分の時間を拘束していると思うべきである。 ひとつのことを複数の相手に伝えるとなれば、全体して相当に大きな無駄が生まれることになる。
口頭、電話での連絡は、伝言ゲームのように、その連鎖が長くなればなるほど不正確になるのが普通である。実際に、印刷会社における事故の半分以上は連絡ミスによるものである。

上記1、2は、MISへの投資をプラスにするには、BPR(Business Process Reengineering)の視点が必須であることを示している。言い換えれば、業務の流れあるいは情報の流れをショートカットすることである。
具体的には帳票を全廃することであるが、この場合、Macユーザーを含む全社員を対象として実現することが原則である。当然、別の場所にある営業所や工場など、全ての部署の利用も前提とすることである。全社員を対象とするとアプリケーション配布の負担が非常に大きくなるので、Macユーザーを含む利用という条件を含めて考えると、Webの利用が有効である。また、遠隔地の営業所を含む利用においては、インターネットVPNの利用が、安価なネットワーク構築を可能にする。

渕上印刷(商用印刷主体、従業員数240名)では、上記2の「取引会社の人とのコミュニケーションツール化」はしていないが、Webを利用したMISによって以下のような投資効果を出している。
1. 管理人員5名を直接作業部門に異動できた。(同社は、いわゆるリストラという名の人員削減は行わない主義である)
2. 連絡ミスでの刷り直し事故が激減した。
3. 外注費が5〜6%削減できた。
4. 日報記入・日報入力工数が不要になった。
5. 作業量(生産額)の計上漏れがなくなり、管理精度が向上した。
6. 遠隔地営業所との時間差が縮まり指示遅れが減少した。

また、MIS投資をより有効なものとするためには、「経営管理は、結果の管理だけでなく作業途中での予算管理が大切である」との重要な指摘もなされた。
少なくとも日本の印刷業の経営管理においては、結果の良し悪しは非常に気にするが、さまざまなデータ、情報を有効に使って、価値の水漏れを事前に防ぐ、あるいは次の改善に結び付けているように使うという意識が希薄であることは、さまざまなことから伺われることである。
渕上印刷は、同社のシステム開発に当って、各種業務を分析して35項目に渡って問題摘出と対策を取った時の予測効果を明らかにしている。そのうちの14項目については金額面での効果予想を出している。このようなことが出来る管理水準の企業はかなり少ないといわざるを得ない。A2セッションでも指摘されたことだが、現状が客観的に把握されていなければ投資効果も予測できないから、従来と異なる内容の投資にはなかなか手だ出しにくいということにもなる。日本におけるCIMの普及は、そのことによって予想以上に遅れる可能性もある。

(Page2004 コンファレンス MISトラック「これからの印刷業MISへの新提案」より)

2004/02/11 00:00:00


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