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PODはハード技術からアイデア勝負の時代へ

PODという言葉が登場した当初は、もっぱらハードウエアの技術に重点がおかれ、「小ロット多品種、在庫レス」がキーワードであった。ところが、PODに求めるユーザーの価値が次第に変化し、アイデアやサービス、商品作りといったソフトの部分が求められるようになってきたのではないだろうか。
PAGE2004コンファレンス「通信教育用教材のバリアブルプリント」では、プラネットコンピュータ・深澤秀通氏をモデレータに、増進会出版社(Z会)・大矢忠和氏、トッパン・フォームズ・牟田克彦氏をパネリストにお迎えし、事例をもとに、PODに対する顧客ニーズ、将来展望を探った(写真=会場)。

Z会では、中学生向けの100ページを超えるボリュームの通信教育教材「Z Study」を9万人の受講者向けにカラーパーソナル教材として提供している。「Z Study」は、在学校、志望校、科目、分量、学習項目、レベル、進度によって個別化されており、前例のないパーソナライズ大量印刷を実現したといえる。

PODとの出会いは必然だった

大矢氏は、Z会のこれまでの歩みを振り返ると「必然の結果としてPODとの出会いがあった」と語る。同社は、1931年、旧制中学生向け通信教育を開始したが、教育行政の動きとともにZ会の取り組みも変化してきた。「個性重視」が表明された臨時教育審議会答申(1987年)を機に、子供達を巡る教育事情の質的な変化が起こり、Z会も子供達の多様化への対応として、志望大学別にコースを細分化するようになった。

Z会の一貫した役割は「子供達一人ひとりの目標の達成に向けて、効果性の高い方法を用いて最大限にバックアップすることであった」と言う。その効果性を高めるためには、「子供達の学習意欲を向上させること」「子供達の目的に合った解決方法を提示すること」で、1997年、第1世代のPOD技術を使った墨1色の教材を経て、2002年、第2世代のPOD技術を駆使した「Z Study」が誕生した。カラーで解像度も上がり、よりきめ細やかにページ建てできるようになった。このようなPOD技術と関わるようになったのは、「顧客(子供達)がZ会を突き動かした」からと大矢氏は語る。

こうして、子供達にとっては、納得度合いの高いサービスを受けることができるようになり、Z会にとっても、違和感のない顧客への対応が可能になったと言う。
そしてまた、パーソナライズテキストの制作には、トッパン・フォームズとのパートナーシップが欠かせなかった。

当然ながら、「Z Study」を手がけた結果、気づいた課題も出てきた。さしあたってのテーマは、「一般印刷に引けをとらない仕上がり」である。クオリティやコストに関してはまだ発展途上だ。「完成度を高めるためには、関係者一同パートナーシップを強く意識して前進することが大切」と強調していた。

紙にパーソナル性をつける

トッパンフォームズでは、PODではなくDOD(Digital print On Demand)という言葉を使っている。印刷業にとってオンデマンドサービスはあたりまえのサービスであり、可変プリント(バリアブルプリント)ができることがデジタル印刷(DOD)の特徴である。

「Z Study」の特徴は、バリアブルページであることのほかに、大量印刷していることがあげられる。一般印刷に比べると生産量は少ないが、「デジタルプリンタのアプリケーションとしては世界最大ではないか」と牟田氏は述べる。IT関係のニューメディアに比べて、紙はオールドメディアと言われているが、「紙そのものにパーソナル性、オンデマンド性といったデジタル印刷による機能をつけることで、印刷に携わる人々こそが、新しいマーケットとユーザーメリットを作ることができるのではないか」と締めくくった。

POD、バリアブルの可能性は?

ディスカッションでは、コンテンツ管理の視点から、牟田氏は「現状のコンテンツはPODにしか生かされていないというもったいない状況がある。コンテンツに汎用性を持たせ、業界の動向に応じて素早く活用する仕組みを提供したい」とコメント。
大矢氏は、今後の展望について「もっと身軽になって子供達と付き合いたい。そのために『POD+α』かもしれないが、その技術を引き続き運用していきたい」と語り、牟田氏は、PODのビジネス展開の可能性について「1to1サービスを期待する業種がメインターゲットであり、とりわけ教育業界は可能性が開けている。法人だけでなく、コンシューマ向けのサービスも提供していきたい」と述べた。

深澤氏が、「PODは、印刷技術ではなく、一種のITソリューションになってきている。PODのキーは、ビジネスロジックをいかに整理して顧客利益を最大化するかというところに来ているのではないか」と語ったように、もはやアイデア勝負の時代に突入しており、印刷会社、ベンダー、ユーザーが手を携えて知恵とアイデアを絞ることによって、新しい価値の創造を可能にしていくのではないだろうか。

岡 千奈美(2004/2/20)

2004/02/20 00:00:00


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