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紙の教材とeラーニングは共存するのか

世の中の情報化が進むとともに、教育の世界にも「eラーニング」というものが浸透しつつあり、教育の姿が大きく変化しようとしている。従来、紙のテキストで行われていた教育がネットに乗ると何がどう変化するのか。また、教材制作に携わる印刷会社や出版社から見るeラーニングビジネスとは?
PAGE2004コンファレンス「eラーニングに展開する教材制作」では、NTTラーニングシステムズの小松秀圀氏をモデレータに、大日本印刷の石川淳一氏、アスクの平林丈二氏、大原学園の西原申介氏をパネリストにお迎えし、それぞれeラーニングビジネスに乗り出している立場から、今後を展望した(写真=会場)。

印刷会社ならではの強みを生かしたビジネス展開

大日本印刷では、1999年より社内でeラーニングを導入。C&I(コミュニケーション&インフォメーション)事業部で新たなビジネスを模索していたとき、アメリカなどで注目されていたWebを使った学習の仕組みがビジネスに結びついていくのではないかと着目し、また、大日本印刷自体の社内研修の効率化も行いたいという視点から導入することとなった。社内では、現在、22講座、8,000人規模で運営し、集合教育とうまくリンクさせて実施している。

社内の実績をベースに、同社では、他の企業向けにASP型のサービスを行っているが、ビジネスとして顧客にeラーニングを提案する場合、「印刷会社がなぜ教育の話をしに来たのか」ということになり、すんなり納得してもらえないと言う。
そこで、チラシやポスター、カタログ制作に携わり、販売促進系のセクションとのつき合いが古くからあるという印刷業界ならではの強みを生かし、営業販売チャネル向けの製品・販促教育とコンプライアンス・ビジネスリテラシー教育を目的としたeラーニングサービスを提供している。

メディアの形にこだわらない事業展開

アスクは、「その時代のメディアや技術を活かした教材制作」「学習に最も適したメディアを組み合わせること」「学習管理も含めた教育システム」をコンセプトとしており、eラーニングは、あくまでコンテンツ提供メディアの一つの形として捉え、書籍、ビデオ、CDなどと同じ位置にあると考えているのが特徴的だ。TOEIC TEST奪取シリーズは、過去のデータを整理してXML化している。再利用ができるので、各種メディアに展開したり、会社ごとに加工して使ってもらうことも可能であり、「XMLはキーワード」と平林氏は強調する。
今は、BtoBの販売が中心だが、2003年11月からはASP配信して販売するBtoC販売もスタートした。

今後は、CD-ROMコンテンツの販売不調、低価格化によって、eラーニングに移行していくだろうと平林氏は言う。サポートが付くということもあり、学習効果も含めてコンテンツ展開はeラーニングが適しているのではないか、とにらんでいる。
紙媒体にこだわる出版社が多い中、メディアの形にこだわらず事業展開する同社の柔軟な姿勢が印象的だった。

技術よりニーズ主導で開発

資格試験に長い歴史をもつ大原学園は、2000年代前半からWBTによる教育に取り組んでいる。受験生のニーズは、音声のみのカセット通信から、画像教育に着実にシフトしていると言う。また、地方にあるサテライト校でのVOD(ビデオオンデマンド)システム導入にも踏みきった。動画像を全てデジタル化して圧縮し、各サテライト校のサーバに送り込み、そのサーバにアクセスしてブースで見てもらうというスタイルである。なお、在宅のeラーニングも通学のVODでも、従来の集合教育と同じように紙テキストが準備されている。

西原氏は「市場ニーズの成熟度合いに応じたコンテンツを開発・配信させて柔軟に対応していくことを基本姿勢とする」と述べ、さらに「技術主導型ではなくニーズ主導で開発する姿勢が大切」と力説した。ユビキタスネットワーク化が進む中、「満員電車の中で学習するeラーニングコンテンツとして、15分刻みの暗記物をモバイルで提供することがビジネス化できるかもしれない」と語る。

紙のテキストとの共存は?

果たして、eラーニングは今後どのように展開するのだろうか? 現在の需要予測によると、eラーニングは数年後に成熟し、全教育量の約4割はeラーニング化するが、残りは従来の集合教育などのままで、それはなくならないだろうと言われている。

そこで、印刷業界が危惧するのは、紙の教材とeラーニング教材の共存についてだろう。企業ではコスト的な問題で紙をなるべく使わないケースが多いが、大原学園では紙のテキストをあらかじめ配布しているし、アスクでも可搬性のある紙の特性は今後とも生かしていきたいという姿勢だ。紙教材とeラーニングをどう組み合わせて提供するかの工夫が問われるのではないだろうか。

小松氏は、最先端のモデルから見て、eラーニングを「教育」というより「情報提供ツール」「仕事をする能力の管理システム」と捉え、「紙と情報システムを使った情報の提供は並行していくだろう」と述べ、「ただ、決して無視できない大きな流れなので、今後も紙に加えてネットワークでの情報システムに関心を持ってもらいたい」と締めくくった。

従来の集合教育や教材制作の姿が容赦なく変化していく中、印刷会社や出版社、教育現場では、付加価値のある教材を提供するための試行錯誤がまだまだ続くのだろう。

岡 千奈美(2004/3/7)

2004/03/07 00:00:00


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