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Webは企業の社会的責任を体現するメディアへ

大規模なWebサイトが今,どのようなことをやり,今後どういう方向に向かっていくのか。PAGE2004【C6】Webユーザビリティの方向性セッションでは,これらを知ることによってWebに携わる人が1つの方向性見つけるためのヒントを探った。またWebサイトの仕事を受注する立場にとっては,Webサイトを発信する側がどういう意識を持ち,今後どんな仕事を頼みたいのかを知ることで提案のヒントを見つける場になった。

■大規模Webサイトの現況■
ソシオメディア株式会社 代表取締役 篠原 稔和 氏

Webサイトは,大規模化してWebサイトの量がどんどん増えている。Webはなくなるものではなく,一度立ち上げると永続的にずっと運営され続けるので,ドキュメントはどんどん増え続ける。コンテンツが入り乱れて,構造自体が複雑化しているという問題が日に日に増えてきている。
一方,制作体制,Webに携わる人にとっての問題がある。ドキュメント,やり方,方向性が増えていくのでスタッフが増加する。この場合のスタッフは必ずしも企業内組織のスタッフだけではない。関連業者やコラボレーションする企業の人がどんどん増加する傾向にある。
それと同時に,新しい職域が生まれつつあるのでそういう職域に対してどう対処すればいいのかという問題もある。最近,Webマスターという言葉もあまり聞かなくなっているが,Webのセクション自体が新しかったのに加えて,その中で仕事をするユーザビリティのエンジニアや情報の構造を整理していくインフォメーションアーキテクトといった新しい職制が出てきている。
2004年のWebサイトの傾向は次の3つが挙げられる。

【1】Web自体の品質の向上
Webサイトはどんなメディアか確定していない時代から企業の情報をしっかりと伝えていくもの,企業と社会のコミュニケーションをするためのメディアになった。そこにあるのがユーザビリティ,使い勝手である。Webを利用する人にとって目的を達せられる1つの道具になっているのかという視点である。
もう1つの傾向は,幅広い人がWebサイトを使うようになってきている。高齢の人や障害を持った人でもWebサイトを積極的に使うようになり,アクセシビリティに対応しなければならない。プロダクト,サービスそのものの品質を上げていかなければならない。

【2】Web管理組織の確立
Webを管理していく体制を整えていかなければならない。例えば,Webサイトの作り方をしっかりしたワークフローに基づいて作るようなサイクル,Webを作る際に1つのルールに基づいて作っていく。その延長上にはPAGE2004でも頻繁に話題に出ているコンテンツマネジメントシステムをうまく導入し,ルールに従ったWebの作り方をするというものがある。ここに出てくる考え方としてデザインに関してはテンプレートと言われているルールに埋め込んでしまい,よりコンテンツ,中身のほうに集中していくという傾向があるようだ。

【3】Webの社会的な責任
Webの社会的な責任はキーワードで言うとCSR(コーポレートソーシャルレスポンシビリティ=企業の社会的責任)やSRI(企業の社会投資)の対象である。今,社会にとって企業はどういう存在なのかということが問われている。Webサイト自体が企業をある種体現し,企業活動そのものを照射している存在になっている。
Webサイトをしっかり記述することは,社会にとってこの企業がどういう企業なのかということであり,どのような会社なのかということがWebに求められてきている。そういったことでCSR,SRIの1つの対象としてWebが見られ始めているというのが,特に今年の大きな傾向になってくると思う。

■NECのWeb運営について■
日本電気株式会社 コーポレート・コミュニケーション部 Webマネージャ 田辺 康雄 氏

Webサイトは,一時期非常に激しい勢いで立ち上がり,技術の変動も非常に激しいので,いろいろな動きがあった。今,改めて振り返ると,こういったサイトがどのように社会に対して貢献しているのか,その価値が本当にあるのかということを確認されるような時代に入ってきているのではないかと思う。
NECのWebグループには3つの役割がある。1つはWeb戦略を立てていく役割である。NECにはnec.co.jpとグローバルのポータルとしてnec.comのサイトがある。これ以外に,NECグループ各社のサイトがたくさんある。そういったグループも含めたWebの戦略を統括的に管理するというミッションがある。Web戦略を企画して会議でいろいろ議論をしながら,実際のサイトの運営につなげていくということを行っている。また,直接的にはWebサイトの企画マネジメントということで,nec.co.jpとnec.comというサイトと,イントラネットのポータルサイトも管理している。
また,こういうWebを管理運営していくために,ガイドラインを定めている。実際にはこれをどう普及,徹底させていくかということが非常に難しいが,ガイドラインの制定,啓発を行っている。ガイドラインの中身はあまり細かく説明できないが,コンテンツに関わる問題や,顧客からの問い合わせにどう対応するか,またインフラ面で,サーバの管理等に関しての考え方等を中心に書いてある。これと同時に,アクセシブルのWebということで,そのためのガイドラインも定めている。企業情報発信ガイドラインが憲法のようなもので,それに対しての具体的な法律に当たるものとしてアクセシブルWebガイドラインを定め,アクセシブルなWebの制作を考えようとしている。
Webといっても戦略,戦術,実際の制作,運用ということがある。コンテンツを実際に開発するに当たっては,関係会社とか関連したアウトソース先に委託するというやり方をとっている。サーバ等について,インフラの運用に関しては,IT戦略部門が管理してアウトソース先にサーバの運用管理を委託している。もう1つ,重要な顧客の問合せに関わる業務については,CS推進部門が第一窓口になっている。ここに電話対応も含めたすべての問合せが集中してきて,そこからWebに関する問い合わせならWebグループのほうに回ってくる。

Webのガイドライン

多様な人々ができる限り公平に情報利用ができるようにということで,Webだけではなく,ハード,ソフト,コンテンツ,そしてソリューションの実現を目指していこうと考えている。
ユニバーサルデザインを実現するための要件として次の6点を掲げている。

1.多様な利用者を取り込んだ商品開発プロセスの確立
2.アクセシビリティの高い商品づくり
3.ユーザビリティの高い商品づくり
4.美しく魅力的なデザイン
5.UD商品のメインライン化
6.市場性のある価格を実現

アクセシブルのWebの提供ということについては,誰でもどんな環境でもアクセスできるWebコンテンツを作っていくこと,1人でも多くの人に使ってもらえるようなWebコンテンツを作成するということに尽きる。高齢のユーザ,障害を持つユーザ,またnec.co.jpのサイトは日本語でサイトを作っているが,多国語対応も考える必要がある。その他,アクセス環境が今非常に多様化しているので,そういったことに対応することも考えていく必要がある。
こういうことを,実際に社員1人1人,関係している会社の人間1人1人が基本的な考え方として理解していく必要がある。そこで,少し前から,例えばeメールの取り扱いやグループウエア等の管理の仕方,あるいはソフトの管理の仕方等を含めた電子メディアの推進の教育を行っているが,その中にアクセシビリティに関して基本的な内容の教育がある。
eラーニングということでWebを使い,対象としてはNECの社員とグループ会社の社員,また新入社員には一般社員用とは少し違う内容の教育をしたり,管理職にそういう意識を持ってもらうことが重要なので,管理職にはeラーニング時に特別にこのような教育を行っている。
また,ユニバーサルデザイン,アクセシブルといったことに関してはイントラネットの中でもサイトを作っている。また,社外に向けても,nec-design.co.jpではNECのユニバーサルデザインについての考え方と,具体的に製品に関わっているような内容についても紹介している。

2004年の取り組みについて

1つは長期的なスパンでNECグループとしてWebブランディング,Webを使ったブランド価値の向上を考えていこうとしている。Webブランディングは,顧客あっての企業なので顧客の視点でWebサイトを構築運営する。
2つめは,Webサイトを顧客とNECの中間にある非常に有力な媒体として位置付け,ここでいかに顧客に満足してもらえるを重要なポイントと考える。特にグループの中でいろいろなWebサイトがあり,多種多様,いろいろな種類のものがあるが,サイトを越えてグループ全体でCSを高めていくということを改めて見直していく必要がある。そういう中でブランドの向上に努めていきたい。

■富士通Webサイト■
富士通株式会社 コーポレートブランド室 担当課長 高橋 宏祐 氏

富士通のWebサイト(jp.fujitsu.com)は富士通株式会社という親会社と,180社の国内グループを網羅するサイトとして運営している。
トップページを構成するサイトが42,グループ会社のサイトが83で,全部で125サイトである。その他会員サイト等を含めると合計500サイトくらいある。総ページ数は約18万ページくらいである。月間ページビューは,全体で4,600万PVで,1日に換算すると150万PVくらいのアクセスがある。
さらにグローバルポータル(www.fujitsu.com)は富士通がビジネスしている国,ほぼ全世界に向けて情報提供するためのサイトである。これも私のチームで運営しており,トップページからすべて編集している。いろいろな日本の企業がアジア,中国中心に進出しているが富士通はコンピュータ,IT機器を納めてソリューションするのでその国に何をしているのかを見せるためにサイトを作っている。アメリカは.comだがいろいろ国コードがあるので,www.fujitsu.comとすればすべての起点となって国の情報がわかる。
デザインも,そのために基本的には各国でほぼ統一している。サンプルで表しているのは少し前のものだが,一番右が韓国,真ん中が香港,左がスペインのサイトである。言語は違うが,ほぼ見た目も同じで,条構造も同じという作りになっている。
また,アクセシビリティについても取り組み,今まで大きく分けて3つくらいやっている。2002年6月に富士通Webアクセシビリティ指針を公開した。主にWebを制作する人が,HTMLを書くときにどう書けばいいかということを具体的に示したガイドラインである。
併せて,2003年からアクセシビリティ社内教育を,主に社内の制作者向けに始めた。各部門に情報提供する人間がいて,直接HTMLを書くので,そういう人のために丸1日の講座を作った。最初演習をやって次にHTMLを書いてもらい,検証して何が悪いかを見ている。また,今年度から来年度にかけて,eラーニング講座を準備している。日本から始めて,英語化してグローバルにやっていこうと考えている。

富士通が考えるWebサイトの位置付け

今,企業Webサイトは,単なるホームページではなく無形資産だと思っている。ブランドそのものであり,特許と並ぶ重要な無形資産である。これがビジネスの起点となっているし,いろいろなことで評価される。
宣伝・広報,プレスリリースもWebで見るのが当たり前である。株価の上がり下がりやアニュアルレポートもIRで行う。最近2,3年は新卒の採用もWebでしか受け付けないような世の中である。学生が企業を調べるときもWebで調べている。単なる宣伝等ではなく,1つのメディアとして必須のものと思っている。
さらに徐々に企業活動すべてがWeb上でオンラインで実現されていくのではないか。具体的に言うと,引っ越しするときはNTT等にほぼWebで引越の連絡をするし,先日,夜中にブレーカーが落ちて困って東京電力のページを見たら,Webでアンペア数変更が申請できることがわかって申請した。銀行も給料日になればオンラインで振り込まれるし,家賃も払う。大体,そういう世の中になるのではないか。企業活動もWebでやっていかなければいけないと感じている。
リスク管理については,悪い情報ほどWebで出していかなければいけない。あまり企業にとっては好ましくないが,クレーム,リコールに値するようなものもWebに出て当然という世の中になっている。ディスクロージャーとしては絶対のメディアだと考えている。
企業Webサイトは何かにつけ評価される時代になり,運用者にとっては非常に辛い時代である。
Webはよく見ると企業の活動を如実に反映しているものである。富士通はそれなりに大きい会社であるので組織体系がそのままコンテンツの体系に表れている。組織を越えて連携して情報を出すのは予算上難しい。これが一番の問題だと思っている。

2004年の取り組みと課題

2004年は,既に海外ではWebサイトの規模や目的に応じて導入しているコンテンツマネジメントシステム(CMS)の活用が課題である。18万ページもある日本サイトを収めるCMSはどういう切り分けでやっていくのか。
こういった課題を進めるときに見えてきた話だが,CMS適用時の課題の1番目は,ビジネス要件の分析が必須である。ビジネスアナリスト(BA)がいないと,全然進んでいかない。テンプレートを作っていくときに,デザインではなく,このページの中に何が入るかということをきちんとしなければいけない。また,他のコンテンツとの関連をやるためには,ビジネス感覚があってそういうことを押さえることができる人がいないと進まない。
すべてを満たすCMSはない。それをどうしていくかを2004年度の課題として考えている。

2004/03/11 00:00:00


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