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小さなマーケットでナンバーワンを目指す

市場はビジネスの技術革新,デジタル化といった技術力勝負から,営業力,商品力勝負に変化した。印刷会社もビジネスプロセスそのものを変革していかなくてはならない。「スピード,品質,コスト」は必ず押さえておかなければならないが,さらにプラスαが求められる。2月6日の「PAGE2004」のセミナー「『営業活動』を疑え!」のセッションでは,発想の転換にチャンスがある具体的な事例が報告された。本稿は吉田印刷所の代表取締役社長吉田和久氏の講演の要約である。

従来の活動を捨てる
吉田印刷所は新潟県五泉市にある中堅印刷会社で,地域密着型の総合印刷会社として事業領域の拡大を目指していた。しかし,「本当にこのままで会社を維持していくことができるのか」と考えた時に,何でも受注する総合印刷の看板を下ろした。他社と明確な差別化が図れる,選ばれる企業にならなければいけない。そのためには競争領域を絞り込み,得意分野にすべてのパワーを注ぎ,無駄な投資をしない,効率のいい仕組みを構築していく。経営コンセプトを「事業領域の拡大」から「選択と集中」へと方向転換したのである。
方向転換によって売り上げは減少した。完全デジタルデータ入稿によりプリプレスの部分がなくなりさらに減る。しかし,自社の得意分野での仕事を集中して受注する方針を貫き通している。
1995年にCTPをいち早く導入したことが,業態変化のきっかけにもなった。製版工程のデジタル化を最大限に生かすため,デジタル特性に最適化した生産ワークフローやビジネスワークフローを総合的に構築した。その結果,大型のオフセット印刷機を利用した小ロットカラー印刷に活路を見いだし,新しい印刷需要を全国に開拓しようと意欲的である。顧客の中には同業者も多く,「第2工場としてお使いください」と提案している。

外回り営業職を置かない
通常の外回り営業部隊を数年前に廃止した。「印刷には外回りの営業はどうしても必要」という従来の常識が,コンピュータ,ネットワーク,印刷技術の進歩によって変わってきたからである。約束事を決めれば,外回り営業を介在させなくてもきちんとした印刷物が作れる時代になった。当然人件費や処理時間を大幅にカットでき,必要な印刷物をスピーディに,安定した品質で,安く,必要な部数だけ無駄なく,作れるようになる。主力商品である小ロットの価格をぎりぎりに抑えているため,足で注文を集める従来の営業のやり方では全く採算が合わないからでもある。
現在は,コールセンターとインターネットを使ってより広域的な営業展開を行っている。コールセンターを立ち上げたことで,以前の営業展開では見えなかった「市場ニーズの科学的な見極め」や「数値モデルによる見込み客数の把握」など,新しい効果的なマーケティング情報を得ることができるようになった。リピート率の向上にも寄与している。
多くの企業は営業職が新規開拓を兼ねているケースが多いだろう。しかし,営業職は一人でさまざまな業務を同時にいくつも抱えており,どうしてもエネルギーが分散しがちになる。いくら優秀な営業であっても,市場性の見極めや新規顧客の開拓にはおのずと限界が出てくる。
新規開拓もコールセンターにより恒常化された。新規開拓の仕事の7〜8割は営業情報を伝えることなので,パート職員が担当している。顧客より問い合わせのあった時には社員が詳細を説明する。かつての営業職は現在,顧客対応の窓口を担当したり,企画を日々考える仕事に従事している。思いつきに頼った印刷企画を打ち出すのではなく,あらかじめコールセンターを通じて潜在的な顧客ニーズを聞き取り,需要の高い企画を厳選して商品化することで,同社の企画は高い評判を得ている。
コールセンターを使った調査活動や商品情報案内などで大きな成果を上げられたことから,近い将来にはこのノウハウを顧客にも提供できるよう準備を進めている。

パッケージ型印刷商品「特売プレス」
主力印刷パッケージ商品の「特売プレス」は,明快な料金体系によるオンライン受注により,商圏を全国に広げ業績を伸ばしている。サービスの特徴は次のとおりである。
(1)小口ット印刷に特化
通常小ロット印刷といえば,デジタルオンデマンド印刷機が使われているが,大ロット用の印刷設備を使って小ロット印刷を行っているので,品質が十分に安定している。
(2)付け合わせ印刷方式により低価格を実現
生産コストの圧縮を図るため,多種類の印刷ジョブを同じ印刷条件で印刷する付け合せ印刷も行っている。これにより大幅なコスト削減が可能になり,競争力のある印刷価格を実現している。
(3)全判系印刷機による色校正
本来要望されている色が校正用の出力装置によって変化することを危惧(きぐ)し,本番の印刷機で色校正を行うべきだと考えた。オフセット印刷機で5枚程度の色校正を印刷したのではとても生産コストが合わない。しかし,信念をもってこの限界にあえて挑戦し,絶対にコストが合わないと言われてきた5枚からの色校正を本番の印刷機で作ることに成功した。さらにこの作業フローを定着させることにより,「特売プレス」の小ロットポスター商品に姿を変化させた。
(4)納期の短縮
印刷仕様条件を限定することで,作業効率を大幅に高め,印刷生産の短納期化を実現している。24時間,年間約360日間稼動で,土,日,祝日も受付をしており,最近では日曜の製品出荷が増えている。完全データ入稿により,校正などのやり取りを軽減でき,納期の短縮につながっている。
(5)オープンで透明な情報提供
ホームページ上で,詳細な価格やスケジュール,データ作成のアドバイス,入稿手順など,発注に必要な情報をすべて公開している。加算料金の対象になる不備データのカバーも行っている。料金体系もパッケージ化され,値引きなどはせずに明確にしている。
「お客様の都合で発生した修正については,料金をいただいています。自社の状況や方法をじっくり説明することにより,お客様の考えが変わってくるのです」。
(6)PDF入稿
特売プレスではPDFのメリットを生かし,コストに反映させている。A4・A3・B5・B4サイズでは通常のDTPアプリケーションデータの入稿よりも価格を下げている。今のところ3割程度がPDF入稿であるが,コスト面や運用面でメリットのあるPDF変換・PDF入稿を推奨している。専用のWebサイトを開設する予定である。

新企画商品「得薬袋」
全国の調剤薬局を通じて配布される薬袋の裏面に販促用広告を掲載するという,全く新しい広告媒体「得薬袋」を2003年7月に立ち上げた。「広告スポンサーにとって露出機会が大きい」「調剤薬局にとって経費節減になる」「患者にとって役立つ情報が得られる」という3つのメリットがある。既に全国の多くの調剤薬局が「得薬袋」配布チャンネルとして登録しており,広告配信のインフラは着実に構築されつつある。将来極めて有望な広告媒体に発展することが期待できる。
良いことはすぐ実行,誤りはすぐに是正する。すべての答えは市場がもっている。

JAGAT info 2004年3月号より

2004/03/25 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会