本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

無料で提供される公共無線LANの動向

家庭ではADSLを始めとしたブロードバンドの回線がかなり普及した。企業も有線,無線の専用線もしくはブロードバンドの回線でVPN(Virtual Private Network)のネットワークが実現しつつある。その中間である公共の場所,移動する途中の場所でユビキタスのネットワークを実現するために無料で利用できる公共無線LANのホットスポットとして,FREESPOT協議会が2002年7月に「FREESPOT」というサービスを立ち上げた。社内ネットワークにVPNを使い,支店,公共無線LANのスポット,家庭などから接続が可能になる。特に家庭や一般の人たちには無線LANが便利になる。

公衆無線LANサービスは今後広がる

需要予測では,無線LANカードが2003年度に約600万枚,2004年度は約1000万枚が世の中に出回る。これは公衆の場でインターネットに接続するユーザの潜在的な数になると予測されている。特にパソコンにも無線の機能が内蔵されているので,もっと増えるのではないか。
「公衆無線LANサービスでのユーザ数」は,2003年度はおよそ30万人である。サービスを利用している人はまだ少ない。
全体のスポット数の中で見ると,ホテル,空港,駅などの場所はそれほど大きな比率を占めない。今後は,公共施設である図書館,公民館をメインに設置されていくが,無線LANのセキュリティに理解を深め,安全なものを出す必要があり,少し時間が掛かりそうである。

各社展開状況と公衆無線LANサービス内容

2003年のスポット数の推移を比較すると,一番多いFREESPOTは,11月17日で1346カ所,11月中に1500カ所になる予定である。ほかに,NTTコミュニケーションズ,Yahoo,NTT西日本フレッツ・スポットの3社が約600カ所,残りをNTTグループが占めるという形で推移している。全体では無線スポットの数は4000カ所で推移している。
NTTコミュニケーションズのHOTSPOT,Yahoo!BBモバイルを比較すると,FREESPOTの場合はロケーションオーナーが機器,回線を購入し,集客を目的としたサービスを提供する。一方,HOTSPOTやYahoo!BBモバイルは自らが機器,回線を設置し,それを登録ユーザに対してサービスを提供する。
無線方式ではIEEE802.11bが主流だが,同じ周波数帯2.4GHzのIEEE802.11gという規格が登場した。理論上の速さは11Mbpsで,最高が54Mbpsである。IEEE802.11bの3〜4Mbpsに対して,IEEE802.11gは約30Mbpsの速さが出る。各プロバイダ間でのローミング(契約している通信事業者以外でも接続できること)は原則不可能で,認証の方式が違いユーザは接続ごとに設定を変更するためユーザビリティが悪い。また,スポットの多くはユーザ課金型であるため利用者が限定される。

FREESPOT仕様

FREESPOTは,実際にローミングという問題はない。ユーザは特定プロバイダと契約不要で,その場所に行けばインターネット接続,メール送受信ができるので問題ない。1500カ所以上,全都道府県に広がっており,アクセスポイント共通IDがあるのでその場ですぐに使える。設定も簡単で設置オーナーのサポートの手間も省ける。
3つほど主だった独自の機能を付け加えている。ユーザへのセキュリティ機能をもつ「PS(Privacy Separator)」がある。公衆のだれが接続しているか分からない状況で,隣の人のパソコン同士は見えないようにしてプライバシーを守る機能である。「指定のURLポップアップ機能」は,アクセスポイントの機器に広告を見せたいという場合,広告のURLをあらかじめ設定しておくと,初回接続のユーザに必ず広告用にウィンドウが出てくる。「アクセス時間制限機能」は,飲食店は顧客の回転を落としたくないので,長居をされ逆に回転が落ちてしまうことがないように,あらかじめ機械に電波を飛ばさない時間帯を設定しておくことで,電源を落とさずに決まった時間に毎日電波が切れるという機能である。

FREESPOT協議会の目的と体制

FREESPOTサービスの運営は個々のオーナーである。協議会は拡大を目指すためにサポートを行う。設置場所が広がることにより,協議会に参画するメンバーにとってビジネスの場が提供される。無線スポットが増えるとシャープ,パナソニック,東芝のパソコンが売れる。日本テレコム,KDDIは,ADSL,光回線の新規契約を期待している。
最近,無線スポットでプリンタシステムを提供するようになり,富士ゼロックスが新たに参加した。さらにVPNサービスの認証代行を行う日本通信,京セラコミュニケーションも参加し,Centrinoを打ち出したインテルや有料のコンテンツサイト「Bitway」を運営する凸版印刷も参加している。
協議会の運営主体であるFREESPOT専用のホームページ(http://www.ftreespot.com/)の一番の目玉は位置情報で,各都道府県をクリックするとそれぞれに導入されているFREESPOTの位置情報,住所,電話番号,地図が出てくる。

導入事例の紹介

鉄道の駅では,2003年10月8日からサービスを始めた「りんかい線」がある。大井町から新木場の間の7駅で「りんかい線ITすぽっと」を導入した。同じく大阪の近鉄ターミナル駅でも11駅に導入されている。山形新幹線の赤湯駅と荒砥駅を結んでいる第3セクターの山形鉄道というローカル線で無線スポットが導入されている。走る列車と地上局との間はDDIポケットのPHSを使って中継する。走っている間インターネットができる。
関西国際空港には,10カ所ほど設置されている。
鈴鹿サーキットは,2003年10月にF1グランプリが開催された際に,インテルのスポンサーを得てサーキットのエリアに5カ所,オートキャンプ場に3カ所,FREESPOTを設置した。 インターネットニーズが高いビジネスホテルでは,東横インが全国で60〜70軒のチェーン展開をしている。カフェチェーンでは,シアトルズベストコーヒーで全国で20店舗ほど設置されている。コンビニではローソンが新しい形態の店舗を展開しており,協議会では新しい試みとして設置を検討している。

FREESPOTの今後の展開

第1は付加価値サービスである。ドライバを使わないで文書が出力できる'ドライバレス文書出力サービス'を富士ゼロックスと連携で行う。実際にユーザから1枚当たりいくらということで課金も可能なので,オーナーにとっても導入意欲を促進させる。
凸版印刷のBitway事業部との連携で,2003年2月4日から「FREESPOT」のホームページ上に,@irBitwayとPDM系,ポケットPC向けの有料コンテンツのショップ「SOFTSPOT」を開設した。読売新聞のニュースのように定期的に購読するようなコンテンツが売れている。
「広告配信サービス」を検討している。ポップアップ機能を使い,画面で広告配信を行う。1台ごとアクセスポイントに違うURLを入れることにより,地域限定,店限定の情報を流す広告展開を検討している。
第2は「動画コンテンツ配信サービス」である。サービスが行われていない夜の時間帯にコンテンツサーバにコンテンツを配信し,そこへユーザがアクセスしてコンテンツをダウンロードするという仕組みである。 (通信&メディア研究会)

出典:社団法人 日本印刷技術協会 機関誌 JAGAT info 2004年3月号

2004/03/30 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会