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バリアブルプリンティングを実現する編集ツール

従来,バリアブルプリントと言えば,人名や地名を差し替えるものや,利用明細書など人名と数字の入替えが主体の帳票出力を指していた。2003年12月のテキスト&グラフィックス研究会では,バリアブル編集にハイエンドな組版レイアウトを反映するソフトウェア,FormMagicについて株式会社シンプルプロダクツ,代表取締役の平田憲行氏にお話を伺った。

成長するバリアブル印刷の市場

バリアブル印刷の対象には,顧客別(パーソナル)カタログやDM,ハガキなどがあり,今後も百貨店・小売業を始め,様々な分野・業種で増えていくと考えられる。その他,一般メーカーなら販売店向けの販促ツール。金融機関では,収入や年齢など顧客層ごとの金融商品パンフレット。不動産・住宅設備では,イベント招待状やモデルルーム案内状,商品提案書などがあるだろう。また,各種スクールや通信教育でも,カリキュラム別の教材や,グラフ入り成績表などがバリアブル印刷のターゲットとなる。オンンデマンド印刷と言うと小ロット印刷を指す場合が多いが,バリアブル印刷というのは大量印刷のことである。カード会社の利用明細書は,数百万部を連続帳票で印刷している。大手印刷や大手フォーム印刷会社では,高価な機械を導入して大量印刷しているが,編集部分のソフトの性能が低く苦労している。たとえば表が2ページにまたがるときの自動処理もなく,ほとんど1書体で文字サイズも変更できないことが多い。

Form Magic

シンプルプロダクツは,データベース連動の自動組版ソフトウェアWAVE,XML専用のレイアウトソフトXML Automagicを作ってきた。その技術をベースにして,バリアブル編集・印刷専用のソフトウェア,FormMagicをリリースした。組版機能は大抵の物が組める。文字のはみ出し処理,領域からはみ出した文字,表のある項目が増えたとき,またある項目が空の場合など,自動的に判断して最適な組版ができる。一般的な文字組版は,縦組みを含めて全てできる。
バリアブル編集とは,事前にレイアウト定義をおこない,実際の組版レイアウトはその定義にしたがってバッチ処理で動作する。
レイアウトの定義方法には,「簡易定義」と「ブロック判断組定義」がある。「簡易定義」では,既にレイアウトされたEPSファイルから,文字サイズ・座標などを自動抽出し,設定に反映される。文字がはみ出したとき,自動的に変形処理をおこなう設定がされる。簡単な物は,これで定義が終わってしまう。「ブロック判断組定義」とは,複雑な処理のための判断基準を設定する。ある項目とある項目のぶつかったとき,どちらを優先してレイアウトするかということがある。上から組む項目と下から組む項目がある時などである。

組版対象データは,XMLでも,リレーショナルデータベース,CSVでも良い。RDBの場合,SQLでデータ抽出することもできる。XMLはネイティブでそのまま処理をする。
アウトプットは,ファイル出力のほかに,組版プレビューもおこなえる。現時点で対応している出力形式は,EFI社のFreeFormとFreeForm2で,ゼロックス社のColor DocuTechなどに出力できる。2004年早々には,ゼロックス社のエクセレントRIPがPPMLに対応するので,我々も同時期にPPML出力に対応する予定である。

FreeFormとPPMLは,概念上の大きな違いがある。FreeFormは,マスターページの概念に相当する。このページにはこの台紙(マスターページ)を使うとか,台紙を切り替えるという考え方である。PPMLは,パーツをあらかじめRIP済みで登録しておき,転送するデータを軽くし,RIP時間を節約する方式である。同じパーツが出現したとき,その都度RIPするのでは,RIP時間も転送時間もかかってしまう。

Form Magicの導入事例

Form Magicは正式出荷以前の長い期間,原型となる部分をいくつかの顧客に導入していただいている。

保険会社のパーソナル約款

従来の生命保険の約款集は,分厚いものを大量に作って在庫を保管するというスタイルで,在庫コスト,更新の際の手間やミスなどが問題となっていた。そこで,XMLの約款データベースを作り,個人ごとに約款データを自動抽出し,必要な部分だけをレイアウトして出力するというシステムを構築した。モノクロの枚葉プリンタを複数台並べて出力しており,封入封緘まで一貫生産している。仕組みとしては,Wordで特約ごとに原稿を作る。それをXMLに変換してデータベースに1件ずつしまう。編集にはForm Magicを使い,どの特約つきの保険かという情報とマッチングさせ,原稿となるXMLデータを抽出し,120〜150ページ/分のスピードでダイナミックに組版・生成をしている。

大手旅行代理点の例

DTPと同等以上の品質を保ち,納期を1日以上短縮する,という課題があった。「海外旅行問い合わせ顧客に送付する1to1チラシ」と「成約顧客に送付する個人別旅行行程表(旅のしおり)」を,ネットワークを活用したサーバサイドでの無人処理により,この課題をクリアした。全国約100拠点から発注し,Color DocuTech 60Vで出力して,翌日配送することを実現している。

大手コンビニエンスストアの例

「ショーカード」という一種のPOPを,Webを活用して無人制作し,オンデマンドプリンタで出力している。このポイントは承認ワークフローだった。画面上でデザインを選び,データを選び,価格を設定し,社内承認を経てそのままプリントセンターで出す。管理地域が分かれていて,地域ごとに分かりやすく色が変わったりする。その辺が簡単なバリアブルになっている。

予備校の模擬試験成績表

従来の成績表は利用明細書と同様で,プレプリントした連続帳票に,数字と単純なグラフだけ印字していた。成績表の視覚効果を上げるため,1回目に受けたときの目標がここで,2回目に受けたときはこうでというふうに,総括的に見られるグラフを生成して掲載している。PostScriptベースでフォントを使い分け,レイアウトすると,従来の物と比べて,1ページあたりの情報量が大幅に増える。別のスクールでは,1回の模擬試験で5枚の成績表を出していた。A3二つ折,フルカラーにして,科目ごと大問ごとにコメントとグラフを入れると,成績表も迫力のある物になり,生徒からの評判も上がっている。

予備校には,成績管理システムがあり,基本的なデータを持っているが,付加的な情報が全くない。個人に対して訴求する情報が全くない。そこで,従来システム側で,XMLでデータを書き出すことだけを依頼した。新システムでは,科目ごとのコメントや,学校ごとの詳細な情報を,PC上でデータベースを作り,汎用機から抽出したデータとPC上のデータをマッチングさせて,XMLデータを作っている。開発期間もコストも圧倒的に少なく済んだ。

リッチデザインと1to1マーケティングの実現

従来型の帳票に満足していない顧客が増えている。バリアブル印刷のターゲットになりうる世界は山ほどある。バリアブルの世界に真っ向から対応できるソフトウェアを作って,差し替え印刷とは別の新しいビジネス領域の創造に少しでも役に立ちたいと思っている。

(JAGAT Info 4月号より)

2004/04/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会