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PDF/Xは製版会社のためのフォーマット

「印刷を目的としたPDFのガイドライン」としてISO規格PDF/Xが大きな注目を集めている。多様化する制作環境と安定した製造を結ぶ印刷フォーマットとしてのPDF/Xに寄せられる期待はクライアント先行で高まっている。
PDF/Xサービスビューローという新たなサービスを始めたビットカフェ代表取締役社長足立仁氏は「PDF/Xは製版の復権と新たなビジネスチャンスを生み出した」と語る。

CTP専門サービスビューローの立ち上げ
ビットカフェの足立氏は製版会社勤務を経て,2001年にCTP専門サービスビューローのティー・ピー・シーを立ち上げた。CTPをもたない印刷会社をメインクライアントに入稿されたデータから刷版を提供するサービスである。
このビジネスが軌道に乗り出すと,「出力機はもっているが,Windowsデータを中心に奇麗なPostScriptがかけない,これを何とかしてほしい」という話が徐々に出てきた。そこでPDFを面付けまでした状態で提供することで対応した。PDFであれば,現在どのプリプレスベンダーのフローにも対応できるはずだ。足立氏はそこに新たなビジネスチャンスを見いだした。
オーストラリアには電子送稿の規格を決める団体3DAPがあり,決められたルールに従って,制作会社から,データがQuickCutという電子送稿会社に入稿される。QuickCutはデータのプリフライトを行い,確実に印刷ができるPDFが新聞社,出版社に送られ,CTPで印刷というフローが確立されている。QuickCutは言うならばデータをチェックし,不具合があれば確実に印刷できるデータに修正する「データの関所」である。足立氏には「日本版QuickCutをやりたい」という思惑があったと言う。
しかし,いざPDFを商品とするとなるとデータの保証が必要となる。「ビットカフェが作ったPDFだから問題なく出力できる」では,スマートではない。そんな中,印刷を目的としたISO基準のPDF,PDF/Xの存在に着目したという。
そして,CTPプレート出力・CTP用の1bitTIFFデータ作成提供をティー・ピー・シーで,PDFによる出力標準フォーマットのファイル作成をビットカフェで請け負うことになった。

クライアントに支持されるPDF/X
PDF/Xは,今までのPDFとは全く別物の新しいフォーマットであるという誤解が一部あるが,印刷を目的としたISO基準(ISO15930)のPDFで,ガイドラインをはっきりさせた規格である。ISOで定めたPDF/Xには「PDF/X-1a」と「PDF/X-3」の2種類があるが,PDF/X-1aは印刷用途に最も限定した規格である。
PDF/X-1aにすることで,RIPに必ず掛かる,出力ができるという保証がなされる。この「ISOが保証する」という効力は絶大だ。PDFをフォーマットとする印刷フローに,かつてない高い関心がクライアント先行で寄せられている。
また,PDFの作業者自身が印刷用途に準拠しているかどうかの判断材料になっている。さらに,一つのPDFファイルにすべてのデータが集約されるので,添付忘れなどが防げる。
出版社を例にビットカフェのサービスを使ったフローを紹介すると,まず制作会社で誌面がレイアウトされたDTPデータは,Webを通じてビットカフェのオンライン・ストレージにアップロードされる。ビットカフェはこれをダウンロードし,PDF/X-1aに変換,再度アップロードする。出版社では,この連絡を受けPDF/Xをダウンロードし,プリンタで出力し,内容や色校正を行う。ここではJMPAカラーやインクジェットプリンタでの校正フローの運用が効率化のカギを握る。ここで問題がなければ,印刷会社がPDF/Xをダウンロードし印刷を行う。必要ならビットカフェは面付け済みのPDF/Xの用意もするし,ティーピー・シーのサービスで刷版まで提供できる。
クライアントは,コスト削減と印刷物制作の合理化を目指し,Windows環境の下,印刷物の内製化を図る傾向がある。デジタルカメラの普及でポジ原稿が減少し,企業内でDTPを完結することも増えている。今のところPDF/Xは,一般企業,地方自治体,出版社など発注者側が非常に興味をもっていると言う。クライアント側がそのメリットをより多く享受することになるだろう。

従来のワークフローで確実なデータ処理が可能
「発注者側がPDF/Xを作ったらビジネスにならないではないか」「PDF/Xの普及は,印刷会社にメリットがないではないか」という声も聞かれる。これに対して足立氏は,「クライアントは,印刷物の制作で自分たちに時間やコストのムダがたくさんあることを危機感をもって感じている。だからPDF/Xでの合理的で,安心,確実なフローに無条件でOKを出す」「確かにPDF/Xを自分たちで作りたいという声は発注者側にある。でも,たとえできたとしても効率やコストを考えた時,本当にやるべきなのか,そこまでの責任を負うべきなのかは別な判断となるはずだ」と言う。
印刷会社にとってのメリットは,何と言ってもワークフローを変えずに異なる環境でも確実なデータ処理ができることである。そして出力トラブルが起こり得ないという前提があることは,つまり入稿から印刷までの時間がきちんと読めることを意味している。これも製造の効率化という大きなメリットである。営業的にも,今のスタイルを変えることなく,全く別の営業アイテムとしてアプローチすることもできるだろう。
OSの違いやアプリケーションのバージョンによって出力に対応できない。あるいは,出力サイドが最新バージョンに対応できないために,下位バージョンで保存し直してもらう。そういった問題を解決するには,制作と出力が同じ環境を整える必要がある。しかし,社内外のDTP環境をすべて同時に更新することは,ワークフローの整備や資金面の問題など現実的には不可能だろう。当面は混在環境による運営をしていかざるを得ない。
PDF/Xではワークフローを変えずに異なる環境でも確実なデータ処理ができるようになる。問題はだれがPDF/Xを作成するかだ。同社のサービスを利用すれば,PDF/X-1a準拠のPDFが作成される。面付け済みPDFも作成できるので,ほとんどの出力機器からアウトプットが可能になる。また,通信を使ったPDF/Xサービスも行う予定である。

PDF/Xは製版会社のためのフォーマット
今後はさらにオープンな作業環境への対応と省力化が求められる。出力機に依存しない完全データを作る技術として,PDF/Xが注目されるゆえんである。足立氏は「PDF/Xはまるで製版会社のためのフォーマットである」として,「製版から製版技術へ」と強調した。版を作る「製版」に対して,バラバラな制作環境やデータから確実に印刷できるデータを作ることは,まさに「製版技術」である。
「版を作る,出力するといった物理的生産から完全データを作る知的生産へというスタンスを大切にしたい。PostScriptの出力で苦労したあの経験も財産とするならば,その技術も価値を生むことになる」。ビットカフェのビジネスの発想は,製版の現場から生まれたと言えるだろう。

JAGAT info 2004年4月号より

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開催日時/2004年7月1日(木)14:00〜16:00
会場/社団法人日本印刷技術協会 研修室(杉並区和田1-29-11)
参加費/JAGAT会員企業様 10,500円/一般 15,750円 (税込)
講師/白旗 保則 氏
    (PDF Conference実行委員長/グローバルデザイン株式会社 代表取締役)
    足立 仁 氏
    (PDF Conference実行委員/有限会社ビットカフェ 代表取締役)

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2004/04/29 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会