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DTPエキスパートにみる教育の大変革

分業からコラボレーションへ

印刷産業は他業界に先んじてコンピュータを使ってきたという自負がかつてはあったし,DTP化も乗り切ってはきた。しかしながら,印刷物制作現場の中で起こるデジタル化にしか対応できなかった面がある。かつて電算写植を行っていた会社が文字情報処理を得意として,情報処理の子会社を作ってSGMLに挑戦したり,電算写植回りのツールを作っていた会社がXMLツールも手掛けるなどの挑戦があったが,XMLツールの会社として残れたところは少ない。むしろXMLは全く別の分野から出てきた人たちが活躍していて,文字処理でタグを扱ってきた経験が長いことはそれほどのアドバンテージではなかった。
このことの教訓とは,「私にはこのような技術があります」と言ってもダメで,何のためにその技術が有効なのか,つまり顧客の問題解決と結び付けて考え,自分の得意なこと以外も含めてトータルなソリューションのために働かなければ,ビジネスが成り立っていかないことである。技術の切り売りはもう難しい。つまり自分の能力をデジタルメディアの世界で生かすには,デジタルメディアがどのような技術やサービスによって成り立っていて,今までの自分たちはどこにいて,これから自分は何をしたいのかをちゃんと考える必要がある。
図1は,DTPやWebの作業がどういうことと関連しているかを示したものである。DTPと近いところにあるWeb制作は,ともに同じ素材を使って仕事をするので,共通の要素としてデジタルアセッツ管理のシステムにつながっていく。かつては印刷に使ったデータでWebもという流れがあったが,Webのほうが紙よりも先に発信できるものなので,コンテンツが印刷系システムに従属することはなくなってくる。
▼図1

そのバックの灰色の円のようなものはデザインや制作作業を表し,それらから展開している新たなビジネスが矢印の先に書いてある。紙への出力ではバリアブルプリントがある。これはまさにテンプレートパブリッシングで,クライアントの顧客データなどをマージしてワンtoワンの印刷物を作る。また右上に向かう矢印はWebショッピングなどで,電子カタログから,実際のWebでの購入受付など,よりITを駆使した形で進化していくものである。これには購買履歴や決済などトランザクション処理が関係してくる。
真上に向かう矢印は,企業の顧客サポートなどをWeb化して24時間対応できるようにするもので,Webの設計はサポートのコストダウンとサービスの向上を目指して行われる。利用者にとって不案内なことが起こった場合には電話で説明し難いので,オンラインのヘルプのようなもののほうが余程役に立つことはよくある。名前の分からない保守パーツも,Webのほうが見つけやすい。左上に向かう矢印はエンタテインメント的な表現のマルチメディアに進む道で,説明の必要はないだろう。
要するにデジタルになるとこれらはすべて完結し,かつての分業の範囲の品質や技術の切り売りよりも,お互いに連携してどれだけの効果を発揮できるかが問題になるのである。ソリューションを発想できる側に立たないとビジネスで優位には立てない。従って,図のようなメディアの使われ方全体に関するリテラシーを向上させていく必要がある。新ビジネスを興こすには,積極的に社外に出て関連業者との打ち合わせの中で活躍しなければならない。

クロスメディアへ対応が必須に

以上のような変化は既に起こりつつあるのだが,できることならば,DTPを立ちあげたエキスパートの人にもうひと働きしてもらって,DTPとデジタルメディアが効率的に共存する世界を作ってもらいたいと思う。まとめとして,DTPは品質は上がり,新たな科学的な手法を取り入れても,紙の印刷自体は減っていくだろう。しかしデジタルメディアは今から何倍も大きく成長する。おそらく数年経てばどちらが上でも下でもない時代になっているだろう。
▼図2

従来のDTPエキスパートの知見だけでは,図1の矢印方向への展開に足りないところもあるので,不足部分のリテラシーを埋めるためにクロスメディアのパブリッシングのエキスパート制度が必要になるだろう。それはそれほど先のことではない。

(『プリンターズサークル5月号』より)

2004/05/07 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会