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グローバル企業〜山縣印刷グループの挑戦

Printelligenceマレーシアを訪問して
「第7回FAGAT」でマレーシアを訪れた機会に,山縣印刷グループのアジアの拠点となっているPrintelligenceマレーシアを訪問した。社長代理のY J Shim氏,副社長のCM Ching Mun氏,営業マネジャーの菅和義氏から同社の現状と今後の展開についてお話を伺うことができた。

100年の歴史をもつ先進企業
横浜に本社をもつ山縣印刷グループは,2006年に創業100年を迎える(1906年,山形平司氏によって創業)。100年の伝統をもつ先進企業である。マニュアル製作においては,わが国のトップ企業の一つである。また,同グループの印刷に携わる従業員の約6割が海外に在住するという印刷業界では希有(けう)なグローバル企業である。現在,国内には本社・営業・マネジメントを中心とした山縣印刷所(130人),マニュアル製作会社であるワイコム(340人),印刷部門を受け持つ山形印刷(196人)の3グループがある。海外には中国に5社(合弁も含め),アメリカ(サンディエゴ/サンノゼ),シンガポール,タイ,ベルギーにそれぞれ1社,マレーシアに2社,計11社,約800人の海外グループ企業をもっている。その海外拠点の中核がPrintelligence(Malaysia)Sdn. Bhd.である。中国(無錫,厦門,香港,広州)とシンガポールにPrintelligenceの現地法人を持っている。
その切っ掛けは,主な取引先である,ソニー,本田技研,NTT,富士通,東芝,日立,NEC,キヤノン,リコーなどが生産拠点を海外に移し始めた1980年代末から同社の進出が本格化した。マレーシアPrintelligenceの創立もそのような動向の中で,日系企業のマニュアルサポートを目的として1991年に設立,既に13年の歴史を持つ(山縣印刷所77.3%を出資)。現在,クアラルンプール郊外(国際空港から20分の距離)に本社工場(管理,製作,印刷加工),ほかに印刷工場がニライとペナン(デジタル印刷)に2カ所,クアラルンプール市内にDTP制作オフィスがある。従業員は324。売上高は4000万RM(リンギット),約12億円。

刻々と変化する環境に対応
Printelligenceは日本本社の出先という位置付けではなく,アジアに展開する欧米企業や日系企業をマレーシアを拠点にして市場を開拓し,信頼を積み重ねきている。スタートからアジアの奇跡と呼ばれる高度成長に乗って比較的順風満帆で売り上げを伸ばした。ところが1997年7月,タイのバーツ切下げに端を発した東アジアの通貨危機によって,同社も1997年に売り上げがマイナスになったものの,その後はアメリカ系企業の好景気に支えられ売り上げを伸ばし2000年に7500万RMとピークを迎えた。従業員も2001年に450人弱まで増えたが,その後急速に下降線ををたどった。その大きな要因は,中国の台頭で,外資系企業(特にアメリカ)の多くが中国に移管したためという。外資系の撤退の早さには驚愕したと同社・菅和義ゼネラルマネジャーは苦笑する。ところが日系企業がほとんど動かなかったことと,その後のSARS問題やその影響で中国一辺倒は危険であるとのことから,戻ってくる企業もあり2003年は売り上げが上向きになった。

コンテンツ+システム+メディアがPrintelligence(山縣印刷グループ)の強み
同社並びに山縣印刷グループの戦略は,徹底したサポーティング・インダストリーという姿勢である。そしてその姿勢を支えるのが「コンテンツ」+「システム」+「メディア」という3つの機能である。多くの企業の場合,これらの機能が主従の関係になりがちであるが,同社ではマニュアルという最も厳しい品質管理が要求されることからそれぞれが対等に連携・補完の体制で運営されている。
コンテンツは,テクニカルライティング,翻訳,デザイン,テクニカルイラストなどは専門分野をもつスタッフを擁している。翻訳は36言語の実績をもち,すべて翻訳者は母国語であることを翻訳者の基本としている。専門的知識は,クライアントの担当者以上の情報を常に持つようにしているという。
システムは,長年のマニュアル作りのノウハウを集約したソフト開発を手掛け,クライアントを支援している。例えば,翻訳用語のDB化によって担当者や翻訳者によって解釈や表現がずれないようにしている。山縣グループではeXproof(ドキュメント制作支援ツール),eXisLink(サービスマニュアル制作支援ツール),DocDB(制作支援ツール),Dooz[動図](シミュレーションマニュアル,オートマニュアル)といったシステムを開発している。
メディアは,印刷・加工によって最終製品に仕上げることで,印刷会社としては当たり前と言えるが,マニュアルの管理は並大抵ではない。例えば,丁合の間違いは許されない。そのため折丁ごとに担当者を決め,担当以外の場所に入らないように仕切りをしたり,通常の背丁,背標以外に,重さを検知する装置,厚さを検知する装置など二重三重のチェックが工夫されている。また小部数・短納期に対応するため,CTPやPODのワークフローラインももっている。1日1回,多い時は1日数回という納品もあるという。

Printelligenceのアウトルック
Printelligenceマレーシアは,前述の3機能をすべて有しており,テクニカルライティング,翻訳,デザインからDTP,製版システム,CTP,印刷,PODまですべてをカバーしている。ことにCTPはマレーシアでの1号機(約4年前)であり,同社グループでもマレーシアが唯一である。中国のPrintelligenceはフィルム出力,印刷を受けもっている。
組織:マレーシア2人と日本2人の4人の経営スタッフによってManagement Committeeを構成している。海外でうまく経営していくには,政府との交渉やライセンス,地元の文化などをよく理解した人を必ず入れることが大切であるという。
部門は,営業・マーケティング,製造,総務,フルフィルメント,品質管理がある。海外進出の印刷会社としては非常に珍しいことだが,フルフィルメントサービスの能力をもっている。
給与:役割・能力によって平均給与がハッキリ分かれている。現場オペレータ1に対して事務職は3,マネジャーは6倍,海外駐在員の管理層は20倍といわれ,いかに外国駐在員を少なくして,地元のスタッフで運営するかが大きなポイントであるという。
資材調達:マレーシアは紙を輸入に頼っているため,用紙の確保が何より重要である。発注してから納品まで2カ月掛かるので,常時2カ月分の在庫を確保している(紙問屋も在庫をしていない)。用紙の7割は上質紙。次に再生上質紙,コート紙など。再生紙を利用したマニュアルはほとんどが日本向け。用紙の輸入先は,上質の70%はタイ,20%が日本,再生上質紙はドイツ,デンマークでほぼ100%,コート紙はタイが90%。
売上構成:売上構成を山縣グループ,日系企業,その他に分類したものの推移を見ると,2000年が7500万RMとピークで,大きく変化したのが,外資系企業と日系企業の売り上げの割合で,2000年は日系企業が約57%であったのが2003年では8割が日系企業となっている(マレー系の企業の受注は少ない。マレー人優遇政策のため,地元の印刷会社との競合では不利である)。

これからのマニュアル制作のビジネスモデル
一般的に製品開発あるいはモデルチェンジは,クライアントがマーケットからのフィードバック情報に基づき商品企画をする。それを受けて設計者がプロトタイプを作成,テスト,最終仕様が決まり量産へと流れる。マニュアルは最終仕様が決まらなければ製作ができない。できるだけ早く仕様を決定して,マニュアル製作に入りたいのだが,なかなか仕様が決まらない。クライアントにはコールセンターと呼ばれるお客様相談窓口がある。ここにすべての問い合わせが入る。これらの情報を吸い上げ仕様を決めるわけである。そこでコールセンターに人材を派遣することで,問い合わせの情報の分析をして,お客の本当に知りたい情報は何かをつかむことで,マニュアルの大幅改善ができ,ムダなページ(情報)を省くことが可能となり,開発を早めることができる。ある大手の電気メーカーではコールセンターに掛かる費用が年間35億円にもなるという。マニュアルを改善できれば結果として問い合わせが減少,それはそのままコストダウンになる。また,プロトタイプ製作をしないで開発ができればもっとコストは下がる。「私たちはそこまでクライアントと深く係わっていきたい」と菅マネージャーは言う。山縣印刷は100年の歴史を積み重ねてきたが,その大きな柱がマニュアルの「制作」と「印刷」であった。これからのことを考えるとこの2本の柱だけでは厳しい。そこでマニュアルを作るために築き上げたいろいろなノウハウをITやDB,マルチメディアと連動させて印刷にこだわらないビジネスを築きたいと考えている。Printelligenceの関連会社としてPF3DWorks MSC Sdn.Bhd.というマルテメディア会社を2002年に設立。3Dや動画を利用した新しいマニュアル作りにチャレンジしている。どうしても言葉で説明することが難しい場面がいくつもあるがそれを分かりやすくシミュレーションや解説をすることは大切な表現方法である。
同社は,過去の100年を土台に新たな100年を目指しチャレンジを続けている。(杉山慶廣)

JAGAT info 2004年5月号より

2004/05/13 00:00:00


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