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第7回アジア・パシフィック印刷技術情報フォーラム報告


2004年5月7日

第7回アジア印刷技術情報フォーラム(The 7th Annual Meeting of The Forum of Asia Graphic Arts Technology;FAGAT)が,2004年3月11〜13日,マレーシアで開催された。本来は2003年の開催であったが,SARS(重症急性呼吸器症候群)問題によって延期されていた。今回は新しくメンバーとなったオーストラリアを加え,中国,日本,韓国,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイの8カ国とオブザーバーとしてスリランカと ベトナムが参加。海外からは関連参加も含め54人,地元マレーシアから92人,総勢146人が参集した。

1. 第7回FAGAT総会(3月11日)

第7回FAGAT総会を開催。議長は主催国マレーシア印刷協会のRicky Tan Soo Huat会長が務めた。


Mr.Ricky Tan Soo Huat(MPA 会長) 8カ国代表の講演者

参加国の代表機関(参加人員)

  • マレーシア(Malaysian Printers Association)から92人
  • オーストラリア(Printing Industries Association of Australia)から2人
  • 中国(中国印刷技術協会)から9人
  • 日本(日本印刷技術協会)から15人
  • 韓国(大韓印刷情報産業協同組合聯合会)から3人
  • フィリピン(Philippine Printing Technical Foundation)から2人
  • シンガポール(Print & Media Association,Singapore)から9人
  • タイ(The Federation of Thai Printing Industries)から5人となった。

    総会後には,歓迎パーティが行われた。

    2. 第7回FAGATオープンセレモニー

    FAGAT2004大会運営委員長Ong Kum Sing氏が主催国を代表してあいさつを述べた。概要は以下のとおり。

    FAGATはアジアにおける印刷技術に関する情報交流の場として設立された。知識・経験あるいは問題点をメンバー各国で情報交換する場として機能している。
    今回のテーマは「グローバル化の中の印刷産業」ということで各国が発表を行う。グローバル化は全世界的規模で進んでおり,印刷業界も例外ではない。市場を開放しいろいろな障害を除いていくことで,多種多様な交流を図り,さらに技術を世界に広めることである。それをとおして生産性,効率の向上が期待されている。グローバル化の中で印刷がどのように対応したらよいのかという視点で議論したい。
    FAGAT自体の目的がこのグローバル化の動向に合致している。物理的,物流的な制約はあるが,グローバル化への対応は各国とも必要である。適正な競争,フェアな形でグローバル化が展開されることがわれわれ印刷産業の最大の課題である。各地域が印刷業界のしっかりした組織をもって,各国の印刷業者が手を組み,特にアジアを中心に印刷のグローバル化で力を付けることが大切である。
    今回のFAGATがその基盤を築く良いチャンスになるだろう。各国で不必要な規制を排除しオープンでフェアな競争市場で一緒にやっていこう。

    3. 情報交流会(3月12日・13日)


    新加盟国・オーストラリア代表(Mr. G. Donnison)の講演 日本からの参加者

    以下に日本以外の7カ国の発表を要約する。日本の講演内容

    1. グローバル時代の印刷産業〜マレーシアの昨日・今日・明日

      企業数は3290社,従業員数は約12万人,売上高30億ドルで,製造業としては最大級の産業の一つである。
      現在,政府の支援の下,経済全体をハイテク産業に育てようと研究開発やISOの取得を進めている。またデザインを強化し,優れたデザインには報奨制度を設けている。知的財産権の整備なども進めている。環境問題についても政府が積極的に取り組んでいる。新技術・研究開発,自然環境保護,知財権保護,国際規格などへの取り組みは,マレーシアのグローバル化へのブランド作りであると位置付けている。
      これからの印刷にとって重要なことは,デジタル化,オンライン化に欠かせないインフラ技術を整備し,短時間で安全に情報を送り届けることである。ドキュメントに対する偽造,機密保持,不法行為による損失を防ぎ,ブランドに対する保護が重要であるとしている。

    2. オーストラリアの印刷産業について

      企業数は6000社強,従業員数は12万人強,売上高は220億豪ドルで,製造業としては3番目に大きな産業である。 紙・紙製品の輸出額は7.64億豪ドル(印刷物が5.86億豪ドル),輸入額は9.89億豪ドル。輸入で多いのが,書籍,次いで新聞&雑誌。
      今後20年を考えると,テレコム産業,IT産業,メディア産業が次第に収束され,印刷業もこの流れの中にある。印刷市場の2020年までの変化を予測すると,印刷物は増えていくものの,伝統的な印刷物の割合は2020年には35%になり,残りの65%は,電子媒体(PDF,Web,CDなど)による情報配信になるであろう。1拠点で従来型の印刷物を製造するというビジネスモデルは,70%(2003年)から25〜45%(2010年)に減少するであろう。
      生産能力の過剰,新技術に対する教育訓練システムの不備,管理能力不足,顧客ニーズの把握不足,IT産業のような新たな競合,印刷に対する職人的イメージ,デジタル化,顧客の変化への対応力などの課題を克服し,新たな成長曲線に乗せるためには,@革新的プランニング,A技術の適切な活用,B人材への投資,C顧客指向(価値の流れをよく見ること)の4つのキーワードがある。

    3. 中国の印刷産業の現状と展望

      WTOに加盟後の成長は著しい。2003年のGDPは1.4兆ドル,8.5%を超える成長である。
      印刷業の成長も著しく,2003年には19万種類の書籍,9165種類の雑誌,2000種類の新聞が発行された。2003年の印刷出荷額は275億ドル,GDPの2%,人口1人当たり21ドルになる。
      印刷企業の数は16万3600社で,印刷会社が9万2400社(出版印刷9950社,パッケージ印刷3万1300社,その他5万1150社),製版会社が7万1200社,従業員数は300万人。資本形態では,国営が7000社,共同組合系(集団)が2万4000社,外資系が2200社,株式会社系が1万7000社,私企業が3万6000社,その他6200社となっている。
      ここ数年の印刷市場の特徴は,政府の開放政策を進めると同時に監視機能を強化したことである。Press & Publication of administration of China (PPA)という新しい印刷規定ができた。暫定印刷会社保有法,外資印刷会社設置法ができ,従来の印刷会社設立特別許可法,印刷業個人許可法などが撤廃され,新しい枠組みが決められた。
      急成長する経済発展に伴い印刷業も発展したが,香港(4800社,4万人,出荷額300香港ドル,香港第二の産業)と珠江河口周辺,揚子江河口周辺を中心とした沿岸地域2つに集中しており中国の生産額の75%を占めている。香港の70%以上の印刷会社が中国本土に資産拠点あるいは,ジョイントベンチャーを始めている。

      海外からの投資総額は10億ドルを超えた。外資・ベンチャーの数は2200社,このうち1600社が広州にあり,そのうちの90%が香港からの投資である。上海には外資・ジョイントベンチャーが200社ある。 印刷経営の側面からは多くの課題がある。管理能力の不足,小企業が多く政府依存が高い,高級品質への対応が低いのに対し低品質は供給過剰である。国営企業の体質改善の進捗が遅い。 2003年の製版印刷資材・機材の生産額は8.8億ドルで,そのうち1億ドルが輸出されている。2001〜03年の枚葉印刷機の輸入は2363セット,12億ドル(2003年は933台,5.07億ドル),2001〜03年のオフ輪の輸入は539セット,4.56億ドル(2003年は131台,1.26億ドル)であった。 紙の生産と消費では,出版印刷の生産量が1285万トン,消費量が1417万トン,新聞用紙は生産量185万トン,消費量は204万トン,それぞれ不足分は輸入している。 インキメーカーは400社以上,生産量22万トン,生産額632億円。
      今後の課題は,@企業の体質改善,A独占状況の排除(マーケットメカニズムの導入),BITによる印刷産業の近代化,Cさらなる開放政策の推進の4点である。

    4. グローバル時代の韓国印刷産業

      韓国全体は輸出主導で成功してきたが,印刷業界においては印刷機材の大半を輸入することで成り立っており輸出には貢献してこなかった。
      印刷業の輸出は2000年で2億ドルになったが,2001年は横ばい,2002年には前年比35%減となった。韓国経済は,半導体,携帯電話,造船,自動車分野では良くなったが,その他は回復しておらず,印刷産業もかつてない困難な時代を迎えている。経済環境だけでなく,供給力過剰による激しい競争の中にあり,今後は国内市場ではなく,海外市場に目を向けていかなければならない。特に規模の大きい企業に顕著に見られる。
      印刷物輸出では,貿易業務ができる人材がいないことが大きな問題である。人材育成は,印刷会社にとっても本人にとっても大きな負担で,政府からの継続的な援助を得ることが必要である。また,海外との取引においては,相手国の文化を十分に理解することが重要である。
      現在の印刷物主要輸出国は,アメリカ(全体の64%),日本(10%強),中国(5%)だが,貿易相手国を広げることが課題である。 印刷企業のグローバライゼーションに関して重要な要素は,経営管理の合理化,最新技術・設備の導入,人材の育成,印刷プロセスと品質管理の標準化,独自商品の開発,海外市場への事業拡大になる。

    5. グローバル化とフィリピンの印刷産業

      印刷業界の80%を占める20名以下の小規模企業では,変化に対応しようとしても,新しい技術を導入する資金が不足している。
      フィリピンの印刷業者は,顧客の品質に対する要望に的確に対応してこなかった。しかしグローバル化の中で,マレーシアや中国といった海外の印刷業者が安価で品質の良い印刷物を提供するようになって,やっと今までの問題に気がついた。
      印刷ビジネスの競争は,品質とスピードを前提として価格競争の世界になってきた。このような市場ニーズに対応するためには新しい技術の導入が不可欠だが,体質改善ができない企業が多く,新たな技術導入の力を失いつつある。 これからは経営戦略の明確化と技術の集中が求められる。例えば大手の教科書出版企業は自社のタイプセッティング部門を廃止し,利益率を向上させた。別の印刷会社は,プリプレスと印刷設備を売却し,製本加工だけに特化して業績を回復した。また,印刷機と後加工機を売却してプリプレスとコーヒーテーブルブックの出版だけに絞り込んで,業績を立て直した会社もある。生き残りのもう一つの方策は,無駄な競争はやめて業者同士が協調路線を確立することである。

    6. グローバル時代のシンガポール印刷産業

      印刷会社1000社のうち,300社は大・中規模企業で,デザイン,プリプレス部門をもち,CD制作を含む多様な事業を展開し,先端技術も導入している。その強みを生かして国際市場で仕事を確保している。最近では安い労働力を求めてマレーシアや中国にも進出している。その他の700社は家族経営の小規模企業。2002年の生産額は2.58億シンガポール(S)ドルで付加価値額は1.23億Sドル。従業員数は1万7000人だが最新鋭の機器導入で減少傾向にある。
      政府の主導で,プリント・ハブ構想の実現が進められている。従来から,各企業が近隣に集約して,自社がもたない機能をアウトソースする傾向があったが,1カ所に集まることで物流コストを削減し効率を向上させ,各企業の特化を進めやすくするためである。

      価格競争による利益の減少に対しては,合併あるいは共同購入によるコストダウンが考えられる。 印刷技術は高度になりITに関する知識などをもった現場作業者が必要だが,印刷に関するイメージが悪く,優秀な若い人材が不足していること,後継者が事業を継承しないことが大きな問題である。そこで,従業員向けの適切なトレーニングプログラムの導入や,メルボルン大学と提携し印刷に関して大学レベルの資格をもてるようにした。印刷業界に優秀で意欲のある人材を入れていくことが重要である。 今後の生き残りには,規模の最適化と利益率の改善が必要で,経営面で生業から企業への脱皮をしなければならない。成功する企業は,規模が大きな企業では国際市場に事業を拡大し,海外への工場進出もしていく。比較的小規模な企業では,業種特化したり,電子メディア分野を含む新しい事業領域に事業を拡大する。またプリプレスの企業では印刷分野に事業を広げるところもある。

    7. タイ印刷産業の現状と変化

      2003年は大きな機材展と国家プロジェクトが始まった記念すべき年である。バンコクを中心に企業数(製版などを含む)は約5000社,従業員数は12万人。紙の消費量は200万トン(前年比9%増),そのうち約42万トンが輸入。最近はサービスビューロが伸び,印刷製版へサービスを提供しているところもある。
      印刷物の総出荷額は2003年で200億ドル,ヨーロッパ,アメリカ,そしてアジア各国に輸出している。輸出金額は,2000年1.04億ドル→01年1.21億ドル→02年1.56億ドル→03年2.20億ドルと,年率30%で急伸長している。
      2003年の印刷物輸入は7500万ドルで,国内で生産可能な状況になってきているが,顧客の意向である。国内生産では,用紙代が印刷コストの50%を占め,労務費を合わせると80%を占めるからだ。 製版印刷機械・材料の輸入額は,2000年3.40億ドル→01年3.61億ドル→02年3.80億ドル→03年4.15億ドルで推移し,年率8〜10%で増加している。 紙は,中国に72万トン,香港,シンガポール,マレーシア,オーストラリア,台湾にも輸出しているが,高品質なものは輸入している(インドネシア,アメリカ,日本,スウェーデン,韓国)。インキも特殊なインキはヨーロッパ,日本,アメリカから輸入している。
      9つの印刷団体をタイ印刷工業会が束ね,役割分担をしていこうという動きがある。タイ国際空港から56kmほど離れた印刷工業地域Sinsakhon Printing City(144ヘクタール)を立ち上げた。印刷に関わる全機能を1カ所に集約して,それぞれの得意分野によって相乗効果を上げようというもので,マーケティング,技術,研究開発そして仕事の確保により強い力を発揮する新しい協調体制の確立を目的とする。

      タイの印刷業は経済とともに順調に伸びており,広告宣伝費の予想伸び率が8%,パッケージや雑誌は12%という数字もある。 政府も印刷業に対する政策に熱心であるが,印刷業界からタイ首相に対して「印刷業の競争力強化のための開発戦略」という提言をした。5年以内に印刷物輸出を7億5000万ドル,投資額を5億ドルまで増加し,年率3%で雇用を増加させるとしている。この計画の根拠は,印刷コストの大部分を占める印刷用紙の国産化が可能になり,コスト面,技術,人材能力面での国際競争力があること,タイ経済の発展に伴う印刷需要拡大が望めること,海外からの投資が期待できることである。 しかしなから,計画の実現は容易ではなく,いろいろな問題がある。特に業界の80%を占める小規模企業は技術面,経営面で遅れている上,最近のハード,ソフトの多様化で先が見えず決断ができない状況である。


    4. ファイナルセレモニー,さよならパーティ

    各国の発表が終わり,Ricky Tan Soo Huat会長から閉会の挨拶が行われ,「第8回FAGAT」が2005年10月にオーストラリア・シドニーで開催されることが参加者に伝えられて閉会となった。 夕刻よりファイナルセレモニーが開催された。マレーシアの地元の印刷会社並びにスポンサーメンバーなども加わり盛大なさよならパーティとなった。恒例の各国プレゼント交換,民族ダンスなど楽しい余興と交流が夜遅くまで続いた。

    YB DATO' SERI KERK CHOO TING(国際貿易・工業副大臣)のご挨拶

    Ricky Tan Soo Huat氏(マレーシア印刷協会会長)の閉会挨拶の概要
    主催国として活動できたことを光栄に思います。それぞれのメンバー国の発表の方から興味深い最新の進展状況を入手することができました。FAGATはすべてのメンバーに対しさらに協力体制を強め、情報交換の場所を提供しております。皆様全員がFAGATのイベントを活用してください。またFAGATで得られた情報を持ちかえって国内で具体的に展開してください。マレーシアにとって今回のFAGATは記憶に残る記念すべきイベントです。この場をお借りして、今回の開催のためにご尽力いただきましたすべての方にお礼申し上げます。その中でもとくに、JAGATの皆様、スピーカーの皆様、スポンサーの皆様に感謝致します。FAGATの参加国が増え、ますます発展しますことを祈念しております。

    報告:マーケティング部部長/杉山慶廣

  • 2004/05/07 00:00:00


    公益社団法人日本印刷技術協会