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本業回帰という高い壁

印刷用紙やインキの出荷がそれほど変わらないものの、印刷単価が下落を続ける印刷業では、近年は縮小均衡によって利益を出せるようにと努力をした結果、大きく血を流すことなくソフトなリストラをし終えた会社が多い。その結果は印刷業者の平均人員規模の縮小や、後継者のいない下請け企業の廃業などがよく見られるようになった。何だカンダと言っても結局大半の業者は生き残っているわけだから、粘り腰の業界である。

印刷産業のリストラは、ちょうど制作工程のデジタル化とともに進行したとも言える。マクロ的にいえばアナログな工程のベテランが減って、若いDTP周りの人に入れ替わった。設備のダウンサイジングとともに労務的にも軽くなったという、2重のメリットがあったのだが、実はそのメリットは印刷業界を素通りして、印刷発注者が単価の下落という恩恵をこうむるものとなった。印刷業界はメリット還元に熱心な正直な業界であったといえる。

印刷業界が粘り腰であり、無闇に富を蓄えないオットリした業界でいられるのは、失敗とかで損しなければもうかる受注産業であるからだ。受注生産なので、「モノを作ったが売れない」ということはない。仕事しただけ売上が上がるという、日銭に近いキャッシュフローに支えられている。しかしそのために借金する代わりに原価割れで仕事をすることにもなりがちである。

しかしこういった印刷業界のユトリの時代は終わりつつある。デジタル化で工程が短縮すれば、今まで含みを持たせていた何々代という積算項目はどんどん減っていき、次第に原価は丸見えになるからだ。このことは以前から気づいていたことではあって、印刷のウマミの低減を補う意味でソフト化・サービス化という事業拡大を考えることは、どの先進国の印刷産業にも共通したテーマであった。

では印刷産業はどんなソフト化・サービス化を成しえたのであろうか? 実際、実に多様な派生ビジネスが行われているが、WEB関連が一番ポピュラーになったくらいで、印刷の利益性に比べると大きく育ったといえる事業は中小印刷産業のなかにはないであろう。しかし派生ビジネスは多くは「付加価値」増大を夢見たようなテーマが多く、印刷に似た「日銭に近いキャッシュフロー」型のフルフィルメント業務への進出は意外に少ない。例えば定期刊行物を印刷はするが、その発送代行は行いたくない会社が多い。

今日では印刷業のソフト化・サービス化も見直しの時期にあるのかもしれない。印刷会社の縮小均衡とともに、ユトリ時代の夢は一旦棚上げにして、印刷のコアビジネスに資源を集中しようという風潮もある。しかし元々印刷では十分稼げなかったので、付加価値のプラスアルファを求めて派生ビジネスを目指したような場合は、本業回帰で印刷に意識を戻して回りを見回すと、以前から印刷で十分稼げていた会社が、以前にも増して印刷の基盤を強固にしていることを発見したり、MIS、JDFなどコスト管理、生産合理化のために取り組むべき課題が山のようにあることに気づいて呆然とすることになる。

ソフト化・サービス化を見直すとすると、ソフト化サービス化という言葉の陰で、FA化が進む日本の工業化の現状を捉えることに疎くなってはいないか、と自分に問うてみるべきである。印刷のコアビジネスの競争の条件は、品質管理でも環境対応でも納期短縮でも、世の中の他の産業と同じ水準で行わなければならなくなったのだから。

来る6月9日(水)開催のJAGAT大会2004は「印刷のパワーアップ」をテーマに,勝ち残る印刷とは何かを考えます。経営層各位のご参加をお待ちします。

2004/06/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会