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プレーリードッグをお探しの方へ

ミサワホーム株式会社 管理部 システム企画室 西田昌史

貼り紙の期待

「先日,当店にプレーリードッグが迷い込んできました。お心当たりの方は,警察署にご連絡ください。現在,リス園で保護されています」
近くのスーパーマーケットの貼り紙なのだが,なんともほほ笑ましいニュースである。
プレーリードッグが逃げ出して,探している人にとっては重要な情報であるが,その店に貼ってあるだけでは,必要としている人に届くとは限らない。とはいえ情報は伝達される性質もあるから,人を介して必要な人に情報が届くかも知れない。
会社での情報の扱いは,そんな緩やかな期待では困るはずである。しかし実際には,特定の担当者のみが知っている,または保有している情報が大半を占める。困るのは,だれがどんな情報をもっているかが公開されていないことであろう。
必要な情報を見いだすために費やす時間の累積をコスト換算して,情報共有システムが起案されるに至ると推察できる。しかし,システムはできても,正しく使われないと根本的な問題解決にはならない。会社が期待する「仕事」「役割期待」を変えずにシステムを導入しても効果は上がらない。それどころか,システムが悪いということになって,システム部門のモチベーションも下がる。
組織で分割された業務分担では,効果的なシステム構築は難しい。会社全体で取り組む姿勢が重要だが,そのような風土がない場合は,強力な推進力をもった人間が必要になる。熱い思いをもった担当者がいるかどうかで,有益な情報共有システムが組織に根付くかどうかが決まると思われる。
プレーリードッグが居なくなったことにさえ気づかない,そんな環境でシステムが効果的に機能することはあり得ないのである。

人間系データベースへの期待

商用印刷を伴うツール制作業務は,そのツールを完成させることが担当者の目的であるため,過程で生成されたデータへの興味は薄い。データを適切に管理するという後工程が業務になっていないからであり,担当者は余計な仕事をする必要もない。
多くの場合,印刷会社が適切にデータを保有してくれていることを期待している。だから次のツールも同じところに発注する。それは悪いことではないし,そんな相互期待の上に,効率的なツール制作作業が遂行されていることも認識できる。
しかし,会社全体が同じ印刷会社1社との取引ではないため,結局は担当者を探し出してデータを入手するという作業が発生してしまう。これは継続可能な姿ではない。
そのような状況を目の当たりにしたDTPエキスパートは,どのような方向性を提起するべきだろうか。逆に言えば,このような状態を見過ごせないのがDTPエキスパートだと思えるし,またその思想がDTPエキスパート認証試験には込められていると思う。
思想は別として,業務効率向上を掲げたツール制作支援(写真)データベースシステムの企画を提案することにした。

アセッツ管理システムへの期待

業務遂行の副産物として,企業内にデジタルデータが大量に発生する。これが資産がどうか,また資産としての価値が見いだせるかどうかという議論がある。ここに情報デザインという視点を導入すると,資産となり得るデータを生成することが業務である,という逆の発想になる。企業の風土によって,その扱いが変わることになると思われるが,業務遂行の過程で生成されるデジタルデータが資産として蓄積され,再利用できるほうが有効であるという客観的な判断はできそうである。
先の印刷過程で発生するデータを,社内で一元管理するとどうなるか。理想的なシステムとその運用イメージを企画すると,社内で多くの賛同が得られた。
このような背景の下,ミサワホームの制作業務用素材を一元管理するデータベースシステムの開発に着手することになる。ブラウザで検索・閲覧・発注が可能なこのシステムをGAMUTと呼称し,2002年4月にイントラネット上にリリースした。システムの詳細は割愛するが,現在では200名近くの社員が利用するインフラに成長している。しかし,導入時には情報をインプットする部門の足並みをそろえることに困難を極めた。
このGAMUTの開発・運用に,DTPエキスパートの試験内容を活用することになる。

会社内でのDTPエキスパートへの期待

GAMUTシステムの仕様開発,利用者の業務改革などに,試験の内容は有効に機能したと思う。
画像データのスペックを決める際の協力印刷会社とのコラボレーションにおいては,ミサワホームが期待する商用印刷での品質を定義し,多くの実験を通じて最終的な仕様を決めていった。この背景には,試験に登場した用語,その意味などの理解が求められたと思う。もちろん,その場で習得することも可能だと言えるが,印刷会社の技術者とゼロからではない会話がスタートできるメリットは大きい。
システムを開発する場面だけでなく,商用印刷に携わる社員にも必要な知識の学習が集約されている試験だと感じている。GAMUTには,商用印刷で登場する用語や画像データの基本,つまりDTPエキスパートの試験で登場する内容を,社員向けに書いたページを用意している。そのページが想定以上に閲覧されており,増強の要望もある。それだけ,DTPエキスパートの試験範囲が,実業務に関わる社員に必要なものであると認識している。

JAGATへの期待

社内では,画像データのスペックを伝える際にdpiが「単体で」使われることが多い。
しかし,dpi単体では画像データのスペックを表示していることにはならないことが気になっている。
こんな例がある。社員が「350dpiで」と協力会社に画像データを要求した。届いたデータは100ピクセル角の小さいもので,ご丁寧に解像度は指定の350dpiになっている。
伝えた仕様は満たしていると言えるが,実際に350dpiで印刷する場合には,0.73cmでしか表現できない。それではと,印刷で使用するサイズをcmで指定して再度依頼するように指摘しておいたが,先の100ピクセル画像をリサイズしてピクセル数を増やした画像データが届いた。これも間違いではないと苦笑するが,実業務を円滑に遂行する上でこれらのやり取りは無駄である。画像データのスペックに関する意思疎通の難しさを感じた実話である。
この例を元に,社内ではdpiで画像データのスペックを語らないように呼び掛け,デジタルカメラの普及で一般用語化した「画素数」に統一しようとしている。もちろん,リサイズしていないこと,極端な縦・横比ではないことが前提であり,完全ではないことも認識している。それでも,1200万画素でA4プラスマイナス20%と提示しておくことで,利用サイズを想定した画素数を社員が考えて会話をするようになり始めている。
そういう意味でも,ぜひJAGATには画像データのスペックを正しく伝えられるような用語を作り,広めていただきたいと思っている。

(『プリンターズサークル5月号』より)

2004/06/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会