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印刷業界の外から見たDTPエキスパートの価値とは

日本ユニシス・ラーニング株式会社 マーティングマネージャ  熊谷正宏

なぜ認証を受けようとしたか

あれから,もう7年も(1997<平成9>年8月認証)も経ってしまった。私はこの4月から,日本ユニシスの関連会社でIT教育専門企業「日本ユニシス・ラーニング」に出向している。主に,販促活動とプレゼンテーションリテラシー教育の講師を担当している。
私はかつてグループ会社の要である,日本ユニシスで広報部の室長を3年間担当,その後,コールセンターの責任者を3年間担当してきた。昨年,役職定年制度に従い管理職から退き,グループ内のプレゼンテーション教育に力を注ぐべく現在に至っている。
実は,今でもその感は否めないが,当時コンピュータ会社とはいえ,DTPに興味を示している人間などほとんどなくなく,印刷会社の方たちと同じ土俵で会話ができる人間は皆無に近かった。どちらかと言うと,何もかも印刷会社の言いなりであった。印刷会社の方たちと対等に渡り合うなんて大仰なことではなく,少しでも同じこと(印刷物)を,同じ土俵の上でお話しをしたかったのである。そこで,もともと個人的に興味のあったDTPを勉強しよう,50歳を過ぎてからの受験を試みた。もちろん部下に対する率先垂範の気持も併せもっていた。
DTPはだれもが当たり前にMacintosh,圧倒的に社内で数の多いWindowsプラットフォームをなぜDTPに差し向けないのか,何とかわれわれの手で,とWindowsDTPを試みたが諸般の事情で成し得なかった。周囲がそうさせてくれなかったのである。中途半端に終わったことを今でも悔いている。
現在もDTPは別の世界と思っている一般サラリーマンに,高度なワープロの延長線上としても,あるいはWeb制作に携わる方にも,デザインのみならずDTPに関心を示してほしいものである。

現在の仕事にどう生かされているか

私は,昨年度,後半から「プレゼンテーション・ドキュメントの制作技法」,つまりどのようにすれば提案書・説明会の資料などが「説得力あるものにできるか」「クライアントに深く印象付けられるか」,ひいては「成約に漕ぎつけるプレゼンができるか」に焦点を当て,日本ユニシス・グループのおよそ1000名に実施した。思惑どおり,期待どおりの社員教育ができたものと自負している。そのベースには,やはりDTPエキスパート認証を継続して受けていることによる自信が影響している。なまじの知識で教えているのではないと,自信をもって教えることができるからだ。
実は,私は日本ユニシスの広報部時代にDTPエキスパートの認証を得たものの,4年前からは全くDTPとは関係ないコールセンターの仕事に従事した。私の仕事上何のメリットもないものをもっていても無用な長物。そのためにもう更新試験はパスしようと考えていた。しかしながら,せっかく受けた認証を無駄にすることはないと自分に言い聞かせ,平成11年,平成14年(平成13年延期),平成15年と3回の更新試験を何とかパスしてきた。おかげさまで,ゴールドメンバーの仲間に入れていただいた。
冷静に考えてみると,この更新試験をとおして自分の勉強になったことが多々あると思える。特に,その期その期の新規差分問題が大いに参考になる。とかく甘く見過ごしがちな内容も,時として役に立つことがある。今,私がかつて思ったように更新試験をキャンセルしようとしている方がいれば,私の経験から「お続けなさい」とアドバイスしたい。役に立つことはあっても役に立たないことは何もないからである。
約物の正しい使い方,色の属性,レイアウト,異体字,書体とフォントの正しい知識,和欧フォントのマッチング,デジタルカメラの高度な知識,Windows出力,WebDAV,慣用色名,無線LAN,文字コード・グリフ,知的財産法,XML知識,版面…,その中には,現在の私の「プレゼンテーション・リテラシー教育」に役に立っているものも少なからずある。
一般の人間には,気づかないことばかりである。いかに説得力あるプレゼンテーション・ドキュメントを作成するか。形は違えどDTPR(Desk Top PResentation)を効果的に実施するために何を考えなければならないか,DTPの知識は大いに役に立っているのである。
更新試験の問題が送られてくる度に憂うつな気分になるが,いろいろと調査し,全問回答できた時の気持はそう快である。そして,この2年間でまた,新たなDTP知識を得たという充実感も与えてくれる。

ある印刷会社では

先日,市ケ谷に本社を置く中堅印刷会社を,久しぶりに訪問し,その後のDTPエキスパートの育成をどのように継続しているかお聞きしてみた。この会社はかつて私が受験対策講座を仰せつかり,一緒に勉強し合格者を多数出している会社である。現在までの合格者の「営業」対「制作・デザイナー」の比率を見ると2:1だそうで,営業が倍の人数を要している。製作工程の理解あるいは色の再現域などの正しい知識をもち,クライアントよりも1歩でも2歩でも先んじたDTP知識をもっているということで,自信をもって営業活動ができるメリットを語ってくれた。まさに説得力ある営業活動をしているのである。私がお世話してから毎年継続して春の試験を10数人が受験しているとのこと。会社を挙げて受験対策をし,DTPの知識向上に努めている姿は,われわれクライアントにとって信頼に足る印刷会社であることは当然である。
合否の結果はともかくとして,DTPエキスパート試験は「一丸となって物事を成す」という,組織にとって一番大事なことを導いてくれているように思える。会社の「質の向上」に大いに貢献していることは間違いない。

外から見たDTPエキスパートの価値とは

今まで10年間で,DTPエキスパート認証者は全国で12000名に達しようとしていると聞く。印刷・出版・デザイン・印刷関連のメーカーなどの方が約75%,私のような一般企業・個人の方が25%。その比率は近年は若干の変化があるという。
一般の企業の方の受験が相当増加したため,印刷・デザイン会社の方が危機感を感じ,その営業の方の受験が増加したという。サービスを提供する側と受ける側が,互いに切磋琢磨し,よりDTPに理解を深め,品質の高い成果物を生み出していく。DTPエキスパートの価値は,この緊張関係を作り上げ,印刷業界全体の底上げを成し得ているところにあると思う。2年に一度の更新試験はすぐやってくる。やめよう,やめようと思いながら,何とか3回更新できた。これからも続けていきたいと思っている。

JAGATに期待する

DTPエキスパート試験は10年を経過した。今まで何回となく,私を「JAGAT認証DTPエキスパート」と知った時の製作会社の方の緊張感を目の当たりにしてきた。ただそれだけでも,緊張関係で仕事ができるというメリットを感じている。有効期間が2年間,そのつど更新試験で知識の棚卸をさせているJAGATの姿勢もほかにないものだ。そして何より,力の入れようがJAGATのホームページを通じても伝わってくる。改めて関係者の努力に敬意を表し,エールを送らせていただく。
今後はIT教育専門企業の利を生かして,eラーニングなどを活用したDTPエキスパート受験対策などをはじめ,JAGATの目指すDTPリテラシー向上に,少しでもお役に立てればと願っている。

(『プリンターズサークル5月号』より)

2004/06/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会