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全体最適化の課題

さる5月31日に、JAGATにおいて第3回 JDFフォーラム・ジャパンを開催した。第2回目の会合では、CIP4で検討されている課題についての報告が行われ、本ページにもその要点を紹介した。今回は、大日本印刷株式会社 技術本部 江川裕仁 氏から同社のDNPフローの開発、運用の経験を踏まえた「工程管理システム開発の経験から見たJDF-期待と課題」と題するお話を伺いその後質疑応答を行った。
以下に、その要点を、あくまで筆者が解釈した内容として書き止めておく。

JDFに期待することのひとつは、生産プロセスの自動化である。その自動化のひとつの要件として、生産機器間で情報をシームレスに伝達することが必要となる。その中で、プリプレスの進捗、実績状況については、リアルタイム性とともに内容の細かさが重要である。「作業を開始した」、「作業か終った」ということだけではなく、「工程に作業指示がされた」、「実際に作業に掛かった」、「作業が終わった」そして「次の工程に引き取られた」といった情報が各工程それぞれの機器間を自動的に流れていくことである。
このようなことは、JDFのような規格が最初にあって設計された設備で可能になることであり、現在使っている機械を繋いでやろうとしてもできることではない。

情報がシームレスに自動的に流れていくとともに、その情報によってコントロールされる生産設備自体の自動化のレベルは相当に高く、信頼性のあるものでなければならない。そのような要件のひとつとして、機械はある状態にキャリブレートされていなければならないが、それも何らかの形で機械そのものがキャリブレートするメカニズムを持つことが求められる。それがなければ本当の意味での自動化には結びつかない。また、たとえば製本機のコントロールで用紙の厚みの変化に対応する微調整機能も含まれているというが、ユーザーが最後に手を入れて直さなければ動かないといったことはない、と保証できるレベルの性能がなければならない。

工程全体の管理については、まだまだ不明確な点が多い。JDFを使う目的は全体最適化であるが、このためには、工程設計、日程計画の部分が重要だが、この点について、現時点においては2つの問題がある。 ひとつは、工程設計、日程計画のソフト自体の質である。もうひとつは、その機能をMISに持たせるのか、エージェント/コントローラーあるいはデバイスと呼ばれるインターフェースに持たせるかについてだが、現在のCIP4の規格では明確にされていないようだ。

工程設計に関しては、プロセスの定義について、規格と現状のギャップをどのように埋めるのか、あるいは例外処理をどのようにするかが課題である。ここでは、欧米と日本の違いということもあるようだが、これらがプライベートタグで対応するということになれば、JDFを使う本来の意義からどんどん離れていってしまうことになる。 もうひとつは、全ての工程設計を最初に行って仕事を流していくというのが基本的な考え方だろうが、リピート物以外ではそこがボトルネックになってしまう可能性がある。したがって、JDFには分かる部分だけの情報を入れて、あとはJDFにつけるという使い方が想定できるが、その場合には情報が足りない状態で現場に仕事が廻った時に、だれが責任をもって不足している情報を補うのかが課題である。また、製造仕様からプロセスの記述を導く可能性はどの程度あるのだろうか?

プリプレスの日程計画については、下版、刷了、納品といった大日程を受けてその範囲で下版までの調整をすることになるだろう。原則はFIFO(First In First Out)となる。 FIFOは、例えば、製版は中2日といった単位で区切った日程の中で運用されているが、各作業にかかる時間はそれほどではないから、大きなバッファを持った仕事のやり方になっている。
これをTOCの考え方から見ると、仕掛かりばかりという話になり、それを改善するならば、多分、別のアプローチが必要になるだろう。Drupaでは、TOCの別の名前をつけたスケジューラーが宣伝されていた。

製造条件、品質管理の情報の扱いも充分に考えなければならない課題である。ICCプロファイルを作れば確かに空間は見えるが、どの程度の絵になったらいいのか、ということになると実は良く分からない。誰かが判定しなければならない。
分解の場合、工場では品目毎、お客様ごとに異なるポイントを認識し、顧客の要望に答えるノウハウを持っており、特定の品目が入ってきたときの処理方法、内容は決まっている。このようなものまで含めて情報化をして、任意の場所で作業をさせても、いつも同じ結果が得られるようにすることは非常に難しい。また、QAに相当する情報はJDFに書かれていないようである。

既存生産設備がJDFに繋がるか?はひとつの懸念材料である。この点は、ソフトの入れ替えやプラグインでの対応が考えられているようだが、生産設備よりも独自の基幹系システムを持っている場合の方が厄介な問題になりそうである。マルチクライアントの環境できちっと動くものがどの程度できるのかはまだ見えていない。やはり、MISから相当の範囲をカバーするオールインワンのような考え方にしないとうまくいかないのか、あるいは、スケジューリングの最適化等々がモジュール単位になっていて、それを上手に組み合わせれば可能なのかについて疑問がある。前者の場合には、例えば、NGP陣営、プリントシティ陣営、あるいはある1社が全てでカバーするようなことになるのだろうか?

基本的には、JDFが本来持つ固有の問題と、工程全体を最適化していこうという本質的課題を切り分けることが重要である。
自動化自体が目的化されて、本来の目的である利益を出していくということがおざなりにされてしまってはならない。実現すべきことは、無駄をなくす、滞留をなくす、売上に寄与する活動時間を増すことである。また、自動化されて人は減ってもミスが増えてしまえば意味がない。
システム全体は、人間系とコンピュータ系の2つから成り、データの流れと情報の流れをできるだけ自動化する仕組みを作る一方、要所には判断を入れて仕事を進めていくことになるだろう。JDFの規格にQAの部分が明示されていないということは判断業務が残るということであろう。

ひとつの考え方は、JDF自体は工程間を共通言語なり、共通の拠り所で情報を受け渡すメカニズムだと割り切ることである。全体の最適やTOC的な予定ができるかといったことは、JDFとは別の話として考える。
規格を細部まで詳細に決めれば、多様な機器間でのPlug & Playでの運用が可能になるが 当然、柔軟性は失われる。逆に、JDFは単なるフォーマットであり、細かな点は個別に考えるということに偏より過ぎると、本来の意義が薄れてしまうことになる。つまりバランスが重要になるが、この点については非常に重要なことだがまだ議論が進んでいないところである。この議論では、EDI/ECも念頭に置いておくことも必要である。

もうひとつの基本的な課題は「標準化」である。特に日本の印刷業界で危惧される問題で、自動化、最適化を進めるためには、工程、工数に関する標準資料がなければならないが、これを作ること自体に対する現場からの抵抗が容易に想像できる。この問題には、体質的な部分とそのような資料を作ることの困難さという2つがある。後者に関しては何らかの支援、ツールの開発を考える必要がある。
全体最適化の道のりは長いので、最終目標に到達する段階的プロセスとそれぞれの段階における効果を想定、設定しておくことも、業界がこの課題にチャレンジし続けるためには重要である。
JDF自体に関することではないが、欧米と日本ではさまざまな違いがあるから、CIP4に対して、日本から必要な要望、提案、提言をきちっと上げていくことも重要である。

JDFが本来持つ固有の問題と工程全体を最適化していこうという本質的課題を切り分けて考えるといったことからCIP4への日本からの発言などの、基本的かつ全体的な課題に関して、JDFフォーラム・ジャパンはそれなりの貢献ができるだろう。

(JAGAT:山内亮一)

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2004/06/09 00:00:00


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