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盛りだくさんの見所があったDRUPA

さまざま効用を生み出す直接駆動技術

Drupa2004では、オフ輪の世界でさまざまなメリットをもたらした「シャフトレス」機構を採用した枚葉印刷機が紹介された。シャフトレスとはいっても、紙の搬送を担っている部分はシャフとギアで駆動しながら、版胴を単独駆動するものである(マン・ローランド:ローランド700、ハイデルベルグ:SM74DI印刷機)。このことによって同時版交換が可能になって準備作業時間を削減できる、印刷開始位置が異なる他社製印刷機用の刷版が使えるといったメリットがあるという。DI機に採用すれば、版に画像を焼き付けるために版胴を高速に回転させている間に、圧胴やブランケット胴の洗浄作業を行うことができ、準備作業時間を短縮できる。

「高付加価値」化実現のポイント

「高付加価値印刷」への期待を込めて、枚葉印刷機の4色以上の多ユニット化、インライン・コーティングはもはや当たり前のものになった。コーターはチャンバー方式が一般的になった。
ドルッパ2004では、5胴目、10胴目をチャンバーコータによる水性ニスコートと印刷に両用できる印刷機も登場した(ハイデルベルグ:SM102−10P)。さらに、多色機でパターン箔押しができるもの(ローランド700)、ミシン目入れ、筋入れ等の後加工がインラインでできるシステムも発表された(ハイデルベルグ:SM52+シートグループRSPインラインシステム)。
しかし、「加工度」を高めれば、顧客がそれを「付加価値」として認めてくれてその分を請求に上乗せできるとは限らない。また、耐性付与のためのニスコーティングは別にして、パターンニスやMetal FX銀インキの使用、あるいはUVインキとUVコーターニスを使った縮み印刷等々、見る側の注意を惹き付ける効果を狙うために使う場合は、ただそのような加工をしただけではダメで、発信しようとしているメッセージの内容、グラフィックデザイン、そして上記の技術がうまくかみ合ったものでなければならない。印刷側で期待する「付加価値」を望むなら技術「+α」が重要だろう。

ME化がもたらす新たな成果

ドルッパ2004では大型枚葉機と汎用性を謳った枚葉機が注目された。大型機(マン・ローランド「Roland900XXL」:1300mm×1850mm、KBA「Rapida205」:1510mm×2050o)の狙いの市場のひとつはページ物で、版換え回数、丁合機のボックス数を減らすことができる。大サイズのポスター印刷では、ロットの面で大判プリンターと棲み分ける分野がある。この大きさになると紙搬送のために使われる50本ほどの爪の精度維持技術などにも進んだものがあるのだろう。
薄紙から厚紙への対応を謳う印刷機も増えてきた。印刷機を汎用的に使うことは仕事の切替えに時間が掛かり過ぎること、厚紙を刷ったあとのブランケットの変形、あるいは紙の特性や厚紙と薄紙を主に使う印刷物それぞれの絵柄特性に合わせた各部の調整の必要性など問題が多かった。しかし、印刷機械のME(マイクロエレクトロニクス)化によって各部の調整が簡易化、自動化されて、少なくとも作業時間の点での障害は排除されつつある。 枚葉印刷機の給紙機構では、一本の幅広のベルトで紙を運び(ハイデルベルグ:「シングル・サンクション・センター・フィーダー」)、紙の位置はエアを使って決める給紙方式が発表された。従来の給紙装置では、前当てに紙が当ったときの跳ね返りを防ぐためにコロ、ブラシが使われてきたが、印刷スピードが高速になればなるほどその調整の仕方が結果に大きく影響する。そこで、紙が前当てに当る前に紙の動きを遅くするといった改善がされてきたが、上記の方式は、調整部分の削減とさらなる高速化への対応のために、全く新たな方式を採用して問題を解消しようというものであろう。これも印刷機のME化のなせる技である。

さまざまな影響を与えるオフ輪の進化

カットオフ長を変えられる商業用オフ輪が出された。三菱重工のバリアブルオフ輪「Diamond16MAX」は各シリンダのスリーブを交換することによって、胴周を最大625mmから最小546mmまで変更できる。シャフトレスなので折寸法も自在に設定することができる。スリーブといっても非常に軽量で、各スリーブの交換に要する時間は2分程度である。また、版のスリーブは印刷機から取り外し「機側製版装置」によって印刷した感光材を洗い流し、新たに感光材を塗布して画像を形成、現像して印刷機に取り付けて次の印刷ができる。
ローランドのDICOウエッブは、印刷機上で画像を形成し、印刷後、その画像を削除して再び新たな画像を作って印刷ができるオンプレスCTP方式のDI印刷機だが、同機でも異なる直径のシリンダーを交換してカットオフ長を変更できるという。
胴周でサイズが固定されるというオフ輪の性格が、お互いの機械を有効に活用するという取引の形を作ってきたが、バリアブルオフ輪の普及はその形にも影響を与え得るものである。

オフ輪の小ロット対応はさらに進み、3種のチラシ各2000部の印刷を、毎時6万回転で印刷、15分弱で完了できるまでになった(小森コーポレーション「システム38S」+フルAPC+KHS-AI)。
先に述べたように、枚葉印刷分野でも大型機が装いを新たに登場してきており、少なくとも技術的な観点からは、枚葉機とオフ輪の選定を単なるロットの大小で行うことはできなくなりつつある。

DI印刷機の位置付けと求められる性格

Drupa2004では、前回に比べて数は少なくなったが、改良されたDI(Direct Imaging)印刷機がいくつか出された。
DI印刷機は、印刷機上で刷版製版をする印刷機だが、刷版を内蔵したDI印刷機と印刷の都度、刷版を取り付けるDI印刷機とではその意味が大きく異なる。今後の印刷物生産が向かうCIM(Computer Integrated Manufacturing)では、日程計画、作業指示情報に基づいて生産設備を自動運転することが目標となる。この場合、版の取り扱いが必要な機械では作業者の介在が不可避だが、刷版を内蔵したDI印刷機の場合には、デジタル印刷機と同様の自動運転も可能になるからである。DI印刷機の独自性が最も光る使い方であろう。
そのように考えると、DI印刷機はデジタル印刷機レベルの自動化機能を持つことが望ましい。ドルッパ2004で見られたDI印刷機の共通点は、例えば「2540dpi」、「300線」、「FMスクリーンにも対応」というように、高精細な版を使うようになったことである。品質面で通常の平版印刷機の水準を持つことが必要条件であるということだろう。品質面では、刷版内蔵タイプDI印刷機のユニット間隔の短さからトラッピングの問題を懸念する向きもあったが、大勢を見ると問題ないのだろう。

キーレスインカーと版の適性組合せ

デジタル印刷機並の自動化に関する大きな課題が湿し水コントロールである。この問題へのひとつの対応であり大方の方向でもあるのが、水なしタイプの版を使うことである。もうひとつは、印刷機上で品質チェックを行い、その結果からインキと湿し水の供給量を自動コントロールするものである。DSのTruwPress344は、印刷しながら6枚ごとに印刷物を読みとって分析し、あらかじめ測定しておいた色校正などのオリジナル原稿を比較して自動的にインキ、水の量を調整する(TrueFitクローズドループカラー制御)方式をとっている。
もうひとつの自動化の要素としてインキコントロールがあるが、アニロックス・ローラを使ったキーレス方式がトレンドである。このインキングシステムについては、使う版との組合せがひとつのポイントになりそうだ。ずいぶん前に出された3本程度のローラを使ったキーレス・インキングシステムでは、湿し水のインキつぼへの戻りが大きな問題となった。アニロックス・ローラを使ったキーレス・インキング機構と水あり刷版とからなるシステムでも、同様のことへの対策が重要のように思うが、どうだろうか?DI印刷機自動化のもうひとつの要素として版のプロセスレスがある。

デジタル印刷機に関する認識にギャップ

デジタル印刷分野では、ベンダー側と印刷側で基本的認識に大きなギャップがあるように思われる。カラーデジタル印刷機が印刷業界向けに紹介されたとき、普段不満に思っている顧客からの過剰な品質要求を、今度は印刷側がベンダーに向けたことがトラウマになったのかどうかはわからないが、ベンダー側での「品質」に関する意識は非常に強い。筆者が見た電子写真方式の品質上の疑問点は一般の平版印刷との「質感」の違い、いわゆる「テカリ」であった。この点についてはかなり改善されてきており、現時点では一般的な商業印刷物向けでの利用において品質上の障害はないと思える。
印刷側から見たデジタル印刷システムの現状の問題点は1枚当たりコストの高さだが、この点に関するベンダーの対応は印刷側を満足させていない。

ゼロックスは、ドルッパ2004において、「iGen3」のカウンター料金を、オフセット印刷によるコストとの境目が2000枚程度になるようにすると発表した。全てのコストを含めて2000枚ならば、印刷業界から絶大なる歓迎が示されるはずである。
1枚当たりコストというときには、単に印刷工程だけのコストではなく、ページ単位のデータが出来てから後加工までの全工程のコストを含めて考えるべきである。デジタル印刷システムは、DI印刷機のところで述べたようにCIMの中での設備として対平版印刷機の優位性を持っている。ドルッパ2004では、JDFワークフローの中にデジタル印刷機を位置付けたり、後加工との連携の展示があったが上記の視点からは当然である。
JAGATでは紙媒体への一般印刷以外の産業資材向け印刷分野におけるデジタル印刷機の利用拡大を示唆したが、ドルッパ2004は、特にインキジェットにおいて予測された方向に確実に動いていることを示した。

(JAGAT機関紙「JAGAT info 2004年8月号」)

2004/08/02 00:00:00


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