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変革が進展するDTPアプリケーションとフォントの動向

フォント

2004年の時点で,国内の主要フォントベンダーのほとんどがOpenType製品を発売しており,ラインアップの中心となっている。OpenTypeの最も重要な意義は,MacとWindowsで同じ文字セットのフォントが使えるため,クロスプラットフォームを実現できることと,PostScriptフォントと違ってプリンタフォントを必要としないホストベースフォントということである。国内でのDTPのトラブルの多くが,OS・文字セットの違いやプリンタフォントの有無に起因するものであったことから,最終的にはOpenTypeフォント中心に移行すると思われる。しかし,Mac OS XやDTPアプリケーションの使用率を考えると,実際の使用度合いは,それほど高くはないことが推測される。

OpenTypeの製品化と同時に採用された拡張文字セットは,約9,600文字からなるAdobe-Japan 1-3(Std)と,約15,500文字からなるAdobe-Japan 1-4(Pro)とがある。2002年には,アドビからさらに拡張された文字セットがAdobe-Japan 1-5として発表されており,現在アップル社のMac OS Xにバンドルされたヒラギノフォントで採用されている。
OpenTypeで採用された異体字切り替えの機能を利用できるアプリケーションは,現時点ではアドビのInDesign CS,Illustrator CSとエルゴソフトのEGWORD13(Mac版のみ)の他,キヤノンシステムソリューションズのEDICOLOR7.0がある。

主要フォントベンダーが発売しているOpenType製品のほとんどは,既存フォントをOpenType化したもので,新しくデザインされたフォントは多くはない。新フォントとして発売されたものには,字游工房の「游築見出し明朝体」「游築初号かな」,イワタの「ゴシック体オールド」シリーズなどがある。

DTPソフトウェア

従来,アドビ社のDTPアプリケーションは,製品ごとにタイミングを変えて新バージョンが発売されていた。したがって,発売時期によって製品間での機能差や動作環境の違い,互換性や操作面での違いもあった。2004年1月に発売されたアドビ クリエイティブスイートは,主要4製品のソフトウエアの基本パーツを共有し一斉に発売することで,製品間の互換性が向上し,操作性の混乱も解消されている。
従来のコレクションと呼ばれていた組合せ製品に相当するものがクリエイティブスイートであり,グループワークを支援する機能,バージョンキューが利用できる。バージョンキューは,従来製品のワークグループというファイル共有機能を拡張したもので,各アプリケーションの保存ファイル中のメタ情報を検索・参照し,ファイルの修正履歴やコメント情報を関係者で共有するものである。また,プレビュー一覧から選択することもできる。

単品の製品名は,バージョンを表す数字に代わり「CS」と付けられ,Photoshop CS,Illustrator CS ,InDesign CS,GoLive CSとなった。動作環境は,すべてMac OS X,またはWindows 2000/XPとなっている。InDesign CSは,実質上InDesign 3.0に相当し,操作性・パフォーマンスに大幅な改善が図られたほか,分版プレビューやPDF出力など印刷向け機能の充実も図られている。InDesign CSを始めとしたアドビCSシリーズやOpenTypeは,出版社やデザイン会社の他,企業内出版などでも徐々に導入が増えているようだ。

また,QuarkXPressの最新版である「QuarkXPress 6日本語版」が6月より発売された。動作環境がMac OS X,Windows2000/XPになり,複数の印刷用ドキュメントやHTMLドキュメントを総括して1ファイルとして扱える機能など,クロスメディアパブリッシング機能を強化したものとなっている。
国内のDTP分野でもっとも普及しているQuarkXPressがMac OS Xに対応したことで,Mac OS Xの導入が増えるかどうかも注目される。

国内メーカーでは,出版印刷分野や広報誌制作で定評があるEDICOLOR(Mac/Win)の最新バージョン7.0がキヤノンシステムソリューションズより発売されている。InDesign CS,QuarkXPress6Jと同様に,Mac OS X,Windows2000/XPで動作するものとなり,OpenTypeの異体字切り替えにも対応している。

DTP専用システム

方正のFounder Fitはチラシ向けと情報誌向けに販売されており,データベース連動や台割システム連動などのシステム構築がおこなわれている。Founder Fitは印刷制作会社の他に,印刷の発注元である小売流通業での導入が増えている。シンプルプロダクツのWAVEシリーズは,情報誌や広告の自動組版レイアウトには定評がある。

XML文書とレイアウトソフトの連動

近年,専用システムの多くやDTPソフトが,XML文書との連携を重視した機能拡張を進めている。印刷物とWebなどデジタルメディアの双方を対象にした制作には,XMLデータを中心にしたシステム構築が不可欠であり,様々な形態でのXMLサポートがトライされている。

シンプルプロダクツは,XMLデータベースから自動組版をおこなう,XML Automagicを販売している。モリサワのMDSは,XML文書からの自動組版やWebパブリッシングをおこなう各種のモジュールからなる統合ソリューションで,外字もサポートされている。大日本スクリーンのAVANAS BookStudioも,XML文書から自動組版編集をおこなう機能を装備している。MDSやBookStudioは用語集や辞典類,法令集などのXML化で実績が多い。
アドビのInDesign CSでも,XMLデータを読み込んで組版する機能や,XMLへ出力する機能が強化されている。また,Windows版とUnix版のみとなったFrameMaker7.1は,新たにXML取り込み機能の充実や,最新のPDF出力に対している。構造化されたXML文書の編集制作と印刷の機能に優れており,海外との文書交換の多い大手メーカーのマニュアルなど,企業内出版物を対象に広く利用されている。

PPMLとバリアブル印刷向けの編集ツール

バリアブル印刷そのものは,以前から帳票印刷などの分野で広くおこなわれていた。しかし,モノクロのレーザプリンタ出力が中心であり,編集方法もメインフレーム上でプログラミングによってテキストレベルの編集をおこない,宛名や個人別メッセージなどを差し替える程度のものがほとんどだった。近年,高品質カラーに対応したデジタル印刷機が増えたことや,バリアブル印刷に最適化された言語とRIPの実装,One to Oneマーケティング手法の普及によって,バリアブル印刷が急速に広がりつつある。
PDLの標準であるPostScriptにはバリアブル(差し替え)の概念がなく,大量ページを出力するには,RIP処理がネックとなる。PPML(Personalized Print Markup Language)は,RIP内で同一オブジェクトのキャッシュをおこなうことにより,大量ページの可変データ出力に適した出力言語の規格である。
シンプルプロダクツのFormMagicは,バリアブルプリント用の編集レイアウトソフトである。宛名や画像の差し替えレベルを超えて,パーソナルカタログや,成績表,ビジネスレポート,海外旅行の日程表など幅広い分野のバリアブル印刷を実現することができる。XML,CSV,RDBのいずれにも対応している。
サカタインクスは,XMPie社のパーソナルエフェクトを販売しており,データベースとデザインの要素を,設定したロジック(バリアブルデータを生成するルール)に従って,ダイナミックにバリアブルドキュメントやWebページ,eメールを作成する。
その他に,縦組みやOpenTypeフォントに対応したモリサワ・バリアブル・プリント(MVP)が発売されている。

Acrobat6.0とPDF/X

PDFの生成ツールであるアドビのAcrobat6.0では,新たにPDF/Xフォーマット対応が追加されている。PDF/Xは米国の広告業界を中心に利用が広まっているフォーマットで,データ入稿の信頼性向上と簡便性のためにPDFの機能を制限したものであり,ISO規格となっている。PDF/X-1aでは,フォント埋め込みとCMYKカラーが必須である。そのため,PDF/X-1aであればフォントの有無や色空間の違いによる入稿トラブルは起り得ない。広告業界を中心に,PDF/X-1a による入稿やリモートプルーフを検討しているケースが増加している。

プリンタの動向

プリンタ関連では,大サイズ,高速,高画質化という傾向が進み,特に大判インクジェットプリンタは,あらゆる分野で利用されるようになった。印刷関連では,カラーマネージメントを行なって色校正に使ったり,リモートプルーフ環境での校正に使うことが普及しつつある。また,サインディスプレイ分野でも,熱転写方式とならんでインクジェットプリンタが主流になっている。
一方,ファックスやコピー機能,スキャナ・プリンタ機能を併せ持つデジタル複合機(モノクロ・カラー)は,一般オフィス向けに普及が急速に進んでいる。

2004/08/21 00:00:00


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