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DTPは革命だったのか?

1990年代中期以降の3年ほどで、日本のグラフィックアーツ分野の作業の主流はDTPに変わってしまった。デジタル技術が写植・製版というアナログ技術の将来性を封じ込めてしまった。PAGE94では3年のうちにDTPが半数を占め、その後はアナログはゆるやかに下降するだろうと予測したのだが、どうもプリプレス機器メーカーにとっては、予想よりも速くアナログはゼロに近づきつつあるようだ。

DTPは勝利者となり、DTPで商売をしている人はみな幸せなのだろうかというと、どうも実態は違う。DTPは料金を安くしただけで、売上は上がらず、仕事の時間も短くはなっていないと嘆く人も少なからずいる。これはDTPに期待したことと、本当にこの業界で取り組まなければならないことの間に乖離があったことを物語っている。

とすると、この業界が短期間にデジタル化をしたのは評価できるとしても、DTPは革命と言うようなものではなく、今日の情報環境で重要なことを見過ごしてしまったか、先送りしたことを、今あらためて総括しなければならない。つまり過去の10数年間で我々が獲得できたこと、獲得できなかったことを振り返ってみたい。

実は、DTPが興る前夜の1980年ころと、DTPが普及した今日とは、このグラフィックアーツの世界は非常に似ている。その当時に最も話題なのはCTPであったし、通信利用でビジネスが変わるという話しも随分あった。どうも結局、電算写植やCEPSにDTPが置き換わっただけで、この業界自体が新たな価値を生むようにはなっていない点が大問題なのだろう。

サイテックスでもMacでも何でもいいが、CPUの能力は当時と比べて1000倍以上になったとしても、できあがった1ページが高く売れるようになったわけではない。いったいコンピュータの能力は何に振り向けられたのか? 売るものの価値にコンピュータが貢献していないので、設備化の投資はCEPSからDTPへというダウンサイズのシフトしかできなかったのである。

デジタルに投資して、従来の紙の上の制作から他の分野へ転進できた会社は、ないことはないが、例外的にしか存在しない。そうこうしているうちにグラフィックアーツの世界はシュリンクし始め、紙メディアをどうサバイバルするかという守勢で価格競争だけがテーマになっている。しかしいくら安くしようと、需要の縮むものは縮むのである。

だから、グラフィックアーツの周辺分野になんとか攻め上らないと今後の発展はないので、JAGATでは発展の例としてPAGE99でアメリカのBANTAの人を呼んだ。BANTAも印刷会社なのでグラフィックスのエレメントを制作する部分は今までどおりMac中心だが、ビジネスはクロスメディアパブリッシング、アセッツ管理、アウトソーシング、マーケティングなど、クライアントのサポート業務までしている。

このようになると、設備/システムの幹はサーバプログラムで、枝葉のひとつにグラフィックスがあるという関係になり、幹の方で会社の価値をだす考えである。日本でもオンラインの印刷発注システムを作り、顧客に提供する企業もあるし、今後は仕事を支援するシステムの重要性が増すと思う。いわゆるIT戦略である。

今IT戦略がなく、DTPで行き詰まりを感じている会社があるのは、あまりにも過去10数年間に制作現場のことだけを考えていて、マーケティングの抜けたデジタル化をしていたからであろう。アメリカの例をANPA/NEXPOなどのコンベンションで見ている限り、制作の変化とビジネスモデルの変化は並行していたのだが、その点では日本の業界の遅れを痛感している。

ANPAなど新聞の世界では、当初からQuarkは枝葉に過ぎず、ミニコンでさまざまな業務プログラムが作られて、膨大な案内広告や電子メディアサービスの併用など、新聞媒体のサービス価値をあげる努力をしていた。日本の新聞社はそれをしなかったので、リクルートに情報誌はもっていかれ、新聞はその分野の価値を高められなかった。

当時は日本ではメディア業者もクライアントもオフィスのコンピュータ化自身がおぼつかない状態であったし、DTP前夜のころは電算写植もCEPSも専用コンピュータであったので、このようにグラフィックスと他のサポート業務を統合することは大変困難で、また算盤の合わないものであった。しかし、今の日本のデジタル化の状況を見ると、できるのにしていない会社が多い点が、ITで発展するアメリカの企業と日本のギャップだろう。

例えば通常の技術はアメリカから3〜4年遅れで日本でも普及するが、QuarkのQPSは7年以上経っているのに、日本ではほとんど話題になっていないというのも制作のデジタル化にしか意識がいっていない証拠であろう。世界のQuarkユーザのレベルではQPSはすでに越えて、アセッツ管理やXMLが話題であるのに、日本のDTPは現場任せで、先のことを聞いたり語る機会が非常に少ない。

というわけで、JAGATとしては、「制作のことはだいたいレールが敷かれているのだから、それはそれでいいでしょう。それよりももっと今日的に意識しなければならないのは、価値の高いサービスを目指して勉強や投資することでしょう。」というつもりで、PAGE2000のコンファレンスを企画した。

巷では相変わらず、どのマシンがいいか、WindowsかMacか、このアプリのTIPSは裏技は、などのDTP情報が主である。速いマシンは誰でも買えるもので、利用者としては、Photoshopが速い!よりも効率の良い画像データベースやワークフローのことを考えることが先決だろうが、その種の情報はDTPの雑誌でもなかなか取り上げない。PAGE2000の主旨は、価値を生む方向にシステムを発展させる、に尽きる。

PAGE2000では、経営者から担当者まで各階層にフィットするイベントを3日間に凝縮していて、特にコンファレンスとつくテーマは、今後3〜5年後のビジョンをつくるための話し合いであり、セミナーはすぐに射程に入らなければならない問題を扱う。最新技術のトレンドや経営戦略のためにも PAGE2000 にご注目ください。

1999/12/23 00:00:00


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