本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

『本とコンピュータ』編集長が捉える「読者」の姿

あと1年、計4号で終了する『季刊・本とコンピュータ』。その最後の編集長を務める仲俣暁生氏に、今の「読者」の姿をどのように捉えたらよいのか、話を伺った。

――――――Q1■『季刊・本とコンピュータ』は9月に出る第二期13号を含めて、あと4号で終了ということですね。仲俣さんは最後の編集長ということになりますが、残り4号をどういう編集方針でCLOSEさせようと考えているのでしょう。

『季刊・本とコンピュータ』 という雑誌は、大日本印刷のサポートのもとで97年に創刊され、私は創刊からデスクとして参加していました。 97年から4年の期間限定で開始したのですが、2001年の第一期終了時に、あらためてさらに4年という期限を区切って第二期をはじめることになり、今年がその最終年度にあたります。

私は当初、「本とコンピュータ」のウェブサイトの編集長をしていたのですが、昨年から印刷版の編集長をまかされました。第一期の編集長でいまは総合編集長である津野海太郎氏と終刊に向けてのプランを検討するなかで、最終年度は過去7年の経験を総括するため各号を「総まとめ特集」とし、9月発売の13号では「出版電子化」を、以下「読書習慣」「出版ビジネス」「出版国際化」をテーマに特集することになりました。もちろんこれらのテーマは相互に絡み合っています。出版界に起こっている一つの大きな変化を、四つの角度から切りとってみよう、ということです。

――――――Q2■アマゾン・モデル、ブックオフ・モデル、読める0円雑誌モデルの登場、自費出版の隆盛。一方で青山ブックセンター倒産問題や出版社の持ち株会社への吸収など象徴的とも思える環境変化がにわかに起きつつある気がします。どうも読者というものが従来型の出版業界にとっての顧客イコール読者という図式で括れなくなってきているのではないかと感じられます。

おっしゃるとおり、「読書」と「本を買う」ということが分離しつつあると思います。人々はあいかわらず本を読んでいるのだけれど、必ずしも新刊書を買っているわけではない。出版不況やデフレとの関係もあるでしょうが、図書館で借りたり、新古書店で安く買ったり、フリーペーパーやインターネットのような無料メディアも、「読む」ということの対象になりつつありますね。選択肢がこれだけ増えたなかで、ビジネスとしての「出版」がどのような魅力を打ち出せるかが問われているのだと思います。

――――――Q3■Webや特に携帯を通して「文章化されたおしゃべり」が夥しい量流通しだし、ブログも含めて情報の消費速度が瞬間消費と言っていいほど速くなっている気がします。仲俣さんは今の読者の姿をどういう風に捉えてますか?

なにが正当な「読書」なのか、ということについては、世代によってずいぶん感覚が違うと思いますね。たとえば私は1970年代の終わりにエンタテインメント向けに大きくリニューアルした「角川文庫」で本を読み始めた世代ですが、そうした世代がもう40代になろうとしています。宮部みゆきさんや京極夏彦さんなど、直木賞作家をとるような本の書き手の中核も、いまやその世代です。さらにその下には、ネット世代、携帯電話世代がいて、そこからも新しい書き手が次々に登場している。当然、彼らの「読書」に対する感覚は、私たちの世代ともまた違うものだと思います。

私がこれまで編集者としてやってきた仕事が、書物ではなく雑誌が中心だったせいか、ネット上でのテキストの流通にはあまり違和感がありません。自分でも昨年から実験的にブログサイトをはじめたのですが、思いのほか反応があり、フリーランスの立場で出版にかかわるものとして、大きな力になってくれています。今回のシンポジウムでは、インターネットが「読書」にもたらした影響がひとつのテーマになると思いますので、このあたりは、9月のシンポジウム当日にパネラーの方々にも、話をじっくりうかがってみたいと思います。


仲俣氏のインタビューの最後にあるように、9月22日、JAGAT技術フォーラム主催でシンポジウム「10年後の『読者』像」 を開催します。まさにパソコンと共に育った世代が社会の中核となったとき、紙メディア、本がどのように求められるのかを、仲俣氏にモデレーターをお願いし、考えてみることにしました。読書の秋の1日を、印刷と出版ビジネスの前向きな展望を練る時間にあててみませんか。

2004/08/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会