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大きく変化するデジタル印刷、特殊印刷の世界

機能、市場を拡大するデジタル印刷

電子写真、インキジェット方式のデジタル印刷機の機能は年々向上している。解像度は2400dpi、網点線数換算では175線に匹敵するものになり、色の再現域の広さでは従来の印刷を超えるものもある。印刷スピードも連続紙を用いて100m/分を越えるものも出てきている。被印刷体も、エンボス、きらびき、トレーシングペーパーなど、選択肢が広がってきている。

デジタル印刷システムの現状の問題点は、何と言っても1枚当たりコストの高さである。ゼロックスは、ドルッパ2004において、「iGen3」のカウンター料金を、オフセット印刷によるコストとの境目が2000枚程度になるようにすると発表したと聞く。もしそれが全てのコストを含めて2000枚ということであれば、印刷業界から絶大なる歓迎の意が示されるはずである。
1枚当たりコストというときには、単に印刷工程だけにおけるコストだけではなく、ページ単位のデータが出来てから印刷物として完成、必要なところに届けられるまでの全てのコストを含めた比較でもよいはずである。ドルッパ2004では、JDFワークフローの中にデジタル印刷機を位置付けたり、後加工との連携の展示が見られたが、上記のような視点からは当然のことである。

一方、従来、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷で印刷されていた特殊印刷分野での利用は拡大しつつある。Drupa2004では、UVインキを使用したインキジェットプリンターが注目された。ただし、従来のグラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷が担っていた大量印刷を代替するのではなく、小ロット印刷に新しい選択肢を加えたということである。

多様化が進むフォーム印刷

フォーム印刷、フォーム印刷業界は、デジタル印刷システムのバリアブルデータ印刷機能、向上するカラー印刷能力を生かしながら、新たな市場を開拓している。請求書の印刷では、到達率の高いメディアとしての特性を生かした販売促進印刷物としても利用するために、プロセスカラー印刷を目指す動きが見られる。
フォーム印刷の市場は、帳票を挟み込んだ巻き折形式のDM、示温インキを使ったセキュリティ印刷などの多様化が進み、それに対応するために印刷機はシャフトレスになり、平版、フレキソ、シルクスクリーンといった異なる印刷方式や後加工ユニットの選択と配置ができるフレキシブルなものになってきている。今後は、「ICタグ」に関わる市場、技術からも目が離せない。

水性化へのチャレンジが続くグラビア印刷

グラビア印刷は、高速化、幅広化したオフ輪からの脅威を受け続けている。日本における出版グラビアインキの出荷量は、1995年をピークに年々減少してきた。したがって、出版グラビアは、KBA社が4.3メートル幅といって超大型機の投入によって大ロット市場で生きる方向にある。そのような中でも、製版工程のスピードアップの技術開発は続けられ、シンクラボラトリーは、出版用の幅広シリンダーでも4分で版が出来あがるレーザーグラビア刷版システムを発表した。このシステムによって作られる版は、水性グラビア印刷用の版として求められる、高精細、浅いセル深度といった条件を満たすという。

グラビア印刷の最大の問題は何といっても環境問題である。UVインキが使えないためにVOC対策としては水性グラビア化が大きな課題となっており、その研究開発、導入が進められている。
しかし、7年間かけて水性グラビア比率を60%強にまで高めたコンバータが「水性グラビアは油性グラビアの代替ではない。全く別の新しい印刷技術であり方法である」というように、ハードルはかなり高い。乾燥性の問題、被印刷体との濡れ、インキの潤滑性などに直接関わる要因が複雑に絡み合うからであり、インキ、版、被印刷体、印刷機それぞれの改良が必要になる。また、技術的な問題の解決とともにコスト高の問題にも対処しなければならない。
「埼玉県生活環境保全条例」をクリアすることが当面の目標と思われるが、ハイブリッドインキやアルコール量を30%以下に押さえたインキを使いながらVOC量0%を目指していくことになるようだ。現時点における水性グラビアの到達度は6合目当たりというのが業界人の評価である。

現時点でのグラビア印刷の水性化率は5%未満と推測されているが、利用者の声は概ね良好である。水性グラビア印刷の採用例は食品パッケージで圧倒的に多いが、「臭気」がないことに大きなメリットを感じている。品質についても問題ない。あとはコスト高の問題が残されている。

環境問題対応で拡大を狙うフレキソ印刷

フレキソ印刷が、再び日本でも注目されるようになった。いままでにも何度か関心が寄せられる時期があったが、すぐに熱も冷めるということの繰り返しであった。しかし、今回は、CTPが実用化されて印刷物品質が向上したことと、UVインキのような無溶剤インキでの印刷が可能なことによる環境問題対応でのグラビア印刷に対する優位性が注目されてのものあり、以前とは大きな違いがある。

フレキソ印刷が日本で伸びない最大の要因は品質である。軟包装の印刷では、技術的には200線での印刷も可能だが、総合的にみると120線が推奨のようだ。グラビアに対する解像度、グラデーションにおける品質差は否めないだろう。ただし、品質に関してはもともとオーバースペックが要求され、エンドユーザーの目から見れば品質的に十分といえる分野は多いはずである。もうひとつ、製版資材のコスト高という要因もあるが、これについては市場の伸びともに薄れていくだろう。

いずれにしても、環境問題への対応がより深刻な課題になることは間違いなく、グラビア印刷に対してはUVインキや電子線硬化型インキを使えることは有利である。また、水性フレキソ印刷も目指される。ヨーロッパでは、段ボール印刷で100%、紙器印刷で47%が水性インキで印刷されている。したがって、紙器印刷や段ボールの印刷では水性フレキソインキ、フィルム印刷ではUVインキや電子線硬化型インキでのフレキソ印刷になるとみられている。

2004/08/31 00:00:00


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