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「読者」の新しい読み方・使い方

これまで本、雑誌、新聞の読み手を通常「読者」と呼んできた。しかしインターネットの登場とそれに伴なうライフスタイルの変化とメディアへの接触の仕方の変容が、新しい読者の姿を作り上げつつある。
それに直接、間接に関わるいくつかのデータ、情報を拾ってみた。

●国民1人当たりの紙・板紙消費量は米国、中国に次いで日本は世界第3位。
――――「図表:紙・パルプ統計2003年版」(日本紙パルプ商事)より

●2002年に全世界で生産された情報量のうち、紙の印刷物、フィルム、電磁的ストレージメディア、光学的ストレージメディア(CD、DVDなど)に記録された情報量は約5,000PB。そのうち電磁的メディアに記録された情報は92%に達し、フィルムは7%、紙は0.01%、光学的メディアは0.002%だった。これに対して電話、ラジオ、テレビ、インターネットなどを通して流れるフローデータの合計量は年間約1万8,000PBに達し、このうち98%にあたる約1万7,300PBは、固定電話と携帯電話による通信だった。
――――米カリフォルニア大学バークレー校・School of Information Management and Systems調査より

●出版最大手の講談社の2002年度書籍刊行点数は2310点、自費出版最大手の文芸社が1797点で、2位に入っている。
――――「日本の出版統計」(出版ニュース社)より

●オンライン書店の市場規模は、2001年・140億円、2002年・240億円、2003年・330億円と拡大を続けている。
――――『出版月報』より

●コミケット(コミックマーケット)の規模は回を重ねるごとに大きくなってきている。例えば、2002年度の夏の開催は3日間東京国際展示場を借り切って、販売者3万5000サークル、参加者のべ48万人にまでなっている。
――――「Wikipedia」より

●アニメとコミック、ゲーム、アイドルの4分野を支える「オタク」人口が約280万人に達し、彼らが購入する年間の市場規模は約2600億円に達し、「もはやオタクはニッチ(すき間)市場ではない」と報告書で結論づけた。国内市場の規模としては「新三種の神器」とされるDVDレコーダーの約1500億円(2003年度)やデジタルカメラの約2500億円(2003年度)を上回る。また、マニア消費者層はインターネット利用率と情報発信能力が高く社会的影響力が強いことや、関連する分野をまたがり集団を形成していることも明らかになった。即ちマニア消費者層は、購買意欲が高いだけでなく、コミュニティー形成の核、次世代技術の革新の場、新商品の実験対象としての価値も高く、近未来の商材を見極める意味で産業的視点からの期待される役割が大きい母集団であると言えるとしている。
――――「「オタク層」の市場規模推計と実態に関する調査」(野村総合研究所)より

●中学生から30代までの男女調査では、インターネットのヘビーユーザーは「大学生」と「フリーター女性」で利用時間は1日平均60分程度である。雑誌はどの属性も、接触総時間量の1割程度である。新聞、他の媒体に比べて接触時間が最も少ないメディアである。
――――「TOKYO FM若者ライフスタイル分析2002-2003」より

●過去3ヶ月に本を読まなかった人に関する調査では、2003年までの過去3年間で、20代、30代男性の比率が大きく増えている。一方で10代女性が大きく減っており、10代男性も横ばいにある。
――――読売新聞広告局調査より

●10年間の紙の需要構造の変化を見ると、年々印刷・情報用の割合が高くなっている。ちなみに2001年には印刷・情報用が48.8%、包装・加工用が45.8%、衛生用が5.4%となっている。
――――日本製紙連合会より

●日本のパソコンの代名詞であったNECの98(PC-9801)が受注を終了させ、その歴史を21年で終えたという昨年9月のニュースは一つの歴史の幕引きであると同時に、その21年という時間の幅の中で、パソコンの日常化と共に生まれ育った最初の世代が、すでに成人していたのだということに気づかせてもくれたのだった。
ちなみに任天堂のファミコンも1983年に登場しており、1987年には携帯電話がレンタル形式で登場している。そこから起算しても17歳である。
今の社会には、一生パソコンに触れないで過ごしてしまう層と中途でパソコンに出会い習得した層と生まれながらにパソコンが当り前にある層の3つの層が並存している。
そして生まれながらの層の一番上が、あと10年もすれば30代になり、生活者としても消費の大きな担い手となり、労働者としても中核になってくる。それはビジネスのさまざまな局面で、決定権を持つボリュームゾーンになり始めるということも意味する。
――――『Techno Focus2004年8月24日号』(JAGAT)より


あたまでも触れたが、10年後には今即座にイメージする本、雑誌、新聞とは違うメディアあるいは活用形態の中で、「読者」がものを読んでいる姿が見えてくる。インターネット、携帯などのデジタルメディアのみならず、紙の媒体も新しい「読者」が新しい活用形態で読むようになるのではないか。
そこから、これからの印刷ビジネスの可能性も見えてくるはずである。それはこれまでとは違う営業ルート・窓口や新しいパートナーとのアライアンスの可能性、フルフィルメントの可能性、バリアブルの活かし方等々を見出すことに結びつくはずである。
そういう観点も交えて、来る9月22日にシンポジウム「10年後の『読者』像」 (JAGAT技術フォーラム主催)を開催します。読書の秋の1日を、印刷と出版ビジネスの前向きな展望を練る時間にあててみませんか。

2004/09/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会