本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

伸びが期待されるオーストラリアの印刷産業

■ASIA FORUM
JAGAT info 特別企画
2004年2月号から

2004年9月15日

社団法人日本印刷技術協会・専務理事 斎藤 不二男

【データ検索】

  オーストラリアの印刷産業の状況を表す資料が手に入った。JAGATが発起人になりアジアの印刷技術の情報交換を目的に発足した「FAGAT」は,2004年3月にマレーシアの主催でクアラルンプールにおいて「第7回FAGAT」が開催される。徐々に広がる印刷分野の国際化の中で,まだ細々 FAGAT参加メンバーは日本と韓国,中国,フィリピン,タイ,シンガポール,マレーシアの7カ国で行われてきたが,今回の第7回開催からはオーストラリアが参加することが決まった。先般オーストラリアの参加団体であるPrinting Industries Association of Australia(PIAA)から『Industry Overview 2001』が送られてきた。オーストラリアは普段ほかのアジア諸国とは違い,接する機会が少なく印刷産業の状況もよく分からなかった。PIAAの資料を基にオーストラリア印刷産業の状況の一部を紹介する。

低インフレ率・低失業率で活気ある経済

オーストラリアの人口は2002年9月現在で約1970万人で日本の15.5%,GDPは日本の10%だが,1人当たりGDPは80%で下記の表の通り、世界の13位を占めている

オーストラリアと日本の人口とGDPの比較  
オーストラリア日本
 伸び率日本比 伸び率
人口(万人)2002年1,973 15.5%12,744 
GDP(百万US$) 2000年 377,064   7.9% 4,765,313 
2001年357,324-8.8% 8.6% 4,141,431 -7.8%
2002年397,725 11.3%10.0% 3,991,841 -3.6%
1人当りGDP(US$)2000年23,549  62.7%37,561 
2001年23,463-0.4%72.15 32,523-13.4%
2002年25,2317.5% 80.6%31,293-3.8%
出典:総務庁統計局「人口推計」、Australia Web{オーストラリアの概要}、国際貿易投資研究所「国際比較統計」

オーストラリア経済は,2003-04年度の年間経済成長率は3.25%を予測し,13年連続でプラス経済成長を維持している。成功の背景は,低インフレ率と低失業率の下で活気ある開放された経済運営にある。
経済の基本はサービス産業が中心で,国内生産は農林水産・鉱工業である。主な輸出品は観光業,石炭,アルミニウム,教育関連となり,最近はワイン産業の伸びも大きい。
日本との関係を見ると,輸出は1位で石炭,鉄鉱石,アルミニウム,牛肉などの鉱物・農産物が多く,輸入は米国に次いで2位となり,自動車関連,コンピュータ関連が高い。物およびサービス分野の輸出入はオーストラリアの約6680百万豪ドル(1豪ドル=70円換算で約4676億円)の輸出超過である。

全製造業のうち売上高5位の印刷産業

印刷産業はオーストラリアとニュージーランドの標準工業規格コード(ANZSIC)で表1のように分類され,その他として,「2547 インキ,2869 紙製造機(抄紙機),印刷機,2640 塗工紙(研磨),2563 軟包装」となっている。今回のデータは233のうち紙加工品の一部と241,242,243の印刷関連について記載した。
印刷産業の中心は「2412 印刷」で雇用は約4万人,売上高は約4000億円を占めている。1人当たり売上高生産性は日本と比較し約半分である。
1998-99年度(1998年7月〜1999年6月)時点の印刷・出版・情報記録産業は全製造業のうち,雇用で10.8%,賃金で10.8%,売上高で7.2%を占め,売上高順位は5位である(表2)

2000-01年度の実質GDPは6414億豪ドルで,産業別のGDPに占める割合は,サービス産業69.9%,製造業12.0%,鉱業5.3%,農業3.1%となっている。印刷産業は約1.2%である(ちなみに日本の印刷産業の割合は近年下降してきたが1.6%である)。オーストラリアは日本と比較しサービス産業のウエイトが高いが,製造業のウエイトは低い。よって印刷産業は製造業の中では重要な位置を占めているが,GDP比率から見るとまだ低い。今後印刷産業の成長は高くなると思われる。

1991-92〜1999-00年度の付加価値の変化が図1である。1991-92年度の経済衰退後印刷産業の付加価値は前年比マイナス6.6%に急落した。その後1992-93,1994-95年度に回復し,1998-99,1999-00年度と急成長した。その間はGDPほどの成長率ではないが連続して高い付加価値を得ている。過去9年間の全製造業の平均伸び率が2.1%に対し印刷産業は3.3%と高い伸びを得た。よって全製造業の付加価値に占める割合も,1991-92年度が8.7%であったものが1999-00年度では9.9%に上昇し,付加価値額は1.4倍にもなった(表2)。

規模別の生産性は日本とほぼ同等

印刷産業の企業数に関する統計データは発表されていない。ただ20人未満の企業が85%,100人以上の企業が3〜4%と発表されている。それらから想定して企業数は約5600社であろう。企業数では20人未満が多いが,3〜4%しかない100人以上の規模の企業が雇用では43.4%,売上高では55.8%に達し,日本と比較しやや規模の大きい企業のウエイトが高い(表3)。企業規模による生産性は従業員規模が多くなるに従って高く,100人以上の規模は20人未満と比較し約2倍の生産性をもっている。日本の構造とほぼ同等と言える。

表4が商業印刷の損益計算である。売上規模が低いサンプルであるため日本との比較は難しいが(日本円換算で40万豪ドル未満は28百万円未満,2百万豪ドル以上は1億40百万円以上),変動費の材料費比率が高く,後述の用紙輸入比率の高いことと関連がありそうだ。外注費は極めて低く基本は内製化が進んでいる。固定費のうち人件費は役員報酬が純利益に含まれているため明らかでないが,規模の小さい企業では労働分配率が50%を超え,企業規模が大きくなるに従いやや低くなるようだ。設備費は概ね10%と高い。最終利益は役員報酬を引くと必ずしも高いとは言えないようだ。

機械設備・用紙の輸入依存が大きな課題

印刷産業は1990年代の始めを除きGDPの伸びほどではないが着実に伸びてきている。そのために近年の技術革新を積極的に取り入れている。図2は1987-88〜1999-00年度の設備投資と印刷機・製本機の輸入の推移を示している。設備投資の増減がほぼ機械設備の輸入の増減に匹敵し,機械設備が輸入に依存している状況が分かる。
設備投資ができるかどうかは企業の利益率の水準がどの程度あるかで決まる。1995-96〜1996-97年度の低迷時期を除き順調に増加している(表5)
印刷産業は,資材・機械を輸入に依存している(表6)。印刷関連全体で1999-00年度は約27億64百万豪ドル(約1935億円)の輸入超過になっている。印刷・製本機械は輸入全体の12%を占める。生産高の少ない地方の企業は機械の輸入コストが大きな負担になっている。

印刷物も輸入超過で,特に輸入が1998-99,1999-00年度と2年も10億豪ドル(約700億円)を超え上昇傾向にある。印刷業界の今後の課題は輸入印刷物の削減である。そのための新技術の開発,品質改善と向上,生産性の向上,マーケティング,そして政府の支援が考えられる。 パルプ・紙・板紙のうち印刷・筆記用紙は60%以上を下記の図のように輸入に頼っている

紙の生産と消費(1998-1999年度)(単位:千トン)
品種生産輸出国内販売輸入消費
新聞用紙40413391275666
印刷・筆記用紙497594387181,156
ティッシュ2081519340233
包装・工業用紙1,4312891,1422641,406
合計2,5403762,1641,2973,461
出典:オーストラリアパルプ・紙製造連合会

常に業界は紙の国際価格の影響を直接受けている。すなわち世界的市況品であるパルプは,1994-95年度では1トン当たり380米ドルのものが高いものでは950米ドル,250%にもなった。その結果,紙価格はグレードによるが40〜80%も上昇した。1994年から1997年に掛けては需要は伸びたが,豪ドルの下落により紙価格は安定した。ただしこの時期にアジアの経済危機があったためで,もしアジア危機がなければ紙価格は大きく上がったであろう。1999年始めのパルプの価格は1トン460米ドル,半ばでは520米ドル,終わりには600米ドル近くになった。さらに2000年後半には700米ドルにまで跳ね上がった。そのため印刷価格は25〜30%上昇した。このようにパルプ,紙を輸入に多く依存しているオーストラリアでは市場価格と対米ドルとの関係が印刷価格,経営に微妙に影響している。

年率6%の伸びを予想

オーストラリアの印刷産業の展望は,Econtech社の『The Growth Grid』2000年第2号に紹介されている。印刷・出版・情報記録産業では,国内販売は2002-03年度までの3年間は平均年率6.0%の伸びが予想される(下図参照)。

実質年間伸び率の予測  出典:Econtech『The Growth Grid』2000年第2号
印刷・出版・情報記録産業紙・紙加工品製造業
 2001-2年2002-3年 2001-2年2002-3年
国内生産10.4%4.3%国内生産6.7%0.7%
国内販売9.3%4.2%国内販売4.3%0.8%
輸出13.0%7.9%雇用-1.2%-3.5%
輸入1.9%4.7%   
雇用0.8%-1.6%   

堅調な需要増に伴い,同期間の生産も記録的な成長を遂げ,同6.6%の伸びが予想される。生産物の大半は国内で販売され,輸出は総売上高の約3%である。輸入品は主にCD,ビデオ,コンピュータ用テープや印刷物だが伸び率は低い。

2004/09/03 00:00:00