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XML自動組版によるドキュメント制作

 Webサーバ,XMLデータベース,自動組版エンジンを組み合わせたシステムを利用して,XMLドキュメントの作成や修正,運用管理をするASPサービスについて株式会社テックコミュニケーションズの森本 裕氏にお話を伺った。

「自在空間」開発の経緯

 「自在空間」は,インターネット上で,XMLデータベース,自動組版エンジンを組み合わせたシステムを利用してデジタルドキュメントの国際標準形式XMLドキュメントの作成や修正、運用・管理を提供するXML自動組版ASPサービスである。
 これは,取扱説明書などのテクニカルドキュメントの制作を一元化することを目的としている。「一元化」の意味は,単に一ヶ所で制作するだけではなく,テクニカルドキュメントのデータベースを構築し,コスト削減につなげることも含む。

 ドキュメント制作をいかに効率化していくかという課題において,当初はSGMLによるドキュメント制作を模索していた。
 しかし,設備コストや柔軟性の問題などから,マニュアル制作にSGMLを利用することは難しいと判断し,XMLに方向転換した。
 XMLは,電子商取引などのデータ交換フォーマットとしてその優位性が注目されているが,デジタル文書をXMLで記述すれば,効率的な文書管理が可能になり,文書管理の分野でも,XMLの利点を生かすことができる。

 最近は,商品のライフサイクルが短くなり,モデルチェンジが頻繁に繰り返され,取扱説明書などのドキュメントを短期間で大量に改訂する必要性に迫られている。海外に商品を輸出している場合は,日本語以外の言語についても対応しなければならない。そのうえで,制作コスト,管理コスト,運用コストを抑えていくことが要求されている。
 また「出張時に分厚いマニュアルは持ち歩きなくない」「どこにいても最新情報を必要なときに入手したい」というような,従来の紙のマニュアルにはなかった要望がある。つまり,多言語への対応,目的別マニュアルへの対応,用途別マニュアルへの対応と,短期間での大量文書制作を両立していかなければならないのである。

 一方,当社で制作してきた産業機器のマニュアルを分析してみると,次のような傾向があることが分かった。
 まず,過去に制作したマニュアルからの文書流用が多いということである。新しいマニュアルを制作するときに,約70%が流用できるという分析がでている。もちろん,すべてがそのまま流用できるわけではなく,そのうちの約40%については,テキストを修正したうえで流用が可能,15%については,イラストを修正して流用が可能,残りの15%については,修正をせずに流用できる。
 このように,流用文書が多いということで,XMLによるワークフローを構築することの効果が発揮されると考えている。

 さらに,マニュアルには,ページデザインに規則性があり,手順の説明などがモジュール化されているという特徴がある。つまり,マニュアルは構造化や標準化が可能なドキュメントである。
 したがって,マニュアルの制作手段として,XMLによる運用が可能であるという結論に達した。
 以上のような経緯から,XML自動組版システムの構築に取り組み,まず,社内用のシステムを構築し,そこにWEBサーバを追加して,インターネットエクスプローラーを使って閲覧・編集ができる形にしたものが,「自在空間」のシステムである。

制作ワークフロー

 文書分析をして作成したDTD(文書定義ファイル)と,XSL(スタイルシートファイル)をXMLデータベースに入れる。
 次にテクニカルライターが作成した原稿に,XMLのタグを付与したファイルもXMLデータベースに入れる。
 理想的には,ライターにタグを付けてもらいたいが,ライターのXMLの知識修得やスキルが必要になるので,現時点では,一部でライターによるタグ付けを行っているが,ほとんどは別ラインでタグを付けている。

 またXMLタグがついた原稿を,TRADOSを使って翻訳している。これによって,翻訳が完了した時点で,タグ付きの翻訳原稿が完成し,組版に関する処理は,イラスト処理や改ページ,レイアウト調整の作業などを除き不要ということになる。
 このようして各種原稿がそろえば,あとは出力形態にあわせたスタイルシートを適用して,自動組版処理をして,HTMLやPDFなどの形式に出力する。

XML化によるさまざまな効果

 新規文書の作成において,和文と英文を同時進行したケースを考えてみる。XMLの場合は,「タグ付け」という作業が発生するが,編集はタグに基づいた自動組版なので,レイアウトの最終調整の作業が発生するだけで,DTPの場合より大幅に圧縮される。また英文は,タグ付けについて和文原稿のタグ情報をキープしながら翻訳するので,基本的には不要となり約5%から25%のコスト削減ができる。
 また,制作期間短縮については,XMLの場合は,タグ付けの作業があるので,原稿作成段階では,DTPより制作期間が長くなるが,編集作業の時間が圧倒的に短くなるため,DTP編集と比較して和文では約23%,英文では約16%の短縮となり,トータルで約20%の期間短縮となる。

 さらに,流用率70%のモデルでは約25%のコスト削減が期待できる。なお,翻訳にはTRADOSを使用することを前提としているので,翻訳メモリーの構築状況によっては,さらなる削減も考えられる。  条件設定において,DTDやスタイルシートの作成費用はイニシャルコストとしているが,そのコストも数本のマニュアル制作で回収できると考えられる。
 多言語対応については,XML文書をそのままTRADOSを使って翻訳することにより対応している。翻訳メモリーを使うことによる表現や用語の統一,さらにタグをロックしたまま翻訳することで編集時間の大幅短縮を実現する。

 また,このシステムでは「差分抽出」という機能を実装している。まず,和文で修正された部分を抽出してダウンロードし,その部分の翻訳ができたら,データベースにアップロードする。これで,英文修正版の組版まで完了することになる。この機能を利用すれば,和文で修正や追加・削除された部分,いわゆる「差分」を自動的にピックアップすることができるので,翻訳指示原稿の作成を効率化することができる。

 目的別マニュアルや用途別マニュアルへの対応という点では,目的別や用途別のスタイルシートを準備することによって,いわゆる「シングルソース・マルチユース」が実現する。例えば,インターネットへの配信や,マニュアルから必要最小限の部分を取り出して「クイックガイド」を作成することに対応できる。

 このように,XMLによるドキュメント制作に取り組み,自社内ではすでにシステムを構築し,ドキュメントのXML化を強力に推進しているが,一方で,ASPとして「自在空間」のサービス提供を開始するに至った。
 簡単な修正作業をクライアントサイドで処理していただくことにより,ドキュメント制作コストを削減し,合わせてシステム構築の初期コストのかからないようなソリューションを提供すれば,クライアントにとって,XMLの導入がしやすく,当社の強みも生かせると考えた。さらに,この方法では,クライアントサイドでのオペレータ育成も容易である。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2004/09/10 00:00:00


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