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DTPのまわりにできつつある新たなデジタル環境

1980年代に入って日本語ワープロが登場した当時は、ワープロでの文書作成はすべて白紙からの打ち直しであったために、文字入力作業が最大の課題であった。そんな中で「かな漢字変換」の発達もあったわけだが、数年すると入力作業の需要はだんだん減っていき、それまで団地の主婦に大量にワープロをばらまいて作業依頼していた入力業者も淘汰されていった。

印刷の得意先で出版界は特異な世界らしく、いまだに文字入力の仕事がある。しかしそういう需要があるからといって、世の中全体の動向を否定してしまうわけにはいかない。そこで出版社にDTPソフトを渡して自分で組んでもらって、それを入稿するとか、編集者がWEB上で簡易組版できるASPサービスとか、取り組む印刷会社が増えつつある。

それでも出版のデジタル化は組版で終わりではない。本来ならばコンテンツホルダーとして、持てるコンテンツをいろいろな形態で最大限に売ることが出版ビジネスを好循環させる戦略である。それはデジタル・ITの普及で行いやすくなったとはいうものの、電子編集やDTPでまごついいるところが日本の出版界ではいまだに見受けられる。

出版界以外は自社内の作業、とりわけ基幹業務に近いものほどIT投資がされるようになってきた。AVを扱う放送業界ですらデジタル化し、どんな仕事するにもサーバ、サーバ、サーバ、…という状況になりつつある。画像も映像も音声も、数年もしないうちに、新規にデジタル化するよりも、デジタルになったものを再利用することの方が多くなるだろうといわれる。つまりオフィスが電子ドキュメント化したようなことが、10年遅れて全メディアの仕事に広がろうとしているのである。(でも出版はその限りでないかもしれないが)

PAGE2004の時に三菱電機のカタログの話などは典型的であったが、印刷物の発注者は社内での開発/製造・販売・サポートなど異なるセクション間で商品に関する情報を同時に扱えるようにすることが大きな課題で、そこに印刷物原稿も統合されてしまおうとしている。つまりCMS(コンテンツマネジメント)のデータベースから必要な情報を引き抜いて、電子カタログやWEBや自動組版するところまでの仕組みを社内に築いているところもあるし、その一部だけを社内においてWEBや自動組版をアウトソーシングしている場合もある。

最近はPDFワークフローが印刷界でも話題だが、発注者側でも自動組版の結果をPDFにして印刷会社に渡すようにしているところがある。PDFワークフローはある意味では情報を管理する側と印刷側の明確な役割分担を実現するものかもしれない。PDF入稿、つまり印刷会社はPDFを受け取って刷るというのが、PDFワークフローの先に待ち構えている状況であることは確かだ。

では印刷側は今後どのような対応をするのがよいのだろうか? 答えはDTPのより高い生産性と、より付加価値のあるページレイアウトだろう。つまり自動組版の質で発注者に勝たなければ、本当に刷るだけのビジネスになってしまうだろう。生産性向上の第一点は、いいかえると段取りの問題であり、レイアウトのテンプレート化とか、原稿への自動マークつけをして、流し込みの自動化の前段階をスマートにすることである。

第二点目は、個々の仕事というよりはインフラの問題であり、出力に必要なデータをいかに間違いなく素早く取り出すか、あるいは組版段階での情報変更を、大元のデータベースに戻すかなどについて、受発注にまたがる土台を作っておかなければならないことだ。これは今日的な言い方をするとCMS(コンテンツマネジメント)になる。

DTPとコンテンツ管理の関係は、QuarkがQPSやQMSなど素材データベース的なものを発表していたことが記憶にあるだろうが、残念ながら日本での利用例はほとんどない。かといって日本にCMSがないわけではなく、今日ではQPSなどを使わないでも他の方法で実現しやすくなったからであるともいえる。しかし今は個別に現在の仕事の流れを分析してCMSを導入とか設計しているので、それとDTPつなげるにはコストがかかるし、印刷発注者側は特定の印刷会社にしか発注できなくなるとか、印刷会社にすれば得意先ごとにCMSが異なると対応できなくなるなどの問題がある。

DTPとCMSで問題なのは、DTPに従属するようにCMSを開発するのも、CMSにあわせてDTPを使うのも行き詰まる方法なので、DTPとCMSがそれぞれ独立して、しかも必要な連携がとれるようにすることだ。そこにちょうどよいのがXML技術であり、XMLをベースにしたNewsMLなどで両者を結ぼうという考え方も出てきている。CMSが顧客側にあろうとも印刷側であっても、それらと連携して制作が出来るようにすることが、近年の印刷側の最大の課題になるだろう。NewsMLやAdobeのXMPなどそういった方向の開発は急に盛んになりだしていることがその裏づけである。

この項 続く →「DTPと、コンテンツ管理と、プロセス管理」

2004/09/09 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会