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ネットのパワーは、印刷を呑み込むか?

インターネットになって盛んになったものにオークションがある。欧米では不要品をさばくためのガレージセールやオークションは以前から行われていたが、事務的な手間がかかったり、日数的な制約があった。インターネットのオークションは出品する側の敷居を低くし、また直接売り買いする相手以外からは実体が見えない(ので、姿を隠せる)というメリットもあり、さまざまなものが持ち込まれて、何かを探そうとする者にとっても今までにない機会となった。amazon、google、ebay(日本ならヤフオク)などインターネットの成功者のすべてが、「見つかる」をキーワードにしている。

インターネットオークションの特徴は短期即決で決済が簡単なためにイージーなビジネスや、危ないビジネスをも多く発生させている。プレミアムのつく入手難チケットなどは、申込み電話のつながりやすい番号が「出品」されることもある。この調子でいけば、競馬の予測も売れるかもしれないし、株式のインサイダー情報も売れるかもしれない。従来の情報需給ギャップを埋めるものとして、ネットでの顔を隠した情報流通が既存の情報ビジネスの秩序を破壊することは、音楽やDVDのコピー問題に限らず、次々に起こってくる問題だろう。

企業がマーケティング目的でWEBを運営する例は多いが、アクセスログを分析すると理由のわからない猛烈なアクセスが短期間に集中することがある。携帯電話対象の場合など、ニュースなどがきっかけで口コミで何かがまたたくまに広がるようなこともある。時空を超えたネットのコミュニケーションの特徴として、リアルワールドでは考えられない広がりや集中や闖入者があって、何か凄いことが起こっているのではないかと感じることがしばしばある。

しかし、いくらプレミアム切符を手に入れる手段が巧妙になったとしても切符の数が増えるわけではなく、競売の配当の比率が増えるわけでもなく、モノが爆発的に売れるわけでもない。実はリアルワールドは何も変っていないのである。ではネットの世界は幻想なのか? いや上記の例で結局見つけられるものはリアルワールドにあるものであり、リアルワールドとの関連付けは崩れてはいないが、ざわめきは増幅され、また突風が吹き荒れることがある。

インターネットはまだ何も実体のない10年前のモザイクの最初の時代から刺激的であり、何かをネットに持ってくるだけで興奮するような面もあった。これらは電子メディアの同時性、双方向性がもたらすものである。しかしそこでの興奮はリアルワールドと接したとたんに泡沫となって消えるものもある。別の言い方ではネットワークに欲ボケ幻想が掻き立てられて振り回されてしまうのは、技術のせいではなくメディア特性と見抜いていないから起こることともいえる。

一方従来の印刷物によるコミュニケーションは書くことと読むことに同時性はないし、情報は一方通行的に流れるので、読み手と書き手の相互作用で突風が吹き荒れることはない。これは瞬発的な情報伝達能力としては劣っているように考えられてきたが、逆に印刷物の静的な特性は冷静に物事を理解し思考するツールとしては替えがたいものであった。制作に人手と時間がかかることさえプラスの面があった。またモノとしての存在感がコスト要因になるとしても、モノであるからこそ訴えることができる面もあった。

今日、紙の情報と電子情報がオーバーラップし始めているので、それぞれの特質と、その特質に人の慣れという慣性で重み付けがどの程度されているか、これから慣性の変化はどうなるのだろうか、それでも変らないところはあるのだろうかなど、ちらほら見え始めた電子メディア時代の人の振る舞いについて、そろそろ真剣に考え始めなければならないだろう。

2004/09/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会