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中国大連で日本語DTP制作

産業のグローバル化が進み,海外進出する日本企業が増えてきている。現地の企業とアライアンスを組んで積極的に合弁会社を設立したりするなど関心の高さがうかがえる。なかでもアジア,特に市場の大きさから中国に進出し,活路を見いだす企業もある。
今回は,DTP制作の新規事業をおこした株式会社光和デジタルシステムの代表取締役柏正己氏にお話を伺った。

進捗管理システム「P&P-Net」販売
光和デジタルシステム(本社・東京都千代田区)は,株式会社光和コンピューター(本社・東京都千代田区,代表取締役柴崎和博氏)の新たなグループ会社として今年の8月2日に業務を開始した。
親会社である光和コンピューターは,出版社・書店向けのシステム構築からコンサルティングやアウトソーシングのサービスを行っており,十数年の実績がある。また東京印書館で開発され,実際に使用されているオリジナルの進捗管理システム「PPP-NET」を同社では,「P&P-Net」の商品名で印刷会社向けに販売している。印刷会社の受注・発注・売り上げなどを管理する基幹勘定システムから進捗管理に必要な情報のみを転送し,Web上でそれぞれの工程ごとの完了情報を入力し,進捗状況を分かりやすく表示する。Webを利用しているのでMacintoshでもWindowsでもどちらでも使用可能である。また特別なアプリケーション・ソフトをインストールすることなく導入後すぐに使用できることが特長である。
光和デジタルシステムの柏社長は,「P&P-Net」の企画と販売にも関わっていた。

日本国内と同じ感覚で発注可能
光和デジタルシステムは,中国遼寧省大連市の会社と共同出資で日本語DTP制作を行う合弁会社,文博信息科技(大連)有限公司を設立した。アウトソーシングサービスとしてDTP制作の業務を本格的に行うことになった。制作に関しては,すべて中国の合弁会社で行うことで,人件費によるコストダウンが図れる。現地には日本人スタッフが常駐していない,すべて中国人スタッフである。
日本語環境の不安はないかという声に対しては,現地の責任者は留学を含め,日本に10年以上住んでいたし,印刷会社勤務の経験もある。またほかのスタッフも,日本語によるDTP制作を何年も経験した人たちであり,全員日本語が堪能とのことでクリアできる。彼らは皆,日本の印刷事情に詳しく,また品質には自信をもっている。
日本語OS,日本語フォント,日本語アプリケーション,ポストスクリプト対応プリンタなど設備はすべて日本国内と同じ環境にしている。
業務内容は,組版・ページアップ編集,図版トレース,画像加工(切り抜き,合成),テキスト入力,その他印刷物制作に掛かるデータベース構築,SGML,XML制作,Webコンテンツ制作,FLASH制作,システム構築などマルチメディア関連にも対応している。また翻訳してWeb化するということも増えている。
受け付けは日本の同社がすべての窓口になり,発注から原稿の受け渡し,校正のやり取り,納品,請求業務,代金回収に至るまで請け負っている。顧客は中国での作業には一切関わる必要がない。言葉や習慣の違いによる心配や余計な労力も必要ない。当然決済も日本円で支払うことになる。決済の問題で海外送金の煩わしさや為替の変動による予算変更などのトラブルもない。
中国で制作していても日本国内の企業と同じ感覚で発注することができる。
中国とのやり取りはインターネットのVPNを使用して,すべてデータで行っている。生原稿の場合でもそのまま中国には送らない。ドキュメント・スキャナで読み取りPDFなどデジタルデータ化して中国に送るようにしている。生原稿は日本で厳重に保管している。
最終的に同社でチェックをした後,納品する。同社のサーバからダウンロードするか,もしくはデジタルデータ,校正紙の形で直接納品することになる。

中国ならではのメリットを追求
同社の顧客は,親会社の影響か今のところ出版社や印刷会社が多い。なかでも組版やページアップ編集の業務が多いそうである。
代表の柏氏は印刷会社で営業を担当していた経験もある。ご自身は,JAGAT認証DTPエキスパートの有資格者で営業以外にも印刷会社でDTP制作に関わっており,若い人に長年DTPを教えてきた。かつて中国でDTPを教えていたこともあり,その時のスタッフが現在の合弁会社で中心となっている。
最初からDTPで制作している若いオペレータの中には,組版のルールを知らない人が割と多い。組版の基礎をしっかり勉強することで,組版に強い制作会社として認識されたいと考えている。
特長の一つはやはり安い人件費による安価な制作費の実現である。しかし,コスト面以外にも中国ならではのメリットを打ち出していきたいという。
現在の流れは,日本で受注して中国で制作し,日本に納品というスタイルが中心だが,現地の印刷物を受注することも将来的には考えていく。
日本で受注して,中国で翻訳・制作し,中国でホームページへの展開や印刷したりすることもあるだろう。また中国に進出している日本企業の日本語マニュアルを中国で受注して,中国語に翻訳して組版後,中国で納品・印刷といったケースも考えられるだろう。
日中双方向の翻訳を始め,ハングルやロシア語など各国語の翻訳と多言語によるDTP制作も可能だという。1社に発注するだけでコンテンツ制作から翻訳,Web展開,ローカライズまでトータルで対応できる。
またDTP制作だけでなく,システム構築も請け負っていきたい方針である。日本で受注して,中国でシステムを開発することもしていきたいという。

質量ともに拡充を目指す
稼働し始めたばかりの同社だが,既にいくつか案件が動いている。需要に応じて,中国で校正ができるスタッフを増やしていきたい。また日本国内の営業窓口として,同社のスタッフも増員していく予定もあるという。
今後もますます進む日本の海外進出とインターネットなどによる情報伝達技術の発達の中で,日本と中国はますます密接なつながりができてくるだろう。生産拠点として,工場を建てたり,また市場の大きさから営業拠点として,進出する日本企業も増えるに違いない。ちなみに大連は,中国国内でも経済成長率も高いほうで,日本人も多く住み,2000社にも及ぶ日本企業が進出していると言われている。
同社では自社の特長を生かし,さまざまなニーズにこたえていきたいとしている。

JAGAT info 2004年9月号より

2004/09/23 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会