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紙+電子メディアの仕事が増えている

◆伏見 敦子

大学卒業後,編集者として働き始めた出版社でDTPと出合いました。
最初に担当したのは,荒木経惟氏の作品集。当時まだ国内に数台であったデジタルカメラ(デジカメとは呼びません)を使い,撮影から装丁に至るまでフルデジタルで制作,というなかなか画期的な企画,のようでした。「のようでした」と他人事のように書くのは,当時の私は,そもそもデジタルって何なの? という,茫漠(ぼうばく)たるギモンを抱えていたから。

折しも,出版界でのDTP黎明期(れいめいき)。私の職場にも,デザイナーのほかにDTPオペレータがいました。ただ,書籍1冊丸ごとDTPということはまだまれで,物理的・人的コストの面でアナログより高くつくと考えられていました(冒頭に挙げた例は,非常に実験的な試みでもあったのです)。
DTPが選ばれるのは,チラシなどの単ページものや,書籍でもカンプ作りなど限られた用途だったように思います。とはいえ,編集者としてオペレータの傍らに張り付いて作業を進めていく,そうした機会も少なくありません。
あれこれ指示を出していくと,そのとおり画面上に現れる,その過程を目の当たりにして,DTPの可能性を感じました。小学校から油絵をやっていた身にとって,「手や服が汚れない」「場所を取らない」この2点は大変な魅力に見えたものです。

出版社を退職後,職業技術訓練校に通い,デジタル・アナログの両面から印刷やグラフィックを学ぶこと1年間。その後,現在の職場に入り,主に放送局で使われる広報や営業活動のための資料,イベント関連の印刷物,そしてホームページの制作などを行っています。
入社当時に比べ,「紙」プラスアルファを最終目的にした仕事が増えてきました。どうしても紙でなければならない分野はあり,その地歩は変わらないでしょう。しかし電子メディアにすることで付加価値を生んだり,効率的になる事例があることを顧客たちは知っています。

私の職場の例を一つ。地方も含めた放送局全体の内線電話番号帳を受注していますが,これは数年前から,印刷物とイントラネット上で検索可能な電子形式の二本立てになり,順調に稼働しています。
電子メディアとして最もポピュラーなものは,Webでしょう。私の場合,それまで担当していた印刷物から引き続いて,Web化を手掛けることがあります。この時「縦のものを横にする」といった単なる置き換えでは,面白くないし意味がありません。ただ,新しいメディアに挑戦する時は,だれもが手探りです。顧客自身,何がしたいのか整理できていないことも多いように思います。ですから,さまざまな角度から提案を行い,潜在的なニーズを掘り起こすような働き掛けをしたいと心掛けています。このことで,顧客との信頼関係も深まるし,場合によっては制作サイドにとって仕事がしやすい道筋を作ることさえ可能になります。また,顧客のちょっとした一言から,自分たちに欠けていたことに気づいたり,新しい技術へのヒントを得ることもあります。そうした発見はうれしいものです。

提案を行う際に必要なのは,柔軟性とその足腰を支える幅広い知識だと考えています。実務を通じて,エキスパート認証試験の出題範囲はだいたい理解しているつもりでいたのですが,実際「受験サポートガイド」を読むと,初めてお目に掛かる用語がいくつかありました。今すぐ業務に直結するようには思えない項目でも,教養の一つ,と割り切って覚えたものです。一人パソコンに向かってこつこつと作業するオペレータやデザイナーは,ともすると知識や技術が化石化しがちです。今回エキスパート試験に挑戦したことで,頭の中の風通しが少しだけ良くなったように思います。学習への動機付けと,合格したことで今までの仕事に自信をもたせてくれたDTPエキスパート認証試験に感謝しています。

 

月刊プリンターズサークル連載 「DTPエキスパート仕事の現場」2004年10月号


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2004/09/24 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会