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活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(21)―フォント千夜一夜物語(54)

前回紹介した、リョービの創作タイプフェイス「ナウファミリー」について、少し詳しく紹介してみよう。

「ナウファミリー」は、ゴシック系(サンセリフ)と明朝系(セリフ)との2系列を一つの書体ファミリーとして構成している。しかもゴシック系も明朝系も、新しい感覚のデザインコンセプトで設計されているところに特長がある。まさに「ナウ(Now)」と呼ばれる、近代的センスをもつ書体といえる。

●「ナウG(ゴシック)」シリーズのデザインコンセプト
「ナウG」シリーズの最初が、1979年発表の「ナウGU(Ultra Bold)」で産声を上げる。欧文書体でいえば「ウルトラボールド」である。その後1987年に「ナウGE(Extra bold)」、1988年に「ナウGB(Bold)」そして「ナウGM(Medium)」と続く。制作20有余年の歴史がある(図1.参照)。

超特太ゴシックの「ゴナU」は1975年に誕生し、その2年後の1979年に「ナウU」は登場している。当時の社会的背景は、巨人の王貞治が756号本塁打で国民栄誉賞を受け、ピンクレディ旋風、カラオケブーム、ロッキード事件、窓ぎわ族、サラ金など、いろいろな事件や話題が多かった年代であった。

ナウファミリーの制作者であるデザイナーの水井正によれば、ゴシック系も明朝系も原字制作はすべて手書きで制作したという。つまり定規を使える箇所も烏口を使わずに、フリーハンドで墨入れして仕上げたというサンセリフ体である。

そのことが文字盤化したときに、直線・曲線ともに柔らか味のある書体を生み出している。ファミリーのウエイトは単に線を太くしたり細くするというだけではなく、字面、骨格の位置、線の太さの比率などは、スペーシング効果に応じて微妙に変化する。

超特太ゴシック「ナウGU」の設計には、特に線の太さの強弱に神経が配慮されている。画数によって線が多くなればなるほど、線の微妙なバランスが調整されている(図2.参照)。

しかしいずれの書体もそうであるが、新書体が誕生してから世に認知されるまでに長い時間を要するものである。この「ナウGU」も文字盤発売以来、デザイナーや写植業界に認知され普及するまでに、7、8年位を費やしている。しかしながら今では、ディスプレイ体の代表的な存在となっている。

書体設計で重要なポイントは、文字の重心、字面の調整である。特に線幅が太い書体は神経を使うものである。字種によっては錯視により、文字が上下左右のどちらかに片寄って見えることがある。このような現象を「寄り引き」といい、文字の流れを左右し可読性に影響を与える。つまり文字を仮想ボディの物理的中心ではなく、文字の物理的重心に合わせて設計しないと、文字の並びがジグザグになる。

この寄り引きの問題は欧文書体のベースラインに相当するが、日本語の場合は漢字と仮名の視覚的中心は微妙に異なり複雑である。縦組みの場合と横組みの場合では、同じ文字でも寄り引きが異なる。いずれのタイプデザイナーもこの要素の重要さは心得ているが、タイプデザイナーのレベルにより結果的には異なってくるものである。寄り引きを左右する要素には次のものがある。

1.視覚的に文字のウエイト・密度を揃える。
2.視覚的に文字の大きさを揃える。
3.視覚的に文字のフトコロの空間を揃える。
4.視覚的に文字の傾き、ひずみを修正する。
5.視覚的に縦組み・横組みのラインを揃える。

これらの完成度はタイプデザイナーの手腕が問われるものである。この「ナウ」シリーズは、これらの要素を十分に配慮したタイプフェイスといえよう(つづく)。

図1

図2

※参考資料:「アステ」および「ナウファミリー制作室」リョービイマジクス発行

フォント千夜一夜物語

印刷100年の変革

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2004/09/25 00:00:00


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