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お互いに敬意を払うパートナー

昨今の安値受注は単に競争激化によるものではなく,根底には技術革新による合理化や脱技能化による仕事のやり方の変化があり,業界の垣根の変化があるが,それとは別に印刷会社と得意先との関係も大きく変わっていることによる。歴史の長い印刷会社は,社長同士がお互いに先代からの付き合いということも珍しくない。業務関係のベースとなる重要な話は接待を通じて行われ,慶弔ごともトップレベルの重要な営業で,実際の営業マンは御用聞きでも仕事は流れてきた,というのは次第に昔話になりつつある。
それは一時的に得意先との人的な絆が弱まったのではなく,発注者の側の社内でも外部に仕事を理にかなった方法で適切に発注していることが求められるようになっているからである。特に企業が合併されるとか,外資系の経営に変わるなどすると,発注先の選択は非常に合理的に割り切ったものとなる。そこにうまく印刷会社は自分を売り込むことができ難いのは,プレゼン能力に乏しいからだといわれた。そのプレゼン能力の中でも特に客観的に自社の特長を表現することが最も欠けている。

よく「安い,速い,うまい」というような抽象的な特長を掲げている印刷会社があるが,発注者からは,その分野で5指に数えられる会社なのか,無難な普通の会社なのか,得体の知れない有象無象なのか,という3段階評価で点数をつけるような「目」で見られるに違いない。つまりその発注者にとってぐっと気を惹くような自社の特長を携えて提案なりに出かけていかないと,真剣に応対してもらうことはできないだろう。ISOやセキュリティなどの管理システムの導入ですら,今日では「普通」の条件になりつつある。
実際には長年にわたる印刷物制作を通じて,印刷会社にはそれぞれいろいろなノウハウが蓄積されているのだが,そのノウハウを整理してマーケティングをしたことがないことが,前述の自分を売り込むプレゼン能力不足の原因だろう。過去のような得意先とのつきあい関係がなくなりつつあることは,もう一度自社のコアコンピタンスを見つめて経営戦略を立て直す時期に来ていることを示している。その際に多くの印刷会社は特定の得意先と将来ともに発展していくことを望んでおり,一元さん相手の商売のようなマーケティング理論はあてはまりにくい。

自社に業務が印刷機に版をとりつけて刷れば終わりであれば製造技術中心の戦略でよいが,業界全体では得意先の業務を手伝うようなサービス提供が増えているので,これからはサービスの深耕化と,それをどう経済価値に結ぶつけるかの戦略が重要になってくる。どんなサービスをすべきかは,得意先の業務によって異なるので一般論はないが,提供すべきサービスのレベルについてはプロとして相応のものでなければならない。サービス価値を測るのは困難だが,得意先と永続的な付き合いをするには,金銭を超えて使命を共有していることを得意先に理解してもらうことが必要だろう。

つまり自社のコアコンピタンスを,得意先と共通の使命につなげるようなプレゼンができればよい。しかもそれは絵に描いた餅ではなく,「その分野で5指に数えられる」実績を示すものでなければならない。ビジネスにおいて使命を共有して新たなものを興していこうとするときのパートナーとして自社を選択してもらうには,相手から見てお互いに敬意を抱いて付き合える会社になっている必要があるからだ。

経営層向情報サービス『TechnoFocus』No.#1358-2004/10/4より転載

2004/10/08 00:00:00


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