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プリプレスにおける全体最適とは?

プリプレスは技術の変化が止まったかのような印象を受けている人がいる。それはDTPソフトの機能向上も昨今はあまりなくなったが,DTPソフトはもっと自分の作業に役立つものであってほしいと思っているからである。しかしDTP現場の外側からDTPの状況をみたらどうなのだろうか? その場合に感じる問題はDTPソフトの機能だけでなく,それを扱うオペレータのレベルや,会社の管理レベルも含めてDTPの制作能力が評価される。さて,DTPソフト以外のところは既に満点で,改良すべきはDTPソフトだけなのだろうか?

自分の分担している作業が効率的になることは必要だが,それは部分最適である。部分ごとの工程があわさって連携して全体最適になる。この「部分」の立場を単純に足し合わせるとか積み重ねて「全体」の最適が達成されるのではなく,全体最適の視点から「部分」の果たすべき役割が決まってくる。異なる工程で似た作業をしていたら,どちらか一方に集約してしまう方がいいようなことは容易に思いつくだろう。

また全体最適から考えた場合は,どの部署も責任をもたずに宙ぶらりんになっていることがあると,無駄な作業や品質の低下をもたらす。よくいわれたことだが,色校正になってから文字に赤が入るようなことがこれに相当する。つまり全体の流れを考えて,責任をもつべきところをどこか決めて,その関門を通ってから仕事が進むように流れを整理しなければならない。印刷物の性格によって,グラフィックスが先に入ってから文字を入れるとか,文字校正を終わったものでレイアウトを始めるなど,ワークフローに違いが出るのは当然であるが,従来のアナログ制作の作業の流れは,顧客の仕事の性質ごとに流す順序を変えるわけにはいかなかったのである。

つまりデジタルになって,サーバでデータを一元管理し,各部署がネットワークでつながることによって,ワークフローというのは版下やフィルムを手渡す順番のことではなく,バーチャルなファクトリーというかカンパニーというか,その仕事に適した作業プロジェクトをネット上で構成できるようになった。一緒に仕事をする人々の管理システムがグループウェアであるので,グループウェアをうまく使うとプリプレスという範囲での最適化は可能になった。

しかし日本で一部の新聞・出版関係以外で,QPSのようなグループウェアをベースに仕事をしている例はあまりなく,DTPは素材やページデータのデジタル化に過ぎず,コンテンツを持ち運んで組み合わせているのは人の作業のままであった。プリプレスはDTPになって,それまで部署が分かれていた文字も画像も含めて一箇所でチーム制で制作できることのメリットはあったが,原稿の入稿や校正など外部とのやりとりはほとんど改善されていない。トートロジーになってしまうが,改善に手がつかないからグループウェアが導入できなかったともいえる。要するにプリプレス作業管理のコンピュータ化は実は進んでいないのである。

ところが印刷の世界全体では,JDFがdrupa2004の焦点でもあったし,技術的な検証を経て具現化の時期に入っているように,作業管理のコンピュータ化あるいは作業管理と経営管理(MIS)の連携をしようという時代にさしかかっている。
その中で各工程への製造指示や各工程間のデータの受け渡しについていろいろな取り決めが始まっている。過去には紙面の絵柄データから印刷機のインキ壷ネジのプリセットがされたが,それは当然引き継ぐ上に,断裁,折り,製本などの機械のプリセットも自動で行う方向である。

しかしプリプレスは作業の流れが多様でよく把握できず,JDFでの指示や報告のやり取りをすることは手が付けにくく,とりあえずのJDFではプリプレスの中の作業管理ははグレイボックスとしてタッチせず,その出口から後工程である面つけ,刷版以降の指示にJDFを利用する考え方になっている。
JDFは単に情報交換の方法にすぎず,JDFがあるサーバーをどこからでも参照することで,工程間でアクセスが容易で,双方向にデータ更新ができる仕組みである。これだけのことだからこそ多方面の応用へ展開できるのだが,その応用の多様性を裏返せば,JDFはつかみどころがないものであり,JDFだけを見つめていても利用方法はわからない。
JDFでプリプレスがグレイボックスであるというのは,プリプレスが印刷の全体最適からも,発注者を含めた前段階の全体最適からも隔絶した立場にあることを物語っており,印刷物制作のボトルネックになりかねない懸念を抱かさせる。

2004/11/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会