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活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(23)― フォント千夜一夜物語(56)

一般に仮名書体は、漢字に付属してデザインされているもので、漢字のセットにバランスされて「ひらがな・カタカナ」が設計されている。これを「レギュラー仮名」と呼んでいる。それぞれ漢字のファミリーに付属しているものである。

活字時代の種字彫刻でも、漢字とは別に仮名に優れた彫師に依頼して仮名を制作し、漢字と組み合わせて使用していたことがある。

しかし現代のように、文字組みの変化を仮名デザインの多様化でカバーしようと、思いつきのような仮名デザインや、漢字を含めた創作書体のデザインが大変だから、などという理由で多様なデザインがはびこっている。

つまり漢字に対する仮名のバリエーションとしてデザインされたとはいい難いものが多いし、それに対してユーザー側も、書体に対する正しい審美眼をもっての判断で使い分けているとは思えない節がある。

ファミリーとは、基本的には同一のデザインコンセプトにより制作された、タイプフェイス群のことである。漢字と仮名が統一されたファミリーの制作は、文字数が多いだけに困難である。それが欧文フォントのファミリーの概念とは異なるところである。

従来の日本語書体のファミリーは、単にウエイト(太さ)の数の問題だけで論じられている。一つの漢字に対して複数の仮名がデザインされ、それを含む全体をファミリーとする考え方は、新しい提案となるであろう。

従来は書体ごとに、漢字と仮名は一対のフォントとして扱うのが常識であった。つまり漢字と仮名を組み合わせることが前提になっている。明朝体の漢字と明朝体の仮名、あるいはゴシック体の漢字とゴシック体の仮名という使い方である。

ところが、近年多様な仮名独自の書体が登場している。仮名で日本のタイポグラフィのイメージが変わる、とよくいわれていることである。しかし漢字と組まれた場合の結果が、良いか悪いかは仮名のできに左右されるものである。

漢字と仮名の不統一さが日本の文字本来の姿、あるいは美意識と考えれば、漢字に対して複数の仮名書体がデザインされることは、不思議なことではないであろう。しかし仮名による多様化は、既成の漢字書体がある程度完成されていることが条件である。

一例として、ゴシック体の漢字に対して明朝体の仮名を使った例がある。それは明朝体の「アンチック」として試みられ、マンガの「吹き出し」に古くから使われている。

●創作仮名ファミリー
1984年〜1986年にかけて、「小町」「良寛」「行成」「築地」「弘道軒」など、仮名シリーズの5書体のファミリー化が発表されている。これらの写植文字盤は、「味岡伸太郎仮名シリーズ」と銘うって「リヨービ仮名ファミリー」として創作されている。

従来にないユニークな仮名ファミリーが誕生して話題を集めたが、これらの書体は平安期の古筆の復刻といえないでもない。

このような歴史をもった「書」のエッセンスを時代のメディアに対応させ、その伝統を生かすというコンセプトをもつ仮名ファミリーは、他に類を見ないであろう。しかしリョービ仮名ファミリーの発表前後の1985年頃に写研から、「艶」仮名ファミリーというユニークな書体が発表されている(つづく)。

※参考資料:「アステ」および「ナウファミリー制作室」リョービイマジクス発行。


【参考】プリプレス/DTP/フォント関連トピックス年表
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フォント千夜一夜物語

印刷100年の変革

DTP玉手箱

2004/10/23 00:00:00


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