印刷業界での環境問題への対応は、環境負荷の少ない材料が利用され、ISO14000シリーズの認証取得も進むなどそれなりに進んではいる。各社の成果はさまざまだろうが、多くの企業に共通することはいままでの努力と成果のアンバランスへの不満足とこれからの見通しに関する不透明感だろう。これからも継続的に取り組まなければならない環境問題については、今までの成果も踏まえ、改めてどのように取り組むべきかを考える時期にきている。
改めて考えるべきことのひとつは、EMSに限らず、各種のマネージメント・システムは道具に過ぎないからその導入がもたらす成果は企業の取り組み姿勢によって左右されるということである。ISO9000シリーズの認証を取得したが品質はちっとも良くならないという声を頻繁に聞くが、それは、高い料理器具を買ってきて料理を作ったのに出来た料理はちっとも美味しくなかったとこぼしているようなものである。
そもそも品質であれ、環境であれ、マネージメント・システム導入の目的は、マネージメント・システムの仕組みを使ってPDCAサイクルを回し、マネージメントのレベルアップ、企業の体質を強化していくことによって最大利益を得ることである。とにかく認証を取得するという姿勢で臨んだ会社では認証取得自体が目的だから、道具を使う具体的な形も社内意識も出来ていない。仏作って魂入れずでは効果が出ないのも当然である。EMSの事務局が、目標、目的を一方的に決めてしまう会社もあるが、現場を知らない人間が的確な課題や目標を作ることは出来ない。事務局の役割はあくまでもシステム作りに限定すべきである。マネージメント・システムの運用においては、トップダウンとボトムアップの噛合いが重要である。
EMSを導入した企業では負担が増えたという声が多い。この件に関しては、ISOの資料に「環境に関する事項を全体的なマネジメント・システムに統合することは、効率化及び役割の明確化と共に、環境マネジメント・システムの効果的な実施に寄与することができる」とあることを思い起こす必要がある。これが、改めて考えることの第2のポイントである。重要ことは「環境に関する事項を全体的なマネジメントシステムに統合すること」である。EMSに関して「環境経営」という言葉が使われるが、それは、経営の視点として、従来の「品質」、「コスト」、「安全」といった視点に「環境」という視点も加えた経営を行うことであり、環境経営が別個に存在するわけではない。
例えば、利益確保を目指してコストダウンをするために「ミスを減らす」ということは、環境の側面から見れば「廃棄物の削減」である。IT化を推進して営業、工務などのホワイトカラーの業務効率を上げることは、「紙の使用量削減」にもなるし、残業時間が減少して「電気使用量削減」にもなる。しかし、逆に、環境の視点から考えて、紙の使用量削減のためにIT化を図るという発想が出てくることはほとんどないだろう。「著しい環境側面の特定」の実態として、「紙・ゴミ・電気」と揶揄されるように、環境という視点だけからでは課題の設定も限定した範囲でしか考えられず、早晩行き詰まってマンネリに陥ることは明らかである。
環境対応というと、マイナス面を取り除くことだけに意識が向きがちだが、もっと有益な側面に目を向けるべきである。顧客に環境負荷の少ない製品を提供することで市場競争力を強化する、IT化によって無駄な事務作業を軽減して顧客への提案のために時間と頭を使うといったことである。
つまり、EMSは本業の経営と切り離して扱うべきものではないということである。
(「JAGAT info 2004年11月号」より)
2004/11/05 00:00:00