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DMの新しい動き

印刷物売り上げの中でDM(ダイレクトメール)は,従来あまり大きな比率を占めてはいないが,クライアントの意識の変化,ダイレクトマーケティングの普及などにより今後ビジネスチャンスも増えてくると考えられる。ただし課題も大きい。本稿ではこの新しい動きを紹介し,読者の方々の参考としたい。

日本国内のDM市場

DMが作られてレスポンスを得るまでには多くの業界の手を経ている。広告代理店業界,コンサルティング業界,デザイン業界,印刷業界,封入封緘業界,郵便(一部メール便などを含む)などである。残念ながらおのおのの業界の市場規模について,正確なデータはない。唯一広告郵便についての市場規模が公表されている。それによれば,表1のように平成13年の国内市場規模は約3400億円である。封入封緘業界,DM印刷は約3000億円程度の規模と思われる。印刷以降の業界で単純加算でほぼ1兆円規模の市場と推定される。バブル崩壊以降の経済情勢は良くないが,図1に示されるようにDM市場は過去10年にわたり順調に市場が拡大している。


▲表1

▲図1

日米の市場の比較

国内市場を米国と比較すると日米で大きな差がある)。米国ではテレビの比率が比較的小さい反面,DMの比率が大きい。顧客開拓プロセスと印刷物の関係を参考に考えると,日本ではまだ不特定多数への広告(マスマーケティング)が主であり,特定個人に直接訴える広告(ダイレクトマーケティング)の比重が低いのである。
顧客の生涯価値ということに対する理解・実践の差がこのようなデータの差異として現れている。逆に顧客とクライアントとのコミュニケーションの取り方が変化すれば,日本国内でもレスポンス型のメディアの比重が大きくなり,結果的にDM市場が拡大する可能性がある。ダイレクトマーケティング手法の普及・教育がDM市場拡大のカギと言えよう。

DMの新しい動向

日本郵政公社とJAGATなどではこのような認識の下,新しいビジネスチャンスを作ることを目指し,本年2月にPAGE2004と同時開催でポスタルフォーラム2004を開催した。ダイレクトマーケティング手法の教育普及によるDM市場拡大がこのイベントの大きな役割である。
一方,市場拡大のためには新しい用途開拓が必要である。日本郵政公社では広告郵便の定義・運用の見直しを実施し,本年5月からバリアブルプリントで作成した,個人宛のバリアブルDMを広告郵便物として正式に認めるに至った。
ただし請求書については今回見送られている。請求書にも個人向けの広告が掲載される動きがある中,今後の見直しに期待したい。またバリアブルDMであるが,個人ごとに「封入物」が異なる場合には,人手で封入封緘作業を現在行っている。機械化が可能となればバリアブルDMの活用頻度拡大とコスト削減が可能となり,市場拡大に一層寄与するであろう。機械メーカーの開発を期待したい。
一方,デジタルプリントの世界でカラー100PPMの機械が市場投入され始めた。今,バリアブルDM市場を拡大する環境が整いつつある。しかし大きく飛躍するためには,いくつかの課題がある。次にこれら課題について述べたい。

DMの課題(アンケート調査結果)
JAGATではポスタルフォーラム2004参加者にアンケート調査を実施した。この結果を紹介する。

(1)DM市場は拡大するか?
DM利用の有無を問わず回答者の67%の方が市場が拡大すると判断している。しかし,市場拡大にはいくつかの条件がある。

(2)市場拡大の課題:
最も大きな課題は「個人情報保護」である。来年4月から法律が完全施行されるため,情報管理体制の確立が非常に大きな課題となっているが,都内の印刷会社にヒアリングした限りでは本問題への理解度が低いのが現実である。情報管理体制についての各社見直しが必要となろう。
次の課題は「活用事例」である。DM作成の費用に対し,いかにレスポンス率を高めるか,またどのようなDMが効果的か,実例を知りたいということである。レスポンス率を高めて成功した企業があっても成功のノウハウは社外秘であり,公開されることは少ない。ポスタルフォーラムなどのイベント機会を契機にノウハウを公開してゆく必要があろう。
3番目の課題は「郵便料金」の低下である。何回かアンケート調査,ヒアリングを実施しても回答企業からは常にこれら3点が課題として挙げられる。

(3)個人情報に関して
個人情報保護が大事であるという認識は多くの方々がおもちであるが,図2は例としてプライバシーマークの取得状況について問うた結果である。マーク取得済みの企業は6%,取得準備中と合わせても24%,全体の約4分の1の企業しか具体的な対応を進めていない。また6分の1は未対応であり,未回答も35%という高い数値となっている。個人情報の保護については,重要性は認識されていても対応が十分になされる程身近な問題として,まだ考えられていないのが現実である。


▲図2

(4)DM活用で困っていること
図3は次の課題である活用事例に関連したデータである。DM活用で困っていることの上位3項目は,「効果確認」に関連している。DMを送付してもその効果計測が定量的に行われておらず,費用対効果が見えない,または効果が上がっていないことがうかがわれる。


▲図3

これには2つの課題があり,第1はDMを新規顧客開拓に誤って使用しているケースである。顧客開拓には,「新規顧客開拓」と「顧客維持」という2つの側面がある。新規顧客開拓は不特定多数を対象に実施し,顧客維持は顔の見える特定個人に対して実施するという違いがある。DMが得意とするのは後者の顧客維持である。新規顧客開拓に,このDMを用いて効果が上がらないと嘆く例が多いようである。不特定多数の対象にアプローチするのではなく,顔の見える個人に対しアプローチし,再販売を行うということがDMの最も得意とする使われ方である。このことをいまだに理解されていないケースが多いのではないだろうか? また単にリストを入手してこのリストの宛先にDMを送付するというのでは効果は上がらない。顧客のデータを地道に集め,分析すること,顧客の維持という観点で顧客とのコミュニケーションを積極的に図ること,この手段としてDMを用いるというスタンスが重要となる。

今後のダイレクトマーケティング,DM

これから日本は高齢化の時代を迎える。働き盛りの団塊の世代がこれから一挙に定年を迎え,元気な高齢者が多くなる。この年齢の方々は競争社会を作り,生き抜いた方々である。ほかの世代と比較しても自分を見つめ直した世代と言えよう。リタイアしたとしても「自分」に合った投資を行い続けると予想される。まさに「個客」であり,ダイレクトマーケティングを普及させる契機となる顧客対象世代ではないだろうか? 新しいビジネスチャンスはこれから始まるのである。

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バリアブルDM製作・加工のポイント

『プリンターズサークル11月号』より

2004/11/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会