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WEB-EDIによるチラシ制作の改革と受発注方法の変化

株式会社ダイエー システム企画室 太田 和宏
99.6.17開催セミナー「激震!印刷発注システムの改革すすむ」
(Printers Circle99年9月号特集より)




■Web色校正をきっかけにチラシ制作のローコスト化
 WEB-EDIとは,情報ネットワークを張り巡らせ,エレクトロニックデータインターチェンジ,すなわちデジタルでデータ交換を行い,さまざまな作業の改革をしていこうとする当社の取り組みである。この考えのもとに,Webを活用したチラシ制作の改革を行った。従来のアナログからデジタルへの制作の変遷について紹介する。
 もともと,Webを使ったチラシ制作が念頭にあったわけではない。それまでは各店舗に文字情報しか送れなかったが,サーバを導入することによって,画像も送れることになった。そこで,販売促進の部署で,ローコスト化につながらないかと検討した。従来は,チラシの色校正をコピーして各店舗に送っていたのだが,それをWebに載せ,色校正を見ることが発案された。これによって,少なくとも色校正をコピーして送る手間とコストが省けるのではないかと考えたのがきっかけである。
 そのうちに全社的なコスト削減が課題になった。対象となったのが広告宣伝費,システムコスト,物流コストなどである。特に広告宣伝費は,1割削減が目標になった。
 当初は自社でチラシを作ることが検討された。そのころ,チラシ制作のソフトとしてはQuarkX
Press,Avanus,Founder FITがあった。このいずれかを使用してチラシを社内で制作すれば,コストの10%が削減できるのではないかということになった。

■内制化によるローコスト化を断念
 それに先立つ3年ほど前にも,デジタル制作によるローコスト化に取り組んだ経緯があった。チラシに載せる商品を升目に仕切って,一つひとつのグリッドをはっきりさせた。そして,そのグリッドに単品のひとつの商品しか載せないようなものであれば,デジタル制作でチラシがうまく作れるだろうと考えた。しかし,手書きでしか原稿が出稿されない,原稿が決定してから制作に入っても修正原稿が入るなどの原因もあり,定着しなかった。
 その後もさまざまな方法が検討され,内制化に取り組んだが,結果的には取引先の印刷会社にお願いすることになった。

■販売促進部が各地に基本ガイドラインを提示
 当社が採用した業務フローはWebで入力し,同時に画像も決めて,それをテキストデータとしてFTPで取引先に電送するものである(図1)。ただし,画像に関しては,B3のチラシの場合には両面を合わせると100点を超えてしまう。それをFTP伝送すると,データがかなり重くなる。そこで,MOで印刷会社に渡して,制作してもらう形に出稿のフローを変えた。
 従来はGMSカンパニーが全国に7つあり,そのほかにハイパー,ディスカウント,SM(Super Market)があり,それぞれのカンパニーの中で制作を行っていた。
 2年前までは本社でチラシを制作していた。すると,全国一律になってしまう。例えば,梅雨時に関東で梅雨のテーマを取り上げるのは有効だが,北海道には梅雨はない。従って,梅雨をテーマにしたチラシを作っても北海道では無駄になる。また,北海道は6月ごろが運動会の季節であり,近畿では運動会を春にすることはあまりない。全国を見回した時に,本社で画一的なチラシを作って配るのは無理があるので,それぞれのカンパニーでチラシを作ろうということになった。
 この2月に販売促進部を作り,チラシの基本ガイドラインを提示することになった。カンパニーに駐在しているバイヤーが,それぞれ買い付けを行うと,バイイングパワーが分散されて力が落ちるので,本社の商品部でまとめて商談を行う。そして,本社からはチラシの商品を提案する。
 衣料品については,ほぼ本社で決めたものがチラシに載っている。食品もドライグロサリーなどは本社から提案し,鮮魚や青果などは地元のバイヤーが担当する。例えば豆腐などの商品は,地元で商談して日本全国に供給することは不可能である。そのため,各カンパニーの商品部が地元の豆腐屋と取り引きし,それをチラシに載せる。

■制作コストダウンで取引先印刷会社の利益確保
 出稿の商品が決まれば,それぞれのカンパニーにいる販売促進の担当者が印刷会社と制作を進めていく体制になっている。
 チラシ制作のローコスト化について,10%削減の目標を掲げたが,これまでは,ややもすると従来の請求額を値切ることがなされていたのではないか。すると,結果的に取引先の印刷会社にとっては,コストは今までと何も変わらないのに,利益だけが減るという,誤ったコストダウンの考え方になってしまう。当社では制作コストを下げながら,取引先の利益は確保して,制作コスト全体が下がった分だけローコストになるという考え方で取り組むことにした。
 デジタル制作をする時に,取引先全社に集まってもらい,この方針で行うことを説明した。
 当然,インフラの整備は各取引先で必要になる。ある取引先は,たまたまダイエーのチラシはアナログで作っていたが,他社のチラシはデジタル制作していたため,従来使っている機械で当社のチラシも制作できるということであった。
 一方,従来どおり,手作業でチラシを作っている印刷会社もあった。だからといって,機械を新しく投入することを,当社としては強要はしなかった。なぜなら,当社のために機械を投入しても,将来にわたり,その機械で商売ができる保障はないからである。
 しかし,その機械で他社のチラシも作れば,従来のチラシもローコスト化できるのではないかという説明を,各取引先に対して行った。もし,デジタル制作ができない場合には,取り引きをやめることになるかもしれないとも伝えた。

■用紙サイズと印刷費の修正代を見直す
 さて,ローコスト化するに当たり,何をどのようにしたらいいのかを分析しなければ,実行は難しい。そこで,現状を分析したのが図2である。チラシ制作の経費の内訳を示したのが右の図である。制作費は18.0%で,トップは折り込みの45.8%である。全体の半分近くを折り込みが占めている。制作費をさらに分析すると,写真撮影,デュープ,デザイン,版下,校正,カラー分解,製版,修正,色校正送付に分類できる。
 チラシ制作の1割というと相当な金額になるが,これだけでは広告宣伝費全体の1割削減はまかなえない。従って,ほかの部分での削減を検討した。
 用紙は,従来はD巻の大きな紙を使っていたが,B巻に変えた。B巻に変えるとチラシが一回り小さくなり,他社より視認率が下がる。そのため,D巻のままに決定したカンパニーもあるが,ほとんどのところでB巻を採用し,白色度を落とすなどして,用紙代を安くした。
 印刷費も,従来はそれぞれの取引先でばらつきがあった。これについては,印刷のコストを見直し,通し単価を純粋に1色当たりの単価にして,修正があれば,修正代として請求してもらうようにした。また,チラシの原稿に疑問点があって,1回確認する作業があれば,これもコストを明確にして,印刷代とは分けて管理するようにした。

■デジタル制作で39.6%のコスト削減が可能
 チラシ制作工程を見直し,現状の作業の要因分析をした。写植や版下などは,制作の手作業をDTP化すればシステム化できる。不完全原稿の確認も,システム出稿することによって不要になる。つまり,手で書いたら読めないような文字でも,コンピュータに入力すればわからない文字がなくなるため,間違いをなくすことができる。修正に関しても,企画の変更やサンプルが遅れるなどの原因による修正が,従来はあった。システム出稿の場合には,何日までに入力しなければ機械が受け付けないという仕組みを作ることによって,修正作業も廃止できる。
 撮影代については,今後も撮影が必要なので据え置きになっている。しかし,デジタルカメラを使えば,若干安くなるだろう。ポジのデュープ代は,データベース(DB)化して画像を登録しておくことで,再利用も可能になり,コスト削減ができる。
 デザインは変わらない。版下はいらなくなる。文字校正は従来どおりである。カラー分解は,画像DBへの取り組みによって安くなる。製版については,従来は色校正を初校,再校,念校と3回出していたが,フィルム出力を1回だけにすることによって,3分の1になる。修正代も,従来の修正を40%削減することによってコストは下がる。色校正については,確認用に各店舗に送付するコストなども半減する。こうした予測によって,デジタル制作化で39.6%削減できると試算した。

■Webをとおしてチラシ作成,色校確認,売り出し計画作成
 新出稿システムを図3に示す。原稿は商品グループから出稿するが,原稿は画面に向かって入力する。入力すれば,出稿した商品の商品マスターのファイルが別にあるので,それを見ながら間違いなく正しい商品であることを確認して,売り出し商品マスターの中に入れる。DIS(潟_イエー情報システム)の中には画像DBがある。これを閲覧して,使用する写真を決める。商品写真には正面から撮ったもの,斜め上から撮ったものなどがある。例えば,キュウリでも,1本,3本,山盛りのように,何種類か画像がある。その画像のどれを使うのかを商品コードから検索して,画像を見ながら決定することができる。
 画像によっては,実際にチラシに使う画像とは少し違う場合や,新しい商品を商品部が売り出しにかけるため,画像がない場合もある。こうした時にはサンプルを出して,撮影会社に商品を送り撮影する。図3のJPSとはジャパンプリントシステムズのことで,ダイエー100%子会社である。そこでUNIXマシンに画像の登録をする。この登録画像と閲覧用画像では,画像の解像度が違う。閲覧用画像は実際にチラシに使うことはないので,解像度を落とした粗い画像である。登録画像はチラシに使うため,解像度の高い画像になっている。この2つの画像DBは対になっており,登録画像用DBに新しい画像が入れば,閲覧用画像DBにも必ず入る。登録画像用DBを変更すれば,閲覧用画像DBも必ず変更される。これによって,ある商品を出稿したら,それがどんな商品かがすぐ画面上で確認できるようになっている。こうして出稿情報を入力すれば,出稿データとして,オンラインで印刷会社へと伝送される。印刷会社では,データに基づいて色校正を作る。
 色校正は,従来は出力したものをカラーコピーしていたが,現在は印刷会社がインターネットに登録する。登録されると,各店舗とWebでつながっているので,色校正を店にあるパソコン画面で見ながら,売り出しの計画を作る。

■新出稿システムで取引先印刷会社のローコスト化も可能に
 チラシ制作はこれまでデザインから始まって,カラーデュープ,版下作成,カラー分解,製版,色校正という流れであったが,デジタル制作をすることによって,フィルム出力まで一気に流れる。実際は写真の切り抜きなど,いくつか作業はあるのだが,かなり作業が簡素化された。
 フルデジタル制作に移行するに当たって,取引先といろいろなルールを決定した。フルデジタル制作では,取引先のローコスト化も可能である。システム化によって制作人員が削減でき,手作業を効率化することによって営業担当業務も見直しできる。また,修正の削減により無駄な作業の廃止もできる。
 これらにより,制作コストが下がるので,単価も下げてもらう。その代わり,ローコスト化をするための前提条件として,デジタル制作のための新販促システムを100%稼働させることにしたのである。現在,レギュラーチラシとして毎週木曜日にチラシを打っているが,100%に近いシステム出稿率になっている。
 先述のように,不完全原稿,すなわち紙の原稿で字が読めないような場合には,疑問点確認という制度を設けて,それが1件あればいくらというような料金体系になっている。
デジタル制作で完全原稿に近づく
 従来は約40%の確率で不完全原稿があった。デジタル制作でシステム出稿にすれば,完全原稿に近くなるので,それを当社内で実行することを取引先に約束した。
 社内でこれを守るために,カンパニーのCP(カンパニー・プレジデント)に対して,システム出稿率は○%,不完全原稿率は○%と,毎週レポートした。こうして,どこのカンパニーが実行できていないかがわかるようにして,精度を上げていった。
 また,サンプルや原稿の締め切りを厳守とし,工程変更に伴うイレギュラーな作業をやめた。従来は色校正や念校が出てから,あるいは刷版後でさえ,商品手配ができなくなったからといって,差し替えすることがあった。事前の計画を精度アップして,修正作業をなくし,制作部門,出稿の部門はルールを守るということを,取引先とルール化した。
 例えば企画なら,30日前は修正できるが,原稿締め切り3週間前ではダメである。出稿点数も原稿締め切りの時には修正を認めるが,17日前にはレイアウトが確定してラフが回覧されるので,この時点ではダメである。このようにルール化することで,イレギュラーな修正をなくした。

■印刷会社にはテキストデータを各店舗にはPOPデータを送信
 新出稿システムでは,商品部から出稿したら,各店舗にはPOPデータが送信される。取引先の印刷会社には,テキストデータが出稿データとして送信される。
 これまでPOPは,外部の印刷会社で制作して,そこから一括印刷して各店舗に送り込んでいた。当社の店舗には,大規模店舗と小規模店がある。各店に合わせて個別に印刷すると,1枚当たりの単価が高くなるため,店舗の大小に関係なく,全国一律でPOPを同じパターンで送り込んでいた。しかし,大規模店には取り扱っていない商品はあまりないが,小規模店の場合には,必要のないものが出てくる。平均すると,100枚送られてくるうち,50枚が使わないPOPであった。
 これではあまりに無駄が多いので,出稿データをそのままPOPのデータとして店舗に渡すことにした。各店舗はダウンロードしたデータを,マイティポップというカシオのPOP作成機に渡すことによって,POPを自動的に出力する。
 また,取引先の印刷会社は出稿データを受けて,チラシを作る。当社は制作するソフトは指定してない。従って印刷会社では,当社のデータをそのままでは受けられない。データは当社のフォーマットでできているので,そのフォーマットを受けて,制作ソフトでプログラムが動くように,印刷会社には流し込みのソフトが必要になる。ところが,自社で流し込みのソフトを作っている会社もあるが,自社ではできないというところもあったため,当社側でソフトを用意した。
 商品画像はすべてDB化し,バイヤーが画面に入力する時に簡易画像が出てくることは先述した。画像DBのフローとしては,先述のように,商品部からサンプルを出し,撮影してDB登録する。その管理はJPSに委託している。自分のカンパニーで使いたい地域商材があれば,各カンパニー・エリアから,JPSに送って登録する。

■チラシ照会システムを作成
 色校正のWeb化の概要を図4に示した。
 印刷会社に,インターネットで当社のサーバに色校正データを登録してもらい,それを商品部や各店舗がパソコン上で見るようにした。これにより,コストダウンができた。それとともに,今まで色校正をカラーコピーするのに時間がかかっていたが,登録すると瞬時に見ることができるので,短時間で売り場作りに反映できるようになった。
 社内のチラシ照会システムの実際では,必要なところを入力すれば,チラシの一覧表が出る。例えば,近畿のカンパニーの人が,母の日をクリックすれば,母の日に対応したチラシの例が用意されている。このようなチラシをインターネットを使って登録して,それぞれのカンパニーが画面で見る形に変えた。

■ホームページ会員あてにワンtoワンのチラシメールを構想中
 当社にはホームページ会員がいて,いろいろなデータを会員のDBにしている。例えば趣味,家族構成,どこの店に買い物に行くのかなどのデータである。これらのデータをもとに,店舗DB,イベントDBなどから,会員向けにチラシのメールを入れるような構想をもっている。
 会員のプロフィールであるが,男女比率は,今は男性が6割,女性が4割である。実際に買い物に来てくれるのは女性のほうが多く,その約半数が主婦で,関東,近畿のシェアが高くなっている。
 会員向けのメールの仕組みは,興味・趣味,利用店舗,地域,性別・年代にグループ分けして,これで会員DBを作る。例えば,ある会員に幼稚園の子供がいて,その子がもうじき幼稚園を卒園するとなると,新入学になる。そこで新入学用のデータを電子メールで送付すれば,その会員に必要なチラシの中身ができる。また,どこの店に買い物に行くかがわかれば,該当する店舗で売り出しをかけているものを掲載することで,その会員は必要な情報だけをもらえる。
 今後の展開について述べたい。現在は女性のアクセスが男性の1.6倍ある。女性をターゲットにしたコンテンツはメールが有効であるという結果が出ている。それから,会社や学校からのアクセスが自宅からよりも高いのであれば,土・日曜日に買い物をしてもらうためには,木曜日に配信したほうが有効である。また,アクセスの90%は配信後4日以内のものなので,やはり木曜日が適当であると考える。また,プレゼントやモニター募集へのアクセスが多いのであれば,チラシメールにはアクセスしてくれた人向けの目玉商品を入れたほうが良い。そして,一方的なインフォメーションへのアクセスは少ないので,役立つインフォメーションを載せている。
 Web利用の会員数については,2000年の2月末までに10万人程度の会員獲得を目指している。また,チラシに載る商品をどこの店舗で取り扱っているかについては,DBがあるので,各個人向けに有効なメールを送ることができる。
 ただ,来年2月末で10万人という数字は多くはない。現在当社では,B3のチラシを1店舗当たり5万枚まいているので,10万人では2店舗分のチラシにしか相当しない。一方,B2のチラシは全国で約2500万部まいている。2500万部と10万では比較にならない。Webの会員が増えたとしても,従来の紙のチラシの重要性が低下するとは思えない。
 しかしながら,Webの利用は発展していくだろう。例えば,メールグループ単位でテキスト配信ができるので,この会員にはA,あの会員にはCとBだけをと,セグメントした情報を提供することが,インターネットでは可能である。このような情報提供では,紙媒体の役割は相対的には低下していくだろう。
99.6.17開催セミナー「激震!印刷発注システムの改革すすむ」
(Printers Circle99年9月号特集より)

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1998/12/27 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会