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DB活用とクロスメディア展開でお客様をサポート

テキスト&グラフィックス研究会メンバーレポート)

大村印刷株式会社は,数年前から『テキスト&グラフィックス研究会』と『通信メディア研究会』に参加している。同社東京本部デジタルソリューション課課長の須崎氏に,同社のこれまでの取組みと,研究会の参加の意義について,インタビュー形式でお話を伺った。

東京本部デジタルソリューション課課長 須崎 卓滋氏

大村印刷の概要

本社は山口県防府市にあり,大正10年創業で80数年の歴史がある。現在は同所にある工場で製版,印刷,製本を行っている。また,東京・大阪・広島・九州各所に営業拠点と,東京,山口,広島にはデザインセンターがある。東京本部は営業の主要拠点であり受注の3割を占めている。同時にDTP制作やシステム開発も行っている。
社員数は300名弱である。主な扱い品目は,チラシやパンフレット,カタログなど商業印刷全般から,書籍・定期刊行物などの出版印刷などである。また,バリアブル印刷や学参物も扱っている。
企画・デザイン,製版,印刷,製本,発送までの一貫体制を取っていることが強みである。また,顧客データベースに基づくマーケティング戦略の支援,マルチメディア展開に力を入れているところである。

また,DTPエキスパートの有資格者は,印刷会社の中でもトップクラスの約80名となっている。

デジタル化への端緒

東京では,92年頃からMacを導入してDTPに取組み始め,当初からDTPとデータベースを活かした活動を続けてきた。
須崎氏は10数年前に東京のデザインセンターに入社され,その後DTPを始め,データベースパブリッシングやXMLデータベースへの取組み,Web関連などのクロスメディア展開など,デジタルソリューションを担当している。

データベースパブリッシング『刷り込みじょうず』

7年前から,メーカーが全国の小売店向けに配布する名入れキャンペーンチラシ,名入れカレンダー・手帳の店名刷り込みのためのデータベースパブリッシングのシステムを構築し,運営を続けている。全国の小売店向けのチラシでは,表裏がそれぞれ数タイプある中,小売店が組合せを選択して注文する。その注文データ,店名データに基づき,自動編集ソフトよる組版を行っている。発送・納品のための管理番号により,パートナーの運送会社の端末で,現在地や到着時間なども常時わかるようになっている。このシステムを同社では,『刷り込みじょうず』と呼んでいる。

このシステムでは,小売店情報データベース,ロゴ・地図といった店名刷り込みデータベース,メーカーの担当支店・担当者データ,制作サイドの管理用データベースをリレーショナルデータベースで一元管理している。
「刷り込みじょうずの基本フロー」
(1)住所・店名など刷り込みのための小売店情報(修正指示用)と注文書をフォーム出力し,全国の各支店向けに発送する
(2)メーカーが集計した受注データと刷り込み更新データをデータベースに反映する
(3)店名版下の再校正紙の出力,赤字修正と自動編集ソフトによる組版
(4)DTPデータと管理データから,印刷および発送までを行う。印刷の前に,発送管理のための帳票やラベルを出力する
このシステムでは,単に印刷会社内のレイアウトデータ制作や製作工程の合理化に留まらず,顧客側で行っていた販売店からの注文や問合せへの対応をシステム化することによって代行し,本来の業務に集中できるような支援を行っている。

大村印刷では,このように顧客の事業運営を達成することを共通の目的とし,マーケティング戦略を遂行するビジネスパートナーとなることを目指している。

Web公開型PDF校正

本社が山口県であり営業拠点も各地にあることから,顧客が遠隔地である場合が少なくない。そのためチラシなどのデータをPDF化し,文字校正を行っていることが多い。PDFであるため,顧客サイドではWindowsマシンのみの環境で,閲覧・プリントが可能である。

この場合,本社にあるファイルサーバを活用している。このファイルサーバでは,サーバ内容のWeb公開が容易に行える。顧客は,決められたID,パスワードでログオンすると,その顧客専用に保護されたWebページが開かれ,自社のPDFデータの一覧が表示される。この中から,必要なPDFデータを選択しボタンを押すだけで,ダウンロードすることができる。顧客にとっては,電子メールと違ってデータ容量や転送時間,セキュリティについて気を使う必要もなく,操作も簡単である。

このようなPDFによる文字校正を活用し始めてから,顧客サイドでも時間的なゆとりができ好評であると共に,大村印刷でも無駄な移動時間を省くことができた。
このファイルサーバでは,各顧客ごとの画像データベースも構築している。画像データベースも同様にWeb上で公開することができる。顧客はログオンすると,いつでも自社の画像データベースのWebページが表示される。過去にチラシに掲載された商品単位に,画像が表示される。Webページ上でチラシに掲載する商品と画像の確認を行うことで,顧客サイドで原稿整理に費やしていた時間や手間を効率化することができた。

顧客と印刷会社で,Web上での画像データベース共有とPDFによる文字校正を実現している。
大村印刷では,この他にもPDF対応には力を入れており,たとえばInDesignでのDTP編集・制作を行ったものを,パートナー会社へ入稿し印刷する場合には,PDF/X-1aでの入稿も実現しているという。

医学関連学会向け運営支援への取組み

幾つかの関連学会が合同で開催する学会の運営支援を行っている。演題の応募を受付,データベース化し,査読・演題採択用の帳票出力,セッション編成・日程表作成と,会議用資料作成,最終段階での合同プログラムの印刷・CD-ROM・Webページ制作,抄録集制作,その他の関連印刷物制作を行っている。
最近では,Webによる情報入力を元にデータベース化することが非常に多くなっている。この場合では,演題の応募であり,その他,アンケート形式での情報入力などが増えている。
同社グループ会社では,大学向けの電子シラバスシステムの構築も行っている。従来は,印刷物として提供されていた情報をWeb上で閲覧できるだけでなく,詳細な授業内容も含むものとなっており,Web上で講義概要や教官などを検索することができるようになっている。

クロスメディア企画制作

顧客のコミュニケーション活動,マーケティング活動を支援するためのクロスメディア展開を積極的に行っている。WebページやCD-ROM制作,会員名簿制作・販売のための一貫システム,XMLデータベース化とクロスメディア展開,データベースからダイレクトメールを制作するなどのバリアブル印刷なども手掛けている。

研究会への参加目的(須崎氏)

以前から,JAGATのセミナーには必要と感じるものについて,その都度参加していました。経営トップからの薦めがあり,2001年5月頃から,『テキスト&グラフィックス研究会』と『通信&メディア研究会』に参加しています。

JAGATの研究会に継続的に参加することで,ただ情報を知るだけでなく,客観的に,統一的に方向性を把握することができます。また,継続的に研究会に参加していると,主催者側からの情報提供だけではなく,参加者の『口コミ』や『集まりぐあい』からも,微妙な情報が得られることもあります。
研究会には,さまざまな地域や他業界の方も参加してきます。ワンストップサービスと言われだした頃,地方から出てこられた方が「仕事がない」と言うと,別の方が「どうも東京に仕事が集まっているらしい」と応じていることもありました。
研究会やセミナーの参加者の人数によっても,市場動向や他社の動きが見えることもあります。例えば数年前,XML関連のセミナーや研究会は盛況でしたが,徐々に熱が冷めていったかに見えました。しかし,2004年9月の『InDesignを活用したXML自動組版ワークフロー』−印刷用製品カタログのXML自動組版からWeb展開への効率化を探る−の研究会は,最近では驚くほどの盛況ぶりでした。カタログなどカラーの印刷物に対応でき,Web展開への効率化が図れるというもので,既存の設備と従業員を活用できそうだ、というのが主な理由かと思います。

これまでは,始めに印刷物制作ありきでデータを集約し,次に,加工済みのデータを他媒体に利用していました。この流れが逆転する傾向が顕著になってきました。最初にWebサイトでデータベース構築・更新を行った後,その次にデータベースのデータを利用して印刷物制作を行う。高等教育機関のシラバス入力・閲覧システムでは,ホームページから各教職員が情報を入力するだけでデータベースとなり,学生はその情報をすぐに閲覧できる。日々,更新が可能で最新情報が保持でき,年に一度そのデータをダウンロードして印刷物制作を行う。『Web制作だけ』,『印刷物制作だけ』ではダメで,両方あるいは,それにCD-ROM制作ができなければ仕事を獲得しにくい傾向になってきました。

『コスト優位戦略』の場合のITの役割は、『ビジネスプロセスの効率化』であり、『差別化戦略』の場合のITの役割は、『新しいビジネスの創成』で、付加価値というのは、企画・デザイン、製版と印刷の技術やノウハウ、納期やきめ細かなサービス、提言できる営業などがあります。

JAGAT研究会の情報は,ビジネスの創造力の貴重な情報源となっています。

2004/11/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会