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デジタルプリントの現状と今後 〜浸透〜

デジタルプリントは当所のうたい文句に反比例し,さまざまな課題があった。しかし機械性能の向上,ビジネスモデルの見直しが徐々に図られつつある。また,従来のマスマーケティングからダイレクトマーケティングへと企業のマーケティング手法が変わることにより,パーソナルな属性を生かしたバリアブルプリントの実用性が高まってきた。今デジタルは浸透のフェーズを迎えつつある。

印刷業界におけるデジタルプリント

PODについては外資系の調査機関が国内市場情報として,過去に非常に希望的なデータを発表し続けてきた。年率数十%の伸張というデータである。JAGATでは印刷業界においてデジタルプリントの市場調査を何回か実施しているが,この結論は実態とは非常に掛け離れている。本稿ではわれわれの調査結果の一端を報告し,デジタルプリントの今後についても検討する。
なお,従来はPOD,オンデマンドプリントなど各種の「言葉」が使われてきた。特に「オンデマンド」という言葉が普及しているが,オフセット印刷も納期が著しく短くなりオンデマンド性を高めたこともあり,今後は「デジタルプリント」と統一して用いていく。
図1は,印刷業界におけるデジタルプリント機械の導入状況を示す。1996年当初,ブーム的に各社が機械導入を実施した。しかし,うたい文句のように短納期,小ロットの仕事を実施するのみでは利益が出なく,ビジネスとして成立するには至らなかった。小ロットの仕事をいかに「自動的に」集め,付加価値を付けるか,という点への認識や工夫が不足していたのである。また,印刷業界の水準から見て,機械自身の安定性が実用上不足していたこともこのブームが継続しなかった原因でもある。
一方,最初のブームに目を付けた複写機・プリンタメーカー各社が,オンデマンド市場に目を付けて機械投入・販売促進を行ったことから1999年ごろから第2のブームが起こり,現在に至っている。推定ではあるが,オンデマンド性という観点では,企業内の需要が現在最も多く,印刷業界より企業内プリントのほうがデジタルプリントのニーズが高いと思われる。
一方,印刷業界では第1次のブームの失敗を経験に,どのようにデジタルプリント・ビジネスを実施したらよいか,という反省が行われている。また,ベンダー各社からは高速機の発売や開発が進んでおり,従来欠点とされていた表裏のレジストレーションや紙対応などが改善された。また不評であった「カウンター制」の見直しも開始されており,既存の印刷市場にデジタルプリントが「浸透」する条件が整いつつある。
印刷業界にとってはデジタルと言えば,CTPと電子写真が対象となるが,CTPは「版」という中間媒体を必要とする手法であり,電子写真技術などを用いたデジタルプリントのフレキシビリティについてもっと注目すべきであろう。
デジタルプリントの最大の特徴はバリアブルにある。これをどのように生かし,顧客に提案できるか,提案するかという点が大きな課題である。
まとめるとデジタルプリントの課題は,機械ユーザの観点からは,

・プリント単価で競争するのではなく,付加価値を付けること
・小ロットの仕事を人手を掛けずに集める工夫を行うこと
・バリアブルで大ロットの仕事を行うこと
になろう。一方,機械ベンダーの観点からは,

・プリントコストの削減
・紙への対応力の向上
・さらなるカラー画質の向上とプロセス安定性の確保
などとなる。
以下これらについて詳細を述べていくこととする。

オフセット印刷とデジタルプリントとの境界部数

オフセット印刷とデジタルプリントの境界部数は,欧米で1000〜1500部数という数字が紹介されている。この数字をそのまま日本の数字として紹介している調査機関があるが,われわれの調査では200〜300部辺りに境界部数が存在する。
境界部数は比較対象機を明確にしないとデータが異なる。デジタルプリントの場合には印刷機として菊全の機械と比較しても意味がなく,菊半かそれ以下のサイズの機械と比較する必要がある。市場調査会社のデータを解釈する場合にはこの点を確認する必要があるし,この前提条件を示さない会社のデータは信用すべきではない。
一方,印刷会社の原価についても算定方法や考え方が統一されていないことも混乱を招いている要因である。社内で統一した原価指標がなく,営業個人の考えで価格が示されているケースも多々あり,一物一価でないことがクライアントからのクレームの原因にもなりかねない。このような現状からわれわれはコンピュータシミュレーションで原価計算をしてみた。印刷機械を固定し,最新の資材仕入れデータから計算したのが図2の結果である。この図から容易に分かるとおり,カラー印刷で数千部までの範囲でデジタルプリントを活用することを推進するためには,A4単価10円が一つの目安となることが分かる。モノクロ価格の4倍以下がカラーのコストの一つの目標となろう。なお図は菊半サイズの印刷機械と対象としている。

(『プリンターズサークル』12月号より)

2004/12/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会