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印刷向け機能が大幅に充実したAcrobat 7.0 Professional

アドビシステムズは,Acrobatの新バージョンを発表した。出荷は2005年1月下旬となる見込みである。前バージョンよりほぼ1年半ぶりとなっている。Acrobat7.0のパッケージ製品構成は,以前と同様にクリエイティブプロ,CADユーザ向けのProfessional(以下Pro)と,一般向けのStandardがある。そのほかに,無償配布のAdobe readerも7.0となった。

動作OSはStandard,Pro,およびReaderとも,Windows2000(SP2),WindowsXP,またはMacOS X v.10.2.8,10.3となっている。本稿ではデザイン・印刷業界向けの製品であるAcrobat7.0 Proを中心に紹介する。なお,以下で実際の操作について記述しているが,操作したのはβ版であったので,最終的な製品版の評価ではないことをお断りしておきたい。

Acrobat7.0 Proの新機能

新バージョンの最も大きなポイントは,スピードの向上,PDFの整理,PDFコミュニケーションである。
スピードの向上は起動,PDF作成,検索である。従来,決して良好とは言えなかった点が,7.0 ProやReader7.0を,実際に操作してみても驚くほどの改善が見られる。PDFデータの大きさや作業環境に依存するため一概には言えないが,Acrobatの起動やPDFドキュメントを開く動作が,ほんの数秒で行えるようになった。

PDFの整理とは,PDFキャビネットと呼ばれる機能で自分のマシン内のPDFを簡単に一覧・検索できるものである。過去の閲覧した履歴,場所の一覧と,PDFのファイル情報とプレビューの一覧が表示され,その中から必要なファイルを選択することができる。また,任意の名前を付けたコレクションに,複数のPDFをグループとして割り当てることができる。

PDFコミュニケーションとして,クリエイティブ分野に大きなメリットがあるのが無償配布のReader7.0で,PDFへの注釈書き込みが可能になった。従来は,Acrobat本体がなければ注釈書き込みができなかなった。ドキュメントのリモート校正の体制を実現する上でネックになっていたのが,校正者全員へのAcrobatの導入コストであった。新しい7.0 ProでPDFを作成する際に「Readerでの注釈書き込みを許可」すると,それが可能になる。従って,リモート校正に有用な注釈機能が,Readerだけで利用できることになる。

印刷工程にフォーカスした新機能

かつてのAcrobatでは,印刷関連機能より一般企業向けの機能の充実が優先されていた感が強かったが,Pro版が発売されて以降の印刷向け機能は大変な充実ぶりである。さらに印刷関連で使用する機能が,「印刷工程ツールバー」として一まとめにされており,操作自体も分りやすくなっている。

出力プレビューでは,印刷時のインキ総量を設定し,オーバーしている部分をプレビュー画面でチェックすることができる。さらに,RGB画像やスムーズシェードなど,印刷に影響のあるオブジェクトやオーバープリント・リッチブラックのオブジェクトだけを検出してプレビューすることができ,プレート製作・印刷以前に,最終チェックすることが可能である。
インキ管理機能が搭載され,PDF内の特色を一括して別のインキに置き換えることができる。
ベクトルオブジェクトやアウトライン化した文字のサイズを縮小した際に,線幅が極小化され印刷時のかすれなどを引き起こすが多い。これを防止するためのヘアライン修正機能が搭載されている。
さらに,「用紙サイズ=仕上がりサイズ」となっているオフィスアプリケーションを想定し,用紙サイズを拡大して裁ち代やトンボを付加する機能が新たに搭載された。
従来のAcrobatでの色変換は,出力時にのみ行うものであった。新しい7.0 ProではPDFを生成する際のRGB/CMYK変換や,RGBのPDFファイルを読み込んでCMYK変換ができる。例えばオフィスアプリケーションのデータからPDFを生成する際に,CMYKに変換できる。現在,オフィスアプリケーション・データを印刷用に入稿されることは非常に多く,その効果は大きいと言えるだろう。なお,これらの色変換は,ほかのアドビアプリケーションと同様に作業用カラースペースを設定するもので,ICCプロファイルを指定するものとなっている。

プリフライトの充実

前バージョンでも,PDF設定およびプリフライトにてPDF/X-1a,PDF/X-3を選択することができた。しかし,プリフライトを行うとエラー情報が大量のテキストとして表示されてしまい,実際にその意味を理解できるのは,専門知識をもつ者に限られていた。
7.0 Proでは,プリフライト結果を注釈付きPDFとして生成・表示ができる。すなわち,問題のあるオブジェクトに注釈が付けられた状態のPDFが生成される。このPDFを見ると,どのオブジェクトに透明が設定されているとか,RGB画像であるためPDF/Xでは問題となることが,だれにでも理解でき,修正の手順も容易に理解できる。

JDF対応の本格化の始まり

印刷業界でも,基幹システムと印刷・製本・出荷工程を連動させる手段として,JDF(ジョブ定義フォーマット)対応が提唱されつつある。7.0 Proでは,JDFの編集・書き出しが実装された。


アドビシステムズ株式会社 マーケティング本部
  サービスプロダイバーマネージャー 百合智夫氏に聞く

Q.アドビはPDF/X入稿の普及を推進しているようだが,国内でPDF/X入稿を実践している印刷会社,デザイナーは少数派である。今後,どのような形で普及が進展するだろうか?

A.PDFは登場した当初,印刷業界から出力側のトラブルを解消する手段として,期待が大きかった。出力してみないと結果が判らない,フォント環境によって文字化けが頻発するといった問題を解決するのがPDFと期待されていた。当時,デザイン業界ではPDFであるかどうかは意識されていなかった。それは,デザイナーが完全なPDFを作成するにはあまりにもハードルが高く,メリットがなかったからである。
PDF/Xになると出力が保証されており,印刷会社にとっても安心である。7.0 Proでは,デザイナーでも最適なPDF/Xを作れるよう,プリフライトやプレビュー機能が充実している。またPDF/X作成自体がデザイン側の付加価値となるので,普及が進んでいくだろう。印刷会社でも出力の際のトラブルが少なくなることで,その恩恵を実感されるとますます普及は進むだろう。

Q.JDFの編集・書き出し機能が装備されたが,どのように使われるのか?

A.実際にJDFで何ができるかと言えば,基幹システム上でJDFを扱うことによって,工程スケジュールや生産計画や実績を管理したり,印刷・製品・出荷の際のコントロールのために使われることになる。ただし,それらは基幹システムや印刷・製本の機器やシステム上の機能なので,アドビから言うことはできない。ただ,印刷会社の営業マンが,顧客を訪問した際に印刷発注仕様を聞いてJDFを入力し,印刷会社の基幹システムや生産管理システムへ転送すると,もっとも迅速で間違いのない受注情報となるし,印刷データをPDFとJDFのセットで入稿することにより,システム的な管理が容易になるなど,総合的なメリットが生まれるだろう。

2004/12/12 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会