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大量印刷とバリアブルプリントのせめぎあい

nip(ノンインパクトプリンティング)というデータプリントの世界はホストコンピュータの応用としてあったが、汎用インタフェースの独立プリンタとしてオンデマンド印刷とかデジタル印刷が登場して10年以上経った。最初は小ロットカラー印刷を速く安くというキャッチフレーズで、オフセットでは割の合わない分野や、小ロットのオフセット市場を狙ったが、プリントの利便性によっての単純な置換えは起こらなかった。

デジタルプリントにとっての障壁は、この種のビジネスの大原則というか自然の法則というか、単純コストを最も安くはできなかったことだが、デジタルプリントの課題は単純コストだけではない。コストというのは、どこまでを含めて考えるかの問題があるからだ。日本には発注者側にもトータルコストという見方が少ないことも、ビジネス改善一般の障害になっている。逆にこれがチャンスともなりうるのだが。

オフセット印刷はたくさん刷れば単価は下がっていくが、印刷物1枚あたりの配布・流通・管理コストは部数が増えるほど上がる。それは大部数まとめてするほど、トラックの中継や途中の保管などが必要で、届ける先までの時間や距離が長くなるからである。それにもかかわらず印刷物が割安に思えるのは、例えば新聞チラシでは相乗りでポスティングしているからである。書籍流通も相乗りであり、店舗でのカタログ配布も物品とともに相乗りで運ばれている。

逆にいえば印刷物は、配布・流通・管理コストがかからない仕組みの上で成り立っているといえる。このような配布チャネルが確立していないと個別配達する郵便コストがかかる。郵便DMは理屈上は大量配布には不利な方法であるが、法定とか商習慣で残っているものが多い。バリアブルプリント技術によって個別のDMでもプリントコストがかからないなら、郵便コストがチラシ配布の10倍かかっても割が合うものもある。

印刷物の目的によって一義的に大量印刷かバリアブルかが決まるのではなく、おそらくしばらくはせめぎあいの時代があって、次第にスタイルが出来上がるだろう。すべてがバリアブルにはならないのは、バリアブルが前処理コストがかかるからである。ソフト開発、データメンテ、データマイニングなどで、一回DMを出すにあたって何十万円かかったのでは、そのようなターゲットの絞込みは行わず、地域だけ絞ってチラシをばら撒くほうが安くなってしまうからだ。

さらにIT関係のコストはセキュリティ・個人情報などの要件によって高くなっていくとすると、バリアブルの固定費も上がるし、そもそも個人情報の取得が困難なところも増える可能性がある。それによって個人情報が使えるコミュニティを基盤とした配布方法も考えられ、今の郵便とは異なるスタイルもありえる。こういった変化が一段落して、バリアブルDMのスタイルが出来上がるには何年かかかるであろう。

テキスト&グラフィックス研究会会報 Text&Graphics 226号より

2004/12/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会