本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

JPEG,BMPデータがどのサイズまで印刷に使えるかを簡単チェック

印刷サイズチェッカー

株式会社東海共同印刷 浅井豊彦

弊社は今年の9月にWebサイトをリニューアルした。その際に「印刷サイズチェッカー」というソフトの無償ダウンロードを開始した。
このツールはWindows上で動作するデスクトップアプリケーションで,デジタルカメラなどで撮影したJPEG画像を,アプリケーションのアイコンにドラッグ&ドロップすると印刷用紙(正確には出力解像度)ごとに,適切な解像度(いわゆる線数の2倍)を保てるサイズがどれだけなのかを計算し表示するようになっている。ちなみにホームページのキャプチャ画像などが入稿してくることもあるので,JPEG画像だけでなくBMP画像にも対応できるようにしてある。

増えるデジカメデータ入稿での問題点

デジタルカメラの普及によって,写真原稿がデータとして入ってくるケースが多くなった。しかし中には印刷物の原稿として扱うには必要な解像度を確保できないものも含まれ,現場では必ず事前のチェックを行わなければならない。入稿後に解像度が不足していると判明した場合は,いったん差し戻すことになり非効率なワークフローとなる。差し戻しても解像度を確保できる写真データがなかった場合などは,レイアウトも含めた変更を余儀なくなれることもあり,短納期の仕事が多い中で,そうした後戻りはどうしても避けたいものである。
お客様が事前にチェックし,必要な解像度が確保できるものだけを出稿してくれればいいのだが,そもそも必要な解像度について理解してもらうこと自体が難しく,チェックするためのソフトも有償で購入してもらうしかない状態であった。Photoshopの機能を限定したコンシューマー向け製品であるPhotoshop Elementsなどは1万円強の価格なので手ごろだと言えば手ごろだが,それでも印刷原稿の事前チェックのためにソフトを買ってくれとは営業にしてみれば,なかなか言いにくいものである。
そこで何とか安価で,できれば無料で利用できる使いやすいソフトはないものかと,あれこれ探したが見つからなかった。個人的にオンラインソフトを探すのは'趣味'なので,かなり入念に探したつもりだが,どれも「帯に短し襷(たすき)に長し」という感じで,これだというものはなかった。
一方,解像度をチェックする手法自体は難しいものではないということは分かっていたので,プログラミングが得意な社員に頼んで作ってもらおうということになり,でき上がったのが「印刷サイズチェッカー」である。
お客様が使うことが前提なので,Windows上で動くものとし,操作もドラッグ&ドロップで済むようにとシンプルなものにした。RGBモードの画像しか扱えないが,RGBからCMYKへの変換は,印刷会社サイドでやらしてもらいたいというのと,CMYKが扱えるソフトを開発しようと思うと開発コストも掛かり,無料で提供することも難しくなるだろうということからそうしなかった。
実際に使っていただいているお客様からは「便利だ」と喜ばれており,現場からもチェック業務が軽減され好評である。

'デジタル資産の有効活用の支援'をアピールするツールとして

こうしたソフトを開発しようと考えた背景には,当社の営業方針の一つである「お客様のデジタル資産の有効活用の支援」という考え方がある。当社の基本的立場は「情報発信とコミュニケーションの創造を通じて,お客様の事業と運動を支援し共に歩む」なのだが,その実現のためには「お客様のデジタル資産の有効活用の支援」は欠かせない要素の一つとなっている。
印刷会社の中にはWindowsのアプリケーションデータによる入稿を'やっかいもの'扱いするところもあると聞くが,当社では「お客様がWindowsを使っておられる以上は,それに対応できるようにするのが筋」と考え積極的に受け入れてきた。また,DTP作業を内製化したいというお客様には,エディカラーやパーソナル編集長などのソフトも紹介し,システム構築やテンプレートの作成,操作講習など内製化自体を積極的に支援もしてきた。確かに組版部分での売り上げは減ることになったが,それを補って余りある,お客様とのパートナーシップが結べるようになったと自負している。またそうした営業活動を進める中で,デジタルに強く親身になってサポートしてくれる会社という評価をいただき,従来の枠を超えたお客様とも,お付き合いをさせていただくこともできた。
しかし,こうした当社の姿勢も,すべてのお客様に伝わっているわけではなく,スローガンとして掲げているだけでは,お客様に実感していただくことはできない。元来,印刷会社はアピール下手であることが多く,当社も例外ではない。だが「印刷サイズチェッカー」を提供することで,言葉ではなく実感として当社の姿勢が伝わるのではないかと思っている。
そういう意味では,この「印刷サイズチェッカー」は小さなソフトではあるが,まさしく当社の宣伝ツールであり,新規開拓でも有効に活用しておきたいと思っている。「印刷サイズチェッカー」の紹介チラシやインストールCDなど,営業マンが訪問先で配布できるような営業ツールも現在準備中である。

なぜ一般公開したのか?

実は当初,このソフトをWebサイトでダウンロード可能にして公開するということは,あまり考えていなかった。閉鎖的に抱え込むほどのソフトではないと言えばそれまでだが,せっかくの宣伝ツールを同業他社にも渡すことになり,自社の得にならないという思いがあったことも事実である。
しかし,お客様が使って便利だと言ってくれ,知り合いの印刷会社などに紹介すると,やはり便利だと喜ばれる。みんなが喜んでくれるということは,業界の中で同じような点で困っている人が多いということであり,多少なりとも'人の役に立つソフト'であるということである。
もともと何のプロテクトも掛けてないソフトであり,同業他社の印刷会社がそれをコピーしたところで,それを止める手段は何もない。であるならば閉鎖的な態度で囲い込むよりも,みんなで共有し問題解決に役立てたほうがいいのではないかと思うようになった。
振り返ってみれば,印刷業界にDTPの波が押し寄せた時,いろいろな会社を見学させていただき多くの示唆を与えてもらった。当社が開設してる「エディカラーと日本語DTPのためのメーリングリスト」では,会社の垣根を越えて有用な情報交換が行われ,それは何物にも代え難いノウハウとして蓄積されてきた。
印刷会社同士は,競合関係だったり,協力関係だったりするが,それはそれとして,情報やノウハウの共有で解決できる問題は解決していくべきではないかと思う。印刷物制作は,印刷会社と顧客の協同作業であり,顧客本位と言いながら,実は自社の利益のみを優先して,顧客が得られるかも知れない利益について,口をつむぐという姿勢は取りたくないとも思う。
インターネット全盛の今日,情報を囲い込もうとすること自体に無理があるような時代である。私は現在,Webサイトの制作部門に所属しているが,Web制作の分野では文字どおり,制作ノウハウや技術情報を,みんなが惜しみなくインターネット上で共有し,そのことで業界全体のレベルアップが図られている世界である。LinuxやApach,MySQLを始め,日常業務で欠かせないツールやソフトがオープンソースのソフトであったり,フリーウエアであったりすることは全く珍しくない。
印刷会社は閉鎖的と言われるが,もっと情報やノウハウを積極的に交流しあうことで業界全体のレベルアップが図れるのではないかと思う。
「印刷サイズチェッカー」は,そんな大仰なことを言うようなソフトではないが,気持ちとしてはそういう気持ちで公開に踏み切っている。この記事を見て興味をおもちになった方は,ぜひ当社のサイトに訪れていただき,ダウンロードして活用していただきたい。また一部バージョンアップをしてほしいという要望も寄せられているので時期は未定だがバージョンアップもしたいと思っている。どこまで機能強化できるか分からないが,使ってみて何か要望があれば,ぜひお寄せいただきたい。

印刷サイズチェッカー
エディカラーと日本語DTPのためのメーリングリスト

『プリンターズサークル12月号』より

2004/12/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会