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デジタル化とともにCMYKの時代が終わった

DTPエキスパート認証制度カリキュラム第6版が発行された。DTPの各要素はフルデジタル化が一段落したが,作業の流れとして安定的で効率的な最適化をするべき時になった。それはカラーについてはCMYKワークフローからRGBワークフローへの変化であり,製版の価値観もサービスも見直さなければならない。またフルデジタルの土台の上にMIS的作業管理システムや,クロスメディア環境が起ころうとしている。

制作現場の変化とともにカリキュラムも変化

1993年に「DTPエキスパートになるためのカリキュラム」を公開し,1994年3月よりDTPエキスパート認証試験が始まった。DTPを取り巻く環境は1990年代に大きく変わり,日本でも1997年には写植やCEPS(製版)に依存せずに商業印刷物が作られることが日常的になり,DTPの自立とともにDTPにはそれまでのグラフィックアーツの品質を継承する義務も生じた。

このような変化の中でカリキュラムも変化を続け,当初のDTPシステム構築と現場の教育役,リーダー役としてのエキスパートの使命だけでなく,今日の「良いコミュニケーション」「良い印刷物」「良い制作環境」というキーワードを元にしたカリキュラムに変わった。アナログの時代は作業の習得に年月が掛かったので,その間にグラフィックスを見る感性的な訓練もなされたのに対し,訓練が促成で現場に出されたDTPオペレータは,知識で文字組版の禁則処理は知っていても,実際に目で見て禁則処理の不適切な部分を判定できない場合がある。DTPエキスパートのカリキュラムには表現されてはいないが,試験の作り方としては自分の目で見て適不適を識別できるような問題を出すようになった。

また,DTPの技術的な面では,新たなソフトへの対応という要素は減ったものの,例えばアプリケーションのバーションの違いなどによる問題が典型的であるが,適切な使い方をしておかないと,後で発見しにくいミスを犯すことになる。デジタルデータを扱う作業のトラブルを減らすには,単なる経験や知識ではだめで,トラブルの分析に対して科学的なアプローチをする必要が高まった。

とりわけ色に関する科学的知識がカラーマネジメントなど色再現安定化のために必要とされ,また「文字化け」と言われる現象の分析力,またアプリケーションのバージョン差などによるレイアウトの崩れなど,現場の問題を論理的に考えるための要素が第4版,第5版で追加されていった。

DTPの作業環境は2年という単位で考えても着実に変化を遂げ,文字の入力から出力までのデジタル化は前世紀に片付いてしまった。画像に関してもデジタルカメラとCTPで印刷の入り口から出口までデジタル化した。これらの変化の個別の要素は,これまでのカリキュラム改定ごとに徐々に反映されてきた。

DTP要素のフルデジタル化が一段落したことによって,作業が安定化して過去には課題であったことが問題でなくなってしまう面と,フルデジタルの土台の上にさらに変化が加速していく面の両方が起ころうとしている。

特にDTPで作業方法の多様性が増して,技術的にはカンプと原稿入力とレイアウトと校正の区別がなくなるような変化なので,利用者側が自分たちにとって必要な作業環境を安定的で効率的なものに整備することが重要となる。その骨格となる大筋の作業の流れは,2003年ごろから従来のCMYK製版とは異なるものとして全容が現われてきた。

デジタルになっても長らくの間,従来のスキャナ技術の延長でCMYKの分版を想定した画像の加工が行われていた。しかしCMYK画像データを吐き出すドラムスキャナは急速にまれな存在になり,RGBスキャナがどこにでもあり,しかも雑誌の表紙クラスの写真でもデジタルカメラで撮影されてRGBで入稿されるようになった。CMYKをマスター画像とする考え方はDTPのカラーマネジメントと次第に合わなくなり,一方でAdobeRGBなど印刷作業を想定したRGBのデファクト色空間を,多くのカラーデバイスがサポートするように変わってきた。

製版関係のエキスパートの人たちもさまざまな実験を経て,CMYKベースの作業をRGBベースに変えても失うものはないこと,むしろRGBをマスター画像にしたほうがワークフロー全体にとってメリットがあること,また顧客側での2次利用やWebなどクロスメディア利用ではRGBマスター画像にすべきなどの結論が出たのが近年である。

2004年には製版ワークフローをベンダーもユーザも見直して,デジタルカメラをイメージキャプチャーの中心に据え,RGB入稿,ICCプロファイルによる色変換,PDF/X,CTP,Japan Colorという流れで安定的に制作ができる体制が固まった。

第6版カリキュラムはこのことを反映して,DTPに関してはRGBを基本とした製版や画像処理作業のための知識をベースにして,CMYKの知識については印刷インキをベースにした考えが必要な印刷版のためのカーブの設定や,印刷管理の部分に限定されるように変わった。今のRGBでの作業にはまだ問題が残されているかもしれないが,今後のデジタルカメラの進歩は,製版でのレタッチによる画像補正技術を上回るものになると考えられるからである。

IT化に合うように土台を変える

アナログのカメラで被写体を撮影し現像すると,リバーサルフィルム上にはCMYの3層の画像が形成される。この段階で既にどのCMY層にも記録されない色成分がある。それをRGBフィルタでスキャンして,さらにもう一度CMY画像データにしていたのが製版システムであった。リバーサルフィルムで欠落した色は自然界にはそう多くはなく,通常は人間の画像認識にとってはそれほど重要ではない色成分であるが,もし後工程のレタッチ上で色相をずらす必要があった場合は,スキャン時に取り込めなかった要素は加工のしようがない。

レタッチ終了後のCMYK分版画像も,後からその画像だけを見ても分版の際のカーブ設定が分からないので,RGB画像に戻したり再変換する上で非常に制約のあるものとなる。つまりCMYKはプロセス印刷インキをターゲットとする場合は具合の良い色定義であるが,もともとの被写体の情報をニュートラルに最大限捉えて保存するとか,画像マスターデータとしての多目的なフォーマットには向かない。CMYKからRGBへ,またCMYKへ戻すようにフルに互換性の取れる1対1の変換はできないので,CMYKが汎用の色標準とはなり得ない。

一方RGBは,モニタなど個別のRGB発色の製品を作っていた段階では,それだけでは色の基準になり得ないものであったが,sRGBやAdobeRGBなど色域の定義が出てくることによって,モニタだけでなく,デジタルカメラにもプリンタにも使える色の標準となった。それはRGBの色に関する研究開発がCIEの決めた規格に基づいて行われていて,色空間が異なっても色の値の正確な変換が計算できるからである。

この状況をレタッチのプロは謙虚に受け止めなければならない。本当に製版の味付けをしないと元の画像データは印刷物に使えないのか。いやその作業はカメラマン側でできるようになってきた。それを忠実に再現して校正したり刷版にする土台を構築するのが制作側の第1の役割になるだろう。 同様に,制作の効率化として取り組むものは,今後はAdobeXMPによって利用が容易になるメタデータによる制作管理のネットワーク化,自動ワークフローなどであろう。これらはまだ第6版には入っていないが,現実に身の周りに現われるのと合わせて,カリキュラムに追加されていくであろう。(小笠原治)

『JAGAT info1月号』より

2004/12/30 00:00:00


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