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プロデューサーの観点からデジタルコンテンツ・ビジネスの最前線を概括する

プロデューサーの名称は多様で,その定義もばらばらで結論がない。ここではコンテンツ業界で今まさに求められているプロデューサー像を探るために,C&R総研所長・清田智氏に,プロデューサーの観点から見たコンテンツ業界の概説をお願いした。

コンテンツ産業を巡る状況

クリエイター・エージェンシーをビジネスの核とするクリーク・アンド・リバー社は,コンテンツ業界の人材をほぼ網羅していて,全売上高約80億円強の中,印刷・紙関係3割,Web関係3割,映像関係3割,ゲーム関係約1割の売り上げ構成だという。C&R総研はその100%子会社として2004年3月に設立,経済産業省より「プロデューサー人材育成支援事業」を受託し,その事務局としてプロデューサーの育成・発掘を推進している。そして業界第一線のフェローの協力を受けながら制作,ビジネス,経営の3つの分野合わせて14項目を収めた『プロデューサー・カリキュラム』を編さんし,大学から民間企業までさまざまな組織で実証実験講座を実施している。
一口にプロデューサーと言っても,エグゼクティブプロデューサー,アソシエイトプロデューサー,番組プロデューサー,映像プロデューサー,空間プロデューサー,コンテンツプロデューサー等々その実態は非常に多岐にわたり,プロデューサーの定義もそれぞれの中でばらばらで「結論がない」。だからここで述べることは定義ではなく,今業界で求められているプロデューサー像ということになる。

ブロードバンド業界はインターネットの普及と通信インフラの整備に伴い,急激な成長をみせている。テレビ業界とWeb業界,映像業界とWeb業界の間が非常に重なってきているのである。
韓国では「冬のソナタ」が放送されるとその1,2時間後にはインターネットで配信される。日本でもNTT等が模索の実験をしている。地上波,BSがデジタルになり,さらにインターネット経由のチャンネルが無尽蔵に増えようとしているのである。
これまで広告代理店からの事業収入を受ける形で生計が保たれてきた放送が,直接映像コンテンツの配信で課金をするのが当たり前になる可能性が出てきたということである。
その中,低予算でコンテンツが作れ,配信する経路も太くなってきたが,それをとりもつ人材が非常に不足しているのである。

流通も分かり制作も分かる人材が枯渇していて,そのために物事がうまく回っていかず,いざ取引をやっても赤字が出る。そしてコンテンツが不足している。だから,コンテンツプロデューサーにとっては,またとないビジネスチャンスの到来になってきている。
映像とWebと同様に,印刷と映像,印刷とWebも融合を始めている。「印刷技術」「Web技術」「映像技術」の接点すべてを見られることが,これからのコンテンツ関係のプロデューサー,ディレクターにとって必要な要素になってくるのではないかと考える。
そしてこの3つが重なる領域は今後どんどん増えてくる。

そういう背景の中,経済産業省は「新産業創造戦略」を2004年5月に公表。その中にコンテンツプロデューサーの育成を盛り込んだ。首相官邸の知的財産戦略本部・コンテンツ専門調査会での「コンテンツビジネス振興政策」(2004年4月)の中にもこの人材育成が盛り込まれた。これらを総括する意味で,一般に「コンテンツ産業振興法」と言われる法律が2004年5月参議院を通過した。
これらに共通する重点施策は,コンテンツの価値最大化のための人材育成である。しかし,米英仏,韓国等と比べてみて国の投資額はまだまだ低い。

プロデューサーに求められる能力

典型的なブロードバンドWebサイト開発に必要な人材を考えた場合,企画の総責任者である「Webプロデューサー」。サイト自身の運営予算,日数とその人繰りを考える「プロジェクトマネージャー」。そして「プランナー」と「制作ディレクター」の4人の関係作りが重要になる。
ある高名なプロデューサーがこんなことを言っていた。いいものを作ろうとするアートディレクターが,森全体を見ようとするとその制作に集中できなくなってしまう。彼らに「幾らかかるということまで考えろ」と言った途端に手が止まる。だから敢えて森は見ないでいい。一方,全体の企画を出してお金を集めて最終的に着地することまで考える人は,逆に木を見てはいけない。「現場はこんなに頑張ってるから,予算も……」と言っているようでは継続したビジネスにはならない。

プロデューサーの仕事は,お金の件,物流の件含めて外部とそのチームとの関係をどう作っていくかにある。
しかし,会社やチームの中で若い人に対しては,その外部との関係構築能力ではなくディレクターの要素を重要視しがちなのである。すると若いこの能力を持った人は,仕事ではその力を活かせないため遊んでいるようにしか思われず,その才能が見過ごされがちなのである。
そのプロデューサーを見出すためには,プロデューサーに求められる能力を把握しておけば手掛かりになる。
その一つは先見能力である。プロジェクトのスタート地点からゴールが明解に見えるかどうかである。
二つめはプランニング能力。見えたものを元に,ゴールまでのプロセスを考えプロジェクトの流れを正しく引けるかどうか。事業戦略,資金,収支,人員・運営・運用等,さまざまな側面から計画を立てられるかである。
次がコンセプト創造力で,ここまで来るとかなり難しい。イメージしたゴールをコンセプトとして具現化する作業で,新しい概念,価値を生み出し明確化する作業である。
そして次が頭で考えたことを外に出す能力である。
その一つがプレゼン能力。これは言葉による力が大きく,1分間であるいは3分間でしゃべることができるか。
次がマネジメント力とリーダーシップ力である。マネジメント力は行程の全体を俯瞰して捉え客観的に整理をする力で,リーダーシップ力は,常に正しい方向性を示しながらメンバーを牽引していく能力である。
そして最後がヒューマンリソースマネジメント力である。チームでやっていくための優秀な人材を集めてどのように組み合わせられるかということである。
これらの能力に加えてファイナンス,契約,著作権の知識が求められる。しかしこれらの中身までを分かっている必要はなく,専門家への相談の仕方を分かっていればそれでいいのである。深く知識を持ち現状の制約を知りすぎてしまうと,新しいビジネスに挑むことがなかなかできなくなってしまうからである。

プロデューサー育成に関わる米国のUSC,ニューヨーク大学の二人の教授が求められる要素,能力に関して同じことを言っていた。一つはアントレプレナーシップ(起業家精神),もう一つはナレッジ(知識)だが,これらは教えられる。そして求められる要素だが最初はあまり重要ではない。重要なのはパッション(情熱)で,それも辛抱強くやり続ける,思い続ける気持ちである,と。
しかしこのような人材の育成は難しいと思う。やはり発掘してそのポジションにつけるという方法論しかないとも思うのである。

(通信&メディア研究会)

『JAGAT info 1月号』より

2005/01/08 00:00:00


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