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活字書体から写植書体、そしてデジタル書体(26)―フォント千夜一夜物語(59)

前号で紹介した「痩金体」は、印刷用の日本語楷書体としては異色の書体である。残念ながら日本人には、近年印刷用の漢字楷書を設計する力は少なくなっていると思える。そこでユニークな「痩金体」の開発コンセプトについて紹介してみよう。

●「痩金体」のデザインコンセプト
「痩金体」は元来中国の楷書であるから、基本になる漢字は漢字の得意な中国人デザイナーがリデザインを担当した。しかし日本語独特の両仮名については、「痩金体」に整合性をもった仮名デザインは、中国人では感覚的に無理があるという見解から、日本人デザイナーが担当した。

また欧文フォントについても同様なことが考えられた。高品位の欧文デザインは、中国人や日本人のセンスでは難点があるとの判断から、欧文フォントをデザインするのは欧米人が担当すればよい、という発想で制作された。このことが「インターナショナル日本語書体」の誕生である。

当時ダイナラブと近しかった、有名なグラフィック・デザイナーの浅葉克巳氏は、この個性的な書体を見て賞賛したという経緯がある。しかし書体が個性的過ぎたのか、あるいはPR活動が不足のためか、フォント・パッケージの売れ行きは芳しくはなかった。現在でもこのユニークな書体を目にすることが少ないことを考えると、グラフィック・デザイナーに対する訴求力に工夫が足りなかったと思える。

特に個性的な欧文フォントデザイン(図1参照)については、日本人の感性にないものが感じとられる。この「痩金体」の開発思想は、今後のタイプデザインの一つのあり方を示していると思える。そして「痩金体」を見ると、明治時代に開発された勁烈(けいれつ)な線質と剛強な表情をもつ「弘道軒清朝体」を思わせるものがある。

両仮名のデザインコンセプトについては、日本語は漢字と平仮名・片仮名が一緒になって文章が書かれ、そしてアルファベットが加えられ混植されるわけだ。その結果として生まれたのが「調和体」、つまり漢字と仮名、欧文を同じレベルで扱いデザインすることである。

このように漢字を中国が担当し、仮名を日本が担当、そしてアルファベットを欧米が担当するという三国合作のフォント開発方法は、歴史的にみれば今まであまり例を見ないことである。それぞれ個性があり特徴がある漢字・かな・アルファベットの個々の調和を図り、タイポグラフィとして実用化したことは希有の例である。このユニークな「痩金体フォント」が市場に認知され、広く利用されることが願われる。

●仮名のデザインコンセプト
日本の文字組みにとっては、漢字が主で仮名は従である。したがって漢字の特色を把握することが大切である。この「痩金体」は、中国に数ある筆書系のなかでも特色のある書体である。それは剛毛で、しかも毛が長い筆で、思い切り穂先のバネを利かせたリズミカルな筆法である(図2参照)。

明朝体の場合は、漢字と仮名の筆法がまったく異なるため、仮名のエレメント、特に起筆や終筆のエレメントに気を使う。しかし「痩金体」のような書体の場合は、漢字と同じエレメントでよいわけだ。このように線が細い書体の場合は、線が弱いと文字にならないため強い線質にする。 この「痩金体」の仮名と欧文フォントは、1字1字デザインされたものであるが、漢字フォントは、ダイナラブ独自のテクノロジー「ストロークベース方式」により開発された。

漢字を数百種類のエレメントに分解しそれをアウトラインフォント化する。そしてその部品を組み合わせて数千の文字種を制作する。その開発期間は、エレメント分解からフォント生成、品質チェック、そして仮名および英字の品質チェックなど、僅か1年以内の短期間で完成したという(つづく)。


図1 欧米デザイナーによる欧文フォント
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図2 オリジナル痩金体

※参考資料:ダイナラブのフォント関連資料


【参考】プリプレス/DTP/フォント関連トピックス年表
(拡大する場合は画像をクリックしてください)

フォント千夜一夜物語

印刷100年の変革

DTP玉手箱

2005/01/15 00:00:00


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