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液晶モニタの仕組みと今後

液晶モニタの改善が目覚ましい。テキスト&グラフィックス研究会では「液晶モニタの技術と製品動向」をテーマに(株)ナナオのカスタマーリレーション部部長の山口省一氏にお話を伺った。

液晶モニタの発色の仕組み

液晶とは液体と固体との中間的な状態で,分子が結晶のように並んでいながら液体のように流動性がある。液晶には次の3つの特徴がある。
(1)溝を刻んだ板に液晶分子を接触させると溝に沿って並び方を変える。
(2)電圧を掛けると液晶は電界に沿って並び方を変える。
(3)光は液晶分子の配列に沿って進む。
液晶モニタは,この3つの原理が基礎となっている。
液晶パネルは,液晶,光源,偏光フィルタ,配向膜,電極,RGBのカラーフィルタなどの要素から構成されている(図1)。
偏光板は一方向の振動の光しか通さない特性をもち,2枚の偏光板を重ねた時に透過軸が同じ方向ならば光は通過できるが,互いに直角な方向に重なっていると1枚目の偏光板を通った光(偏光)は2枚目の偏光板を通過できなくなる。
配向膜とは溝を刻んだ板で,これに液晶分子を接触させると溝に沿って並び方を変える。また溝の向きを90度変えて2枚の配向膜で挟むと液晶分子は90度ねじれて配列する。
液晶パネルの構造は,2枚の配向膜を挟むように偏光方向を直行させた2枚の偏光板(フィルタ)が組み合わされており,電圧を掛けていない状態では液晶分子はねじれて配列するので光が通過する。しかし,電圧を掛けると液晶は電界に沿って垂直方向に並びを変えるので光が遮断される(図2)。加える電圧を調整することで通過する光を制御して階調表現を行う。色の表現はRGBのカラーフィルタを使い,RGB3画素(サブピクセル)で1画素(ピクセル)を構成する。RGB3画素をすべて発色させると「白」となり,RGBのサブピクセルに別々に電圧を掛けてカラーを表現する。
CRTモニタの場合はRGB3本の電子ビームを個別に調整して,白の色温度を5000度なり6500度なりに設定することができた。一方で液晶モニタの場合は,明るさの調整は光源のバックライトの輝度を調整して行うのが一般的である。しかし,この方法ではRGBの明るさを個別に調整できない。液晶パネルは通常6500度近辺をターゲットに作られており,これを印刷物評価用の標準色温度の5000度に落とすには,もともと256ある階調の高輝度部分を一部使わないという方法しかない。この時にいかに階調の段差やグレーに色が着いたりしないかが性能評価のポイントとなる。ちなみにナナオでは,モニタ内部で10ビットの階調処理を行うことでこの課題を解決している。

液晶パネルの種類

TN(Twisted Nematic)方式
最も多く使われているのが図1のTN方式である。コストが安く応用範囲も広いが,明るさの中間状態において,パネルを見る方向によって見え方が大きく変わってしまう性質がある(図3)。

VA(Vertically Aligned)方式
液晶分子は電圧を掛けない時には垂直に並んでいる。電圧が加わると液晶分子が横に寝て光を通す(図4)。中間階調の時は液晶分子は斜めになっているので,TN方式と同様の視野角依存性が残る。そこで傾く方向を2つに分けたり4つに分けたりして,ある程度お互いに打ち消し合いながら特性を出す。コントラストが取りやすく,最小輝度を小さくできるが,中間調の階調が視野角によって変わってしまう弱点がある。メーカーによってはMVA方式,PVA方式,ASV方式とも言われる。

IPS(In-Plane-Switching)方式
液晶分子は基盤面に平行に並んでいる。電極はバックライト側の片側にのみ配置され,電圧を掛けると水平の電界が発生し,液晶分子が水平方向に回転して光を通す(図5)。液晶分子が斜めに立ち上がることがないため,視野角による光学特性の変化が小さい。現状では最も優れた方式である。

正しい色再現のための評価項目

液晶モニタの画質評価のポイントとしては次の4つがある。
(1)液晶パネルが正しいRGB色座標を備えていること
(2)白の色温度が正しいこと。モニタが色温度調整機能をもつこと。また,それが名目ではなく正しく調整されていること
(3)階調特性(ガンマ値)が正しいこと。モニタがガンマ値調整機能をもつこと。それが名目ではなく正しく調整されていること
(4)視野角による特性の変化が少ないこと。(1)〜(3)までの特性は視野角によって変化するが,その変化量が少ないこと

今後の方向は色域拡大

モニタの色域の標準規格であるsRGBでは,オフセット印刷のCMYKの色域を表現できない部分がある。また高級デジタルカメラがAdobeRGBをサポートしており,それをsRGBのモニタで見ようとすると色域圧縮が起こってしまう。そこでAdobeRGB色域の実現への取り組みが進められている。これによりソフトプルーフ(モニタによる色校正)の利用拡大が期待される。なお,ナナオからはAdobeRGB対応液晶モニタ「ColorEdge CG220」が発売された。

テキスト&グラフィックス研究会  2004年9月21日ミーティングより)

2005/01/23 00:00:00


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