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部分を見て「全体最適」を語る事勿れ!

全体最適化という言葉について批判的に言う業界人がいる。聞いてみると、Drupa等の印刷機材展でJDF関連の展示を見て、そこで展示されている内容は「全体最適」でもなんでもないということらしい。だとすれば批判もあながち間違いとはいえない。何故なら、現時点で紹介されている内容はまさに「全体」の一部でしかないからである。
JDFが、各種の生産設備間および生産設備とMIS(Management Information System:経営管理情報を扱うコンピュータシステム)との間で情報を双方向でやり取りすることを可能にすることによって、プリプレスで作られたデータで製本加工設備の調整部分のプリセットを自動化したり、生産設備の稼働状況を工程管理担当者がリアルタイムで見ることが出来るようになることは全体最適化の部分である。

JDFとの関連で考えるときの「全体最適化」とは、顧客、外注先等の外部組織を含む印刷物制作工程全体を見渡してボトルネックを解消し、さらなるコストダウン、納期短縮を図り、各種の無駄、機会損失を排除しつつ顧客満足度を上げて利益向上を達成しようとするものである。印刷産業の生産現場では相当な合理化が進んだが、未だに手付かずで残されている部分がかなりあり、そのような部分がボトルネックとなってさらなる合理化、スムースな作業進行、顧客満足向上を阻んでいる。

ボトルネックとは以下のようなことである。
・顧客と営業との間の各種情報、原稿・校正等のデータのやり取り
・営業、工務、生産現場、外注先、資材調達先間の(指示、進捗把握、各種連絡・確認等の情報流通
・生産現場各部間における制作データ、生産設備コントロールのためのデータ流通
・ 経営者の判断に必要な各種情報の流通

つまり、非常に多くのボトルネックが、顧客から協力会社、資材調達先を含む範囲における情報、データの流通部分にあるということである。そこで、デジタルネットワークを通じて、必要な情報をリアルタイムで流通させることでボトルネックを解消することが、「全体最適化」と言われる従来にないシステム化である。
全体最適化というときにまず認識すべきことは、その範囲が顧客や協力会社、資材調達先を含むものであるということである。そして、このシステム化のための第一のポイントは、情報流通経路での人の介在を極力減らし、生産設備とMIS、自社のMISと外部組織のMISなど、各種のコンピュータ間で直接、情報、データを交換させることである。ポイントの第二点は、流通する情報を最大限有効に活用するために、このデジタルネットワークの上にさまざまな仕掛けを組み込むことである。仕掛けとは、MISのシミュレーション機能であり、Webであり、EDI/ECである。

全体最適化とは、プリプレスのデジタル化を完了した印刷業界が次ぎに目指すひとつの大きな「ビジョン」である。個々の部分をデジタル化したデジタル化の第一フェーズからそれらをネットワークで結ぶデジタルネットワーク化というデジタル化の第二フェーズにおけるビジョンである。「点」の管理から「線」の管理への移行ということもできるだろう。
このビジョンの達成は、従来にないコストダウンを可能にして競争力を格段に強化するとともに、顧客満足を向上させて売上アップに貢献する。さらに右肩上がりの時代にしか通用しないどんぶり勘定を脱して、経営体質を筋肉質に変えていく。だからこそ、その実現は、単にJDF対応設備を入れれば済むというようなことではないし、現実と目標とのギャップも非常に大きい。だからこそ、ここで成果を出した企業とそうでない企業とには大きな格差が生まれることになる。 このシステム化は、CTP化のようにコストダウンが顧客から丸見えになってしまうようなものではないから、まさに大きな利益を生むものであるとして取り組んでいる中規模印刷会社もある。

全体最適化と聞いても、EDI/ECやMISのシミュレーション機能のことが思い浮かばなかった方は基本認識を見直す必要がある。一方、上記のような全体像を視野に入れて考えている業界人にとっては、ビジョンと現実の距離の遠さに戸惑を感じているのではないだろうか?いずれにしても、部分に偏らず全体を見渡すこと、システムを過信することなく考えること、そして一方では従来からの観念にとらわれないことが肝要であるし、標準化が定着するような体質改善も不可欠である。

来る2月4日に、PAGE2005コンファレンスの一環として MIS/JDFに関する3セッション(「我が社の経営課題とCIMの位置付け」、「全体最適化を実現するMISの要件」、「MIS/JDFのロードマップ」を開催する。 中堅印刷企業が、経営課題の中でどのようにCIMを位置付けるのか?全体最適化の中核となるこれからのMISはどのようなものでなければならないか?そして、システムへの過信、偏重を排除しながら、これらを上手に活用し、実施できるところから実施しながら、発展、成長させ全体最適を実現するロードマップを議論する。
プリプレスのデジタル化の先に、格段の競争力を身につけ、新たな利益の源泉を取り込みたいと考えている方々には是非ご参加いただきたい。

2005/01/26 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会